あなたが職場で「上司を殴ってやりたい」とおっしゃったとします。周囲は「まあ、まあ、落ちついて」「そんなこと言うとまずいよ」と言うかもしれません。
カウンセリングであなたが同じことをおっしゃったら、「それほど大きな怒りを抱えているのですね」「ずっとガマンしてきたのですね」とカウンセラーは受け止めます。その言葉を口にするかもしれませんし、心の中にとどめておくかもしれません。
基本的にカウンセラーは、どのような感情であれ「そのようなことが起きたら、そのような気持ちになるのも理解できる」と肯定的に受け止めます。しかし、そうでないことがあります。
価値観
人には物事を判断したり、評価したりする軸となる価値観があります。人それぞれ固有の価値感を持っています。
価値観がまったく異なることもあれば、

一部を共有することもあるでしょう。

まったくかけ離れていることもありえます。

クライエントさんの価値観がカウンセラー個人の価値観とまったくかけ離れていても(上記の状態でも)、カウンセラーは肯定的に受け入れます。『枠の中にある限り』すべてが正解だからです。
「(私はそのように考えないかもしれないけれど、クライエントさんの立場なら)そう感じるのも理解できる」と受け止めます。
『枠の中にある限り』について話したいと思います。
倫理
無条件で肯定されるのは、倫理の枠の中にある場合です。

図のように正反対の場合は大変かもしれませんが(そもそもこのような2人は夫婦にならないかもしれませんが)、諍いが生じても話し合いなどで着地点にたどりつける可能性が高いです。
倫理の枠から外れる価値観や行動は肯定できません。

倫理を辞書で引くと「人として守るべき道。道徳。モラル」(松村 明(編)2019 大辞林4.0 三省堂編修所)と書かれてあります。人の尊厳や権利の尊重、社会の秩序の維持などのために、社会から求められるあり方と言えます。
倫理から外れる行為としては以下があげられます。
- 人格否定:「あなたは人間のクズだ」「お前は価値のない人間だ」などの発言
- 家族の否定:「文句ばかり、母親そっくり」「あなたの生まれじゃ仕方ない」
- 脅迫:「離婚だ」「俺の家から出て行け」等の暴言で譲歩を迫る
- 権威を振りかざす:「誰のおかげでメシが食えると思ってるんだ」
- 子どもに配偶者の悪口を吹き込む
- 以上の行為を行っている自分の非を一切認めない。
「モラハラやん」と思った人は多いでしょう。モラハラ(モラル・ハラスメント)の一種と断言して差し支えないでしょう。その行為が続く限り、関係が改善する可能性はありません。
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」より
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(略称・通称:配偶者暴力防止法・DV防止法、2001年成立・施行)」のより、「配偶者による暴力」の定義を紹介します。
第一章 総則
(定義)
第一条 この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう。以下同じ。)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項及び第二十八条の二において「身体に対する暴力等」と総称する。)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。
(太字は当サイト管理者によるもの)
「身体に対する暴力」と「心身に有害な影響を及ぼす言動」の2つが定義されています。後者はモラルハラスメントに相当すると考えて良さそうです。
ということは、先にあげた行為は倫理から外れる上、法律に触れる可能性も出てきます。心当たりのある方は自分を省みて下さい。怒りなどの感情をコントロールするのがむずかしいと感じている方は一度ご相談下さい。

当カウンセリングルームでは、身体的な暴力と心身に悪影響を及ぼす言動が深刻な程度に起きている場合、夫婦・カップルお二人でのカウンセリングは行いません。お一人でお越し下さい。カウンセリングでのやりとりが刺激となって、状況を悪化させることがあるからです。
夫婦のモラハラは家庭という密室で行われるため、他者に気づいてもらいにくいことがしばしばです。人格否定の言葉を浴びせ続けられると、疲弊して被害者であることに気づけないことがしばしばあります。しんどいと感じたら早めにご相談下さい。
公的な相談先には「配偶者暴力相談支援センター」「DV相談+」「法テラス」があります。「DV相談+」はメールやチャットでの相談も可能です。DV・モラハラの相談はカウンセラーより、専門機関や夫婦問題に強い弁護士事務所のほうが適切な支援を受けられることが多いです。