語ることの意味

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

東日本大震災から12年が過ぎました。亡くなられた方々に哀悼の意を表するとともに、御遺族の皆様にお悔やみを申し上げます。また、復旧・復興に向けて尽力してこられた被災者の方々、関係者の方々すべてに対して敬意を表します。

3月10日(金)のガイアの夜明け(テレビ東京)を録画視聴しました。東日本大震災によって甚大な被害を受けた地域の一つ、宮城県南三陸町の各地をめぐる「語り部バス」が紹介されていました。

この語り部には2つの機能があると思います。

1つ目は、震災を風化させず、次世代へ教訓を語り継ぐこと。語り部本来の機能です。

2つ目は、語り部に限ることではありません。語りとは、心に傷を負った人が、その体験の記憶・感覚・感情を整理して、統合するプロセスでもあります。トラウマから回復するプロセスです。

トラウマとは、強烈なショック体験による心の傷です。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。虐待やDVなど長期にわたって継続的に繰り返される体験によるものを複雑性PTSDといいます。

通常の記憶は整理されて色あせて、時間的にも感情的にも色あせた過去の記憶になっています。トラウマ記憶は感覚や感情が整理されていません。断片化して新鮮なまま冷凍保存している状態です。ふとしたきっかけ記憶がよみがえり、まさに今この瞬間に起きている体験をします。いわゆるフラッシュバックです。

断片化している感覚や感情を整理して統合させるのは、言葉にして語ることです。語ることで過去の出来事として整理されていきます。それが回復のプロセスです。次世代へ伝えるために語り継ぐ営みは、語り部ご自身の心の傷が回復するプロセスでもあるはずです。

番組では語り部の言葉に耳を傾ける大学生が紹介されていました。彼らの姿に希望を感じました。

【参考ページ】
2023年3月10日放送 「3.11」を忘れず 今を生きるガイアの夜明け20周年企画 第11弾|ガイアの夜明け : テレビ東京
https://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber4/preview_20230310.html (令和5年3月12日閲覧)

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