
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
パートナーが強迫症(強迫性障害)になったとき、繰り返される確認行為や清潔行動に付き合ううちに、支える側も心身ともに疲弊することがあります。「確認してあげれば安心するだろう」と思って応じ続けても、要求はむしろ増えていくことがあります。
パートナーの確認要求や儀式的な行動に、毎日何時間も巻き込まれていませんか。応じないと不安になるパートナーを見て、罪悪感を感じていませんか。
強迫症のパートナーを支えるために、すべての要求に応じる必要はありません。むしろ、あなたが巻き込まれないことが、パートナーの回復を助けます。境界線を引くことに、罪悪感を持つ必要はないのです。
このページでは、あなた自身を大切にしながら、パートナーを効果的にサポートする方法をお伝えします。
強迫症のパートナーを助けようとする行動が、実は症状を悪化させていることがあります。
「ドアは閉めた?」「ガスは消した?」という確認の要求に、何度も応じていませんか。
一緒に確認すれば安心すると思うかもしれません。しかし、確認に応じれば応じるほど、本人は「確認しないと不安」という状態になっていきます。以下の循環が生じます。
不安 → 確認を求める → 一緒に確認する → 一時的に安心 → すぐに不安 → また確認を求める
この循環の繰り返しに比例して確認の回数は増え、効果は薄れていきます。
手洗いや消毒、掃除などの清潔行動に、一緒に付き合ったり、代わりにやったりしていませんか。
パートナーの不安を和らげようとする気持ちはよくわかります。しかし、清潔行動に協力すると、「やはり汚れているんだ」という信念を強化してしまいます。
また、あなたにも同じ清潔行動を求めるようになることがあります。家族全員が巻き込まれることもあります。
「触らないように」と、パートナーが不安に感じるものを家から排除していませんか。
不安の対象を遠ざければ安心すると思うかもしれません。しかし、避ければ避けるほど、その対象への恐怖は強まります。
さらに、避ける対象は広がっていく傾向があります。最初は一部の物だけだったのが、どんどん範囲が拡大することがあります。
「大丈夫だよ」「何も問題ないよ」と、何度も安心させる言葉をかけていませんか。
優しさから出た言葉でも、繰り返すほど効果は薄れます。本人は「何度も確認しないと安心できない」という状態になっていきます。
また、あなたが保証してくれることで、「自分では判断できない」という依存を強めることがあります。
決まった手順で物を並べる、特定の順番で行動するなどの儀式的行動を、家族全員で守るようになっていませんか。
パートナーを刺激しないようにという配慮からかもしれません。しかし、儀式を尊重しすぎると、「この儀式は本当に必要なんだ」という信念を強化します。
家族全員の生活が制限されていくこともあります。
強迫症について詳しく知る必要はありません。パートナーとして最低限押さえておきたいポイントをお伝えします。
強迫症(強迫性障害)は、本人の意思に反して頭に浮かぶ不快な考え(強迫観念)と、その不安を打ち消すために繰り返される行動(強迫行為)が特徴です。
強迫観念:「汚れているのでは」「戸締りができていないのでは」「誰かを傷つけてしまうのでは」など、繰り返し頭に浮かぶ不安や疑念です。
強迫行為:手洗い、確認、整理整頓、数を数える、特定の言葉を唱えるなど、不安を和らげるために繰り返す行動です。
本人も「やりすぎだ」「不合理だ」とわかっています。しかし、やめられません。強迫行為をやめると、強い不安に襲われるからです。
強迫症にはいくつかのタイプがあります。
一人で複数のタイプを持つこともあります。
以下のような状態が見られる場合は、医療機関(精神科・心療内科)の受診を促して下さい。
本人は「恥ずかしい」と感じて受診をためらうことがあります。「病気は治療できるもの」と伝え、一緒に受診することを勧めて下さい。
強迫症の治療は、主に心理療法(特に曝露反応妨害法)と薬物療法を組み合わせて行われます。
曝露反応妨害法: 不安を引き起こす状況にあえて向き合い(曝露)、強迫行為をせずに我慢する(反応妨害)練習をします。不安は時間とともに自然に下がることを学びます。
ブリーフセラピー: 強迫行為を「なくす」より、強迫行為があっても生活できる方法を探します。「不安を消そうとする試み」が不安を強めているパターンを見つけます。
たとえば、確認すればするほど自信がなくなる循環に気づきます。確認を減らす代わりに、「不安があっても大丈夫」と受け入れる練習をします。うまくいっているとき(強迫行為が少ないとき)に何をしているかに注目します。
薬物療法: 不安を和らげ、心理療法に取り組みやすくする役割を果たします。
回復には数ヶ月から1年以上かかることが多いです。焦らず、段階的に取り組むことが大切です。
症状や治療法について詳しく知りたい場合は、以下のサイトが参考になります。
ここからは、具体的にどう関わればよいのかをお伝えします。
パートナーの確認要求や儀式的行動に付き合ううちに、あなた自身の時間も自由もなくなっていませんか。疲れて、イライラが募っていませんか。
まず、あなた自身が自分の生活を取り戻すことが重要です。すべての要求に応じる必要はありません。
「応じないとパートナーが苦しむ」と思うかもしれません。しかし、応じ続けることは、長期的には症状を悪化させます。
「ドアは閉めた?」と確認を求められたとき、最初の1回は簡潔に応じます。「はい、閉めたよ」と伝えます。
しかし、繰り返し確認を求められても、同じように応じる必要はありません。「さっき伝えたよ」と優しく指摘するか、話題を変えます。
何度も確認に応じることは、不安を強化します。最初の1回で十分です。
清潔行動や整理行動など、パートナーの儀式的行動に参加する必要はありません。
「一緒にやらないと」と求められても、「それはあなたのやり方だから、私はやらないよ」と優しく断ります。
ただし、批判したり、やめさせようとしたりする必要もありません。「あなたはやってもいいけど、私は参加しないよ」というスタンスが望ましいです。
「本当に大丈夫?」「間違いない?」と保証を求められても、最初の1回以降は繰り返しません。
「さっき答えたから、もう答えないよ」と伝えます。冷たく聞こえるかもしれませんが、これは本人のためです。
保証を繰り返すことは、「自分では判断できない」という依存を強めます。
「この部屋には入らないで」「これには触らないで」と、あなたの生活を制限する要求には応じる必要はありません。
「あなたが不安なのはわかるけど、私の生活まで制限することはできないよ」と伝えます。
家族全員が巻き込まれると、本人の症状も悪化します。適度な境界線を保つことが大切です。
医師やカウンセラーと連携することが重要です。可能であれば、受診に同行して下さい。
治療の方針や、家族としてどう関わればよいかを、直接専門家に確認できます。特に、どこまで巻き込まれないようにすべきか、具体的なアドバイスを受けることができます。
曝露反応妨害法では、段階的に不安な状況に向き合う練習をします。この練習は強い不安を伴うため、必ず専門家の指導のもとで行います。パートナーとして、「不安に向き合うべき」と無理に促したり、強迫行為を力ずくで止めようとしたりすることは避けて下さい。あくまで、治療者の計画に沿って、できる範囲でサポートすることが大切です。
確認の回数が減った、手洗いの時間が短くなったなど、小さな進歩を認めて下さい。
「今日は確認が少なかったね」「がんばったね」と、さりげなく伝えます。
ただし、過度に褒めたり、プレッシャーをかけたりする必要はありません。自然に認める程度が望ましいです。
以下のような状況では、カウンセリングや専門機関のサポートを検討して下さい。
これらは、あなた自身がサポートを必要としているサインです。パートナーのためにも、まず自分のケアを優先して下さい。
強迫症は家族を巻き込みやすい病気です。第三者が入ることで、互いの気持ちや状況を整理しやすくなります。
カウンセリングでは、具体的な場面を想定しながら、効果的な対応を一緒に考えることができます。
一人で抱え込まず、外部のサポートを活用して下さい。
当カウンセリングルームでは、パートナーとしてどう関わるかのサポートを行っています。必要に応じて、夫婦でのカウンセリングも可能です。

強迫症(強迫性障害)のパートナーを支えるために大切なのは、以下の3つです。
「安心させよう」「協力してあげよう」という行動が、実は症状を悪化させることがあります。巻き込まれず、できる範囲でサポートすることが、結果的に本人にとっても、あなたにとっても良い結果につながります。
あなたが自分の生活を守ること、適度な距離を保つことが、パートナーの回復を助けます。自分を大切にしながら、パートナーを見守って下さい。