来談者中心療法

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

傾聴

「カウンセリング」と聞いて、カウンセラーが静かに話を聴いている場面を思い浮かべる方は多いと思います。これが来談者中心療法の基本的なスタイルです。

来談者中心療法では、カウンセラーが指示やアドバイスをすることはありません。あなたの話を丁寧に聴き、あなた自身が自分の気持ちや考えに気づいていくことを支援します。

来談者中心療法の考え方

人には自ら成長する力がある

来談者中心療法を提唱したカール・ロジャーズは、人には自ら成長に向かう力が生まれながらに備わっていると考えました。

植物が太陽に向かって伸びていくように、人も自分らしく成長しようとします。ただし、その力が発揮されるには適切な環境が必要です。

カウンセラーの役割は、あなたが持つ力を発揮できる環境を作ることです。

答えはあなたの中にある

悩みの解決策は、カウンセラーが持っているのではありません。あなた自身の中にあります。

カウンセラーが外から答えを与えるのではなく、あなたが自分で答えを見つけていくことを支援します。これが「非指示的」カウンセリングと呼ばれる理由です。

カウンセラーの3つの基本姿勢

来談者中心療法のカウンセラーは、以下の3つの姿勢であなたに関わります。

無条件の肯定的配慮(受容)

あなたの思考、感情、行動を否定しません。どのような気持ちも、どのような考えも、まず受け止めます。

「そんなことを思うなんてダメだ」「その考え方は間違っている」という評価をしません。背景を理解しようとしながら聴きます。

共感的理解

あなたの立場に立って、あなたの世界をあなたの目を通して理解しようとします。

「私ならこう考える」ではなく「この人はこの状況をこう感じているのだ」という理解です。

自己一致

カウンセラーが自分自身に正直であることです。

表面的に優しくしたり、取り繕ったりせず、誠実にあなたと向き合います。カウンセラー自身が自然体でいることが、あなたも自然体でいられる環境を作ります。

こんな時に来談者中心療法が役立ちます

誰かに話を聞いてほしい

パートナーとの関係で悩んでいるけれど、パートナーには話せない。友人に話すのも気が引ける。ただ誰かに聞いてほしい。

来談者中心療法では、評価や批判を受けることなく、安心して話すことができます。

自分の気持ちが分からない

イライラする、不安になる、悲しくなる。でも、なぜそう感じるのか自分でも分からない。

話すことで、自分の気持ちが整理されていきます。カウンセラーが丁寧に聴くことで、あなた自身が自分の気持ちに気づいていきます。

指示やアドバイスではなく理解してほしい

「こうすればいい」という答えを求めているのではない。ただ理解してほしい。分かってほしい。

来談者中心療法は、そうした希望に応えるアプローチです。

自分らしさを取り戻したい

パートナーや周囲の期待に応えようとするうちに、自分が何を感じているのか、何を望んでいるのか分からなくなってしまった。

来談者中心療法では、あなたが自分自身の感覚や価値観に触れ直すことを支援します。

カウンセリングの実際

初回で何をするか

初回のカウンセリングでは、今困っていることや、どのようなことを話したいかを伺います。

来談者中心療法では、カウンセラーが質問攻めにすることはありません。あなたが話したいことを、話したいペースで話していただきます。

セッションの進み方

来談者中心療法には、決まった手順やプログラムはありません。毎回のセッションで、その時に話したいことを話していただきます。

カウンセラーは、あなたの話を丁寧に聴き、時折あなたの言葉を繰り返したり、感じていることを言葉にしたりします。これによって、あなた自身が自分の気持ちや考えを深く理解していきます。

変化はどのように起きるか

話すことで気持ちが整理される。自分の本当の気持ちに気づく。自分を受け入れられるようになる。

こうした変化は、急に起きるものではありません。安心して話せる関係の中で、少しずつ起きていきます。

他のアプローチとの違い

非指示的カウンセリング

家族療法・ブリーフセラピー・認知行動療法では、問題解決に向けて具体的な提案をすることがあります。「こんなことを試してみませんか」といった働きかけです。

来談者中心療法では、そうした働きかけはしません。あなた自身が気づき、変化していくことを待ちます。指示をしないという意味で、非指示的カウンセリングと呼ばれます。

焦点の当て方

家族療法・ブリーフセラピーでは、関係性のパターンに焦点を当てます。あなたとパートナーの間で繰り返されるやり取りを一緒に見ていきます。

来談者中心療法では、パターンよりも、あなた自身の内面に焦点を当てます。あなたが何を感じ、何を望んでいるのか。そこを大切にします。

すべてのカウンセリングの基盤

来談者中心療法は、1940年代にカール・ロジャーズが提唱しました。

ロジャーズは当初、具体的な技法を示していました。しかし次第に、技法よりもカウンセラーの姿勢が大切だと考えるようになりました。

現在では、来談者中心療法は一つの学派というより、すべてのカウンセラーが備えるべき基本的な姿勢として広く共有されています。

当カウンセリングルームでも、ブリーフセラピーや認知行動療法を用いる際にも、来談者中心療法の姿勢を大切にしています。

よくある質問

Q
何も話さなくても大丈夫ですか?
A

大丈夫です。話したいことがまとまらない時、言葉にならない時もあります。沈黙も大切な時間です。無理に話す必要はありません。話せる時に、話せることを話していただければと思います。

Q
どのくらいの期間がかかりますか?
A

人によって異なります。数回で気持ちが整理される方もいれば、時間をかけて取り組む方もいます。来談者中心療法では、期間を決めることよりも、あなたが「もう大丈夫」と感じられることを大切にします。

Q
具体的なアドバイスが欲しい時はどうすればいいですか?
A

来談者中心療法は、具体的な解決策を求めている時には向いていないかもしれません。
その場合は、ブリーフセラピーや認知行動療法の方が適していることがあります。初回のカウンセリングで、あなたの希望を伺いながら、どのアプローチが良いか一緒に考えていきます。

参考文献
  • 下山晴彦編(2009)『よくわかる臨床心理学[改訂新版]』ミネルヴァ書房
  • 諸富祥彦(1997)『カール・ロジャーズ入門―自分が“自分”になるということ』コスモスライブラリー
  • スーザン・ノーレン・ホークセマ,バーバラ・フレデリックソン,ジェフ・ロフタス,クリステル・ルッツ(内田一成翻訳)(2015)『ヒルガードの心理学 第16版』金剛出版
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