りくりゅうの活躍に見るカップルのアタッチメント

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト

りくりゅう演技後のハグのイメージ

日本家族カウンセリング協会の会員向けニュースレター「そよかぜ」の2026年4月号の巻頭エッセイは、理事長の長谷川啓三先生による「リクリュウが示すカップルの秘訣とは?」でした。2人の成功要因は、2人の間に「愛着要求」を満たせる関係があることが大きいと考えるとおっしゃっています。

長谷川啓三先生のエッセイ

2人の演技を見ていると、高い技術だけでは説明しきれないものを感じます。互いを信じる力、失敗しても支え合える関係、そして大きな舞台で安心して挑戦できる土台です。この姿は、心理学でいう「アタッチメント」を考えるうえで、とてもわかりやすい例だと思います。

アタッチメントとは何か

アタッチメントとは、不安なとき、怖いとき、心が崩れそうなときに、安心できる相手に近づき、落ち着きを取り戻そうとする心の働きです。

日本語では「愛着」と訳されることが多いですが、単に「好き」「仲がよい」「べったりする」という意味ではありません。大切なのは、困ったときにその人を頼れること、そしてその人との関係の中で安心を回復できることです。

アタッチメントには、大きく2つの役割があります。

1つ目は「避難所」としての役割です。つらいとき、不安なとき、傷ついたときに戻っていける場所です。相手に受け止めてもらうことで、気持ちが落ち着き、「もう一度やってみよう」と思えるようになります。

2つ目は「基地」としての役割です。安心できる相手がいるからこそ、人は外の世界に向かって挑戦できます。子どもであれば遊びや探索に向かい、大人であれば仕事、表現、競技、人間関係などに向かっていきます。

つまり、アタッチメントは依存を強めるものではありません。安心して戻れる場所があるからこそ、人は前に進み、自分の力を発揮しやすくなるのです。

アタッチメントは子どもだけのものではない

アタッチメントは、もともと子どもと養育者の関係を説明する概念として発展してきました。乳幼児にとって、親や養育者は「怖いときに戻る相手」であり、「安心して外の世界を探索するための土台」です。

しかし、アタッチメントは子どもの時期だけで終わるものではありません。成人にも、安心できる相手を必要とする心の働きがあります。

大人になっても、人は不安になります。仕事で失敗することもあります。人間関係で傷つくこともあります。自信を失うこともあります。そうしたときに、「この人には弱さを見せても大丈夫」「この人は自分を見捨てない」「この人に話せば落ち着ける」と感じられる関係は、大人にとっても大きな支えになります。

夫婦やカップルでは、パートナーがこのアタッチメント対象になることがあります。つまり、配偶者や恋人が「避難所」であり、「基地」になるのです。

夫婦・カップルにおけるアタッチメント

夫婦・カップルの関係で重要なのは、単に一緒にいる時間が長いことではありません。また、会話が多いことや、趣味が合うことだけでもありません。

より大切なのは、不安なときに近づけるかどうかです。弱さを見せても責められないかどうかです。困ったときに助けを求めても、拒絶されないと感じられるかどうかです。

たとえば、次のような感覚がある関係は、アタッチメントが比較的安定している関係といえます。

  • つらいときに、相手に話しても大丈夫だと思える
  • 失敗したときに、責められるだけではなく支えてもらえる
  • 不安を伝えても、面倒くさがられたり否定されたりしない
  • 相手がそばにいると思うと、外の世界で挑戦しやすくなる
  • 自分の弱さを見せても、関係が壊れないと感じられる

このような関係は、夫婦・カップルに安心感をもたらします。そして安心感は、単なる心地よさにとどまりません。人が本来の力を発揮するための土台になります。

誤解しやすいのは、アタッチメントを「相手に頼りすぎること」と考えてしまうことです。

しかし、アタッチメントの本質は、未熟な依存ではありません。むしろ、安心して頼れる関係があるからこそ、人は自立しやすくなります。

子どもは、安心して戻れる大人がいるから、少しずつ養育者から離れて探索できます。大人も同じです。安心できるパートナーがいるからこそ、仕事に挑戦できる。人前に立てる。難しい課題に向き合える。失敗しても、もう一度立ち上がれる。

夫婦・カップルでも、「相手に頼らないこと」が自立なのではありません。必要なときに頼れること、そして頼ったあとにまた自分の足で立てることが、成熟した自立です。

「りくりゅう」に見える安心の力

フィギュアスケートのペア競技は、互いへの信頼が不可欠です。リフト、スロージャンプ、ツイストなど、相手を信じなければ成立しない技が多くあります。ほんの少しのタイミングのずれや迷いが、大きな失敗につながることもあります。

そのような競技で力を発揮するには、技術だけでなく、心理的な安心感も重要です。

失敗しても責められるだけではない。うまくいかないときにも一緒に立て直せる。自分だけで抱え込まず、相手と気持ちを共有できる。そうした関係があるからこそ、大きな舞台でも挑戦できるのではないでしょうか。

長谷川啓三先生が「愛着要求」という言葉で示されたのは、まさにこの点だと思います。人は、どれほど高い能力を持っていても、安心できる関係なしに力を発揮し続けることは難しいものです。特に2人で何かを成し遂げる関係では、互いの中に「この人となら大丈夫」という感覚があることが大きな支えになります。

「りくりゅう」の活躍は、アタッチメントが競技やパフォーマンスにも関わることを示しているように見えます。

夫婦関係の問題をアタッチメントから見る

夫婦関係の相談では、「相手が冷たい」「何度言っても分かってくれない」「話し合いから逃げる」「しつこく責められる」といった悩みがよく語られます。

表面的には性格の不一致やコミュニケーション不足に見えることがあります。しかしアタッチメントの視点から見ると、パートナーは単なる同居人ではなく「避難所」です。だからこそ、相手の反応が「安心」か「脅威」と感じられやすく、「見捨てられたくない」「責められたくない」という気持ちが強く動きやすいのです。

たとえば、一方が不安になると何度も確認する。すると、もう一方は責められているように感じて黙る。黙られると、不安な側はさらに追いかける。追いかけられるほど、もう一方はさらに距離を取る。

このように、安心を求める行動と、自分を守る行動がかみ合わないと、夫婦の間に悪循環が生まれます。どちらのパートナーも相手を傷つけたいわけではなく、それぞれの仕方で安心を求めているのに、その行動がすれ違いを深めてしまうのです。

夫婦・カップルに必要な小さな安心

アタッチメントを安定させるために、特別なことが必要とは限りません。大切なのは、日常の中で「この人は自分を分かろうとしてくれている」と感じられる小さなやり取りです。

たとえば、相手が不安を話したときに、すぐに正論で返さないことです。「そんなことで悩まなくていい」と言う前に、「それは不安だったね」と受け止めることです。

相手が失敗したときに、すぐに責めるのではなく、「大変だったね」「一緒に考えよう」と言えることです。

また、自分自身の反応に気づくことも大切です。「私は不安になると相手を追い詰めてしまう」「私は責められたと感じると黙ってしまう」と分かるだけでも、悪循環を少し外から見られるようになります。

関係を変える第一歩は、相手を変えようとすることだけではありません。2人の間で何が繰り返されているのかに気づき、そのパターンを少し変えることです。

最後に

「りくりゅう」の活躍は、技術、努力、才能だけでなく、2人の間にある安心できる関係の大切さを感じさせます。

アタッチメントとは、不安なときに戻れる「避難所」であり、挑戦するときに支えとなる「基地」です。それは子どもだけでなく、大人にも必要なものです。そして夫婦・カップルにおいては、パートナーがその役割を担うことがあります。

安心できる関係は、人を弱くするのではありません。むしろ、自分の力を発揮し、挑戦し、失敗から回復する力を支えます。

夫婦・カップルにとって大切なのは、完璧な相手になることではありません。不安なときに近づけること。弱さを見せても大丈夫だと思えること。失敗しても一緒に立て直せること。

そのような小さな安心の積み重ねが、2人の関係を支え、人生の大きな挑戦を可能にしていくのだと思います。

この投稿の執筆者
山崎 孝

開業15年、延べ9,000回以上のカウンセリング経験を持つカウンセラー。大阪を拠点に、ブリーフセラピー(短期解決型カウンセリング)と家族療法を主軸に、不倫・浮気、セックスレス、コミュニケーション改善など夫婦・カップルの問題解決をサポートしています。

自身も夫婦関係に困難な時期を経験したことがあり、その経験が来談者の苦しみへの理解につながっていると感じています。理論だけでなく、当事者としての視点からも、来談者の苦しみに向き合うことを大切にしています。

公認心理師(第36732号:厚生労働省)
ブリーフセラピスト・ベーシック(B00196号:国際ブリーフセラピー協会)

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