アタッチメントとは、子どもに不安や恐れなどの感情が生じたとき、特定の誰か(養育者・母親であることが多い)に身体的にくっついて、安心感を得ようとする行為です。
この行為によって、子どもは自分や他者に対する信頼感や安心感を育む基盤となります。また、アタッチメントによって築かれた人間関係のパターンは、生涯にわたって人間関係に影響を与え続けます。
子育てに疲弊している夫婦のエピソード
※以下のエピソードはフィクションです。
夫婦と娘(3才)の3人家族のお話です。妻には子育てに強いこだわりがあります。妻は機能不全家族に育ちました。いわゆるアダルトチルドレンです。娘には自分のような経験を絶対にさせないという強い思いを持っています。
妻は出産を機に退職しました。仕事を続けたい気持ちもありましたが、夫の仕事ぶりから日常の家事・育児参加が困難であること、お互いの実家が遠方であることから専業主婦を選択しました。仕事は好きでした。人間関係が良くて働きやすい職場でした。残念な気持ちは今も残っています。
娘は遠方のインターナショナルスクールに通わせています。食事は可能な限り有機食品。冷凍食品や添加物はもっての外。近くのスーパーは利用できません。おやつは手作りのみ。英語やピアノの習い物。数々のこだわりは、自分と同じ思いをさせないためです。
こだわりが強いため、かける時間と労力が通常より多くなります。時間が足りません。娘と直接関わる時間が極めて少なくなりました。
夫は休日、忙しく動き回る妻を追いかける娘の姿を見て、切ない気持ちになりました。親が娘と直接触れあう時間がもっと必要だと思いました。妻のこだわりは理解できますが、こだわりのために娘と触れあう時間が削られるのは、本末転倒だと思いました。
夫は妻に、食生活や習いごとの見直しを提案しました。しかし、妻は譲りません。家事・育児参加しない夫を責めます。あなたは仕事ができていいわねと言われると、言い返すことができません。
そのようなことが続くうちに、夫婦の会話はギスギスしたものになっていきました。喧嘩になるのもしばしばです。ある日、夫婦喧嘩がヒートアップしたとき、娘が泣きながら止めに入りました。娘のなく姿を見た夫婦は罪悪感に苛まれました。
アタッチメント(愛着)とは

アタッチメントの定義は冒頭で説明した通りです。幼少期の子どもが、不安や恐れなどの感情が生じたときに、特定の誰か(養育者・母親であることが多い)に身体的にくっついて、安心感を得ようとする行為です。単なるスキンシップではなく、気持ちのくっつきという側面の強いものです。
訴えに対して養育者が適切に応答することで、「受け入れられている」「頼っていいんだ」「助けてもらえる」といった、自分と他者に対する信頼感、安心感が育まれていきます。ざっくり言うと、これが自信、自己肯定感といったものにつながっていきます。
アタッチメントスタイルとは、アタッチメントによって形成された人間関係のパターンです。
アタッチメントには4つの型があります。型の測定にはストレンジ・シチュエーション法という実験観察法が使われます。子どもと養育者を部屋に入れて、養育者だけが部屋を出て(分離場面)、後に戻ってきます(再会場面)。分離場面と再会場面の反応を見て分類します。
それぞれの型と対応するアタッチメントスタイルを以下の表に整理しました。
アタッチメント | 養育者の関わり方 | 人間関係のパターン | |
---|---|---|---|
安定型 | 【安定型】 分離時に泣いても、再開場面ではスムーズに養育者を迎え入れる。 | 養育者が一貫して敏感で適切に反応することで形成される。子どもは不安時に養育者に頼ることができ、安心感を得ると再び遊びや探索に戻ることができる。 | 他者と健康で信頼できる関係を築くことが得意。対人関係において安定した行動パターンを示し、困ったときには他者を頼ることができる。 |
不安定型 | 【回避型】 分離場面でさほど混乱を示さず、再開場面を含めて常時、養育者との間に距離を置きがち。 | 養育者が子どものニーズに拒否的だったり、無関心だったりすることで形成される。子どもは不安時にも養育者に依存せず、感情を抑える傾向がある。 | 他者との親密な関係を避ける傾向がある。感情を抑えたり、自分のニーズを伝えることが苦手なため、相手との距離を保ちがちになる。 |
【アンビヴィバレント型】 養育者をスムーズに受け入れられず、怒りを示したりしてぐずぐずした状態を長く引きずる。 | 養育者の応答が一貫していない場合に形成される。子どもは不安時に非常に依存的になるが、養育者の再会時には怒りや混乱を示すことがある。 | 不安定な関係を築きやすい。相手への依存と拒絶が交互に現れるため、対人関係において不安定さや混乱を感じることが多くなる。 | |
【無秩序・無方向型】 顔を背けながら養育者に近づいたり、不自然でぎこちない動きを見せたりする。すくんだり、うつろな表情のまま、動かなくなってしまうなと、養育者にくっつきたいのか、養育者から離れたいのか読み取りにくい。 | 養育者が虐待的または非常に不安定な行動を示す場合に形成されることが多い。子どもは不安定で混乱した行動を示し、アタッチメントが組織化されていない状態。 | 非常に混乱した対人関係を築くことがある。時には相手への反応が極端になることもある。 |
安定型以外の3つをまとめて不安定型として、安定型と不安定型と分類することもあります。
上の表を見ると、安定型の子(人)は健康的な人間関係を作りやすく、不安定型の子(人)は安定した人間関係を作れないことがあるのを理解できるでしょう。「子(人)」としたのは、子どもに限定されるのではなく、幼少期に形成されたアタッチメントスタイルは、その人の生涯にわたって影響し続けるからです。
一生変わらないのか?と不安になるかもしれません。そうではありません。新しい出会いや経験で変化することがあります。カウンセリングの目的の一つは、不安定型のアタッチメントスタイルを安定型に近づけるところにもあります。
アタッチメントの形成における「直接的な関わり」の重要性
エピソードで紹介した夫婦が考えるべきは、子どもの健全な成長には「物質的な豊かさ」や「理想的な環境」よりも、まず「親との直接的な関わり」が最も重要であるという点です。
どれだけ有機食品や高価な習い事にこだわっても、それが親子の絆や子どもの心の安心感を犠牲にするものであれば、その努力は本来の目的から逸れてしまいます。
質の高い時間を共有することの価値
子どもが小さい時期は、親との「質の高い時間」を過ごすことが、安心感を育む重要な要素です。質の高い時間とは、子どもが自分の気持ちを自由に表現し、それを親が受け止める時間です。例えば、一緒に遊ぶ時間や、寝る前の読み聞かせ、子どもの話を真剣に聞く時間などがこれに当たります。こうした時間は、子どもの情緒的な安定を支える基盤となります。
夫婦間の協力とコミュニケーションの大切さ
夫婦が協力して子育てに向き合うことで、子どもにとっての安心感がさらに増します。現在のエピソードでは、夫が妻のこだわりを理解しつつも、もっと柔軟なアプローチを提案しています。このような夫婦間のオープンなコミュニケーションと協力が、家庭全体の安定感を高める要因となります。
こだわりの見直しと柔軟な対応
「子どもにとって何が本当に大切なのか」を夫婦で話し合い、共通理解を持つことが大切です。例えば、こだわりのある食生活や習い事は子どもにとって重要なことかもしれませんが、それが親子関係に負の影響を与えるのであれば、優先順位を見直す必要があります。バランスの取れた生活が、子どもの健全な発達には不可欠です。
家族の優先順位を再考する
まとめ
夫婦が協力して子育てに取り組むこと、そして子どもの情緒的なニーズに応じた柔軟なアプローチをすることが、健全なアタッチメントを育む鍵です。理想の子育てを目指すあまり、最も重要な「親子の絆」を見失わないようにすることが大切です。