アタッチメント(愛着)と夫婦関係:大人にも必要な情緒的つながり

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

情緒的な絆が築かれているカップル

前回の記事では、子どもの健全な成長にアタッチメント(愛着)が不可欠であることを説明しました。実は、アタッチメントが重要なのは子どもだけではありません。大人になってからも、特に夫婦関係において、アタッチメントは私たちの関係性を支える大切な土台となっています。

この記事では、幼少期に形成されたアタッチメントが大人になってからの夫婦関係にどのような影響を与えるのか、そして夫婦関係を通じてアタッチメントがどのように変化しうるのかを解説します。

アタッチメントとは:基本の再確認

アタッチメントとは、もともと「くっつく」「付着する」といった意味を持つ言葉です。不安なときに特定の人に身体的・情緒的にくっつくことで安心感を得ようとする行動や、その結果として育まれる情緒的な絆のことを指します。

幼少期のアタッチメント経験を通じて形成される、自分や他人に対するイメージの型のことを、専門用語で内的作業モデルといいます。

内的作業モデル:「自分は愛される価値がある人間か」「他者は信頼できる存在か」といった、自分と他者に関する基本的な信念のこと。この信念が、私たちが人間関係を構築する際の「ひな形」になる。

内的作業モデルは生涯にわたって影響を及ぼしますが、様々な経験、特に親密な関係性を通じて変化することがあります。夫婦関係は、アタッチメントスタイルが変化する重要な機会の一つです。

アタッチメントの基本については、以下の投稿を参照してください。

親子関係と夫婦関係のアタッチメントの違い

親子関係のアタッチメントと夫婦関係のアタッチメントには違いがあります。

親子関係のアタッチメントは非対称的です。子どもは親に安心感を求めますが、親は子どもに安心感を求めません。親は子どもの「安全基地」となり、子どもを守り、支える役割を担います。

一方、夫婦関係のアタッチメントは対称的です。お互いが相手に安心感を求め、お互いが相手の「安全基地」となります。困ったときには支え合い、不安なときには頼り合う、相互的な関係です。

この違いを理解することは、夫婦関係を考える上で重要です。夫婦は、どちらか一方が支える側、支えられる側に固定されるのではなく、状況に応じてお互いに支え合う関係を築くことが大切です。

大人のアタッチメント:4つのタイプ

大人のアタッチメントスタイルとして、アダルト・アタッチメント・インタビュー(AAI)による4つのタイプを紹介します。AAIは、過去の養育者との関係について語ってもらい、現在の人間関係についての質問に答えてもらう面接法です。

4つのタイプとは、安定自律型、軽視型、とらわれ型、未解決型です。それぞれ、子どもの頃のスタイルである安定型、回避型、アンビバレント型、無秩序・無方向型が、大人になってどのように表現されるかを示したものです。

安定自律型

子どもの安定型に対応します。人と親しくなることも、一人でいることも無理なくできます。気持ちを素直に伝えられ、問題が起きても話し合いで解決しようとします。過去の家庭環境についても、落ち着いて振り返ることができます。

  • 人と親密になることが比較的容易
  • 必要なときには頼ることができ、頼られることにも心地よさを感じる
  • 見捨てられることへの不安が少ない

軽視型

子どもの回避型に対応します。「人に頼らなくても大丈夫」と考えやすいタイプです。親密になりすぎることを避け、感情をあまり表に出しません。過去について深く考えない傾向があり、心の距離を保つことで自分を守っています。

  • 自分自身のことについて隠す傾向がある
  • 自己充足(自分は大丈夫、他人は不要)することで他者との距離を保とうとする
  • 親密な関係を避ける傾向

とらわれ型

子どものアンビバレント型に対応します。不安傾向が強いタイプです。人との関係に強い不安を感じやすいタイプです。相手に嫌われないか気になり、愛情や確認を強く求めます。感情の波が大きく、過去のつらい経験を今も引きずりやすい傾向があります。

  • パートナーの親密性、承認、応答性を強く求める
  • パートナーが自分と同じようには望んでいないことに不安を感じやすい
  • 見捨てられることへの強い不安

未解決型

子どもの無秩序・無方向型に対応します。回避傾向と不安傾向の両方が強いタイプです。大きな喪失や心の傷が整理されないまま残っている状態です。その影響で、人との距離感が不安定になりやすくなります。安心したい気持ちと怖さが同時に出てくることがあります。他のタイプに重なって現れます。

  • 他者との親密な関係を求めているものの、近づきすぎたら相手から傷つけられるのではないかという恐れや不安がある
  • 相手を完全に信頼したり、相手に頼ったりするのが難しい

未解決型と聞くと不安になるかもしれませんが、これは過去の傷つきがまだ癒えていないサインでもあります。その傷を見つめ直すことで、安定へと向かうことができます。

回避傾向と不安傾向

これらの4つのタイプは、回避傾向不安傾向という2つの次元で理解することもできます。

回避傾向:他者との親密さに対して心地よさを感じない程度。「人に頼るより、自分で何とかしたい」という傾向。

不安傾向:他者に見捨てられることへの不安の程度。「パートナーは本当に私を愛しているのだろうか」という不安。

4つのタイプの回避および不安傾向の強さを整理すると以下のようになります。

安定自律型軽視型とらわれ型未解決型
回避傾向低い高い低い高い
不安傾向低い低い高い高い

ただし、アタッチメントですべてが決まるわけではないことを付け加えておきます。人間関係には様々な要因が関わっており、アタッチメントはその一つの側面にすぎません。

夫婦関係における3つのパターン

回避傾向と不安傾向の組み合わせによって、夫婦関係には典型的ないくつかのパターンが見られます。

安定型カップル

双方のアタッチメントが安定している場合、お互いに自分の気持ちを素直に伝え、相手の気持ちを尊重することができます。

  • 困ったときに「助けてほしい」と言える
  • 相手の求めに応じて適切にサポートできる
  • 必要なときには一人の時間も確保できる
  • お互いの自立と依存のバランスが取れている

不安型の課題

どちらか一方、または両方が不安傾向が強い場合、以下のような課題が生じやすくなります。

  • パートナーの愛情を常に確認したくなる
  • 少しの距離感や冷たさにも敏感に反応してしまう
  • 「私のことを本当に愛しているの?」と繰り返し確認したくなる
  • パートナーが自分の期待通りに反応しないと、強い不安や怒りを感じる

このような状態が続くと、パートナーは「何をしても満足してもらえない」と感じ、お互いに疲弊してしまうことがあります。

回避型の課題

どちらか一方、または両方が回避傾向が強い場合、以下のような課題が生じやすくなります。

  • 困っていても「大丈夫」と言ってしまう
  • 自分の気持ちを素直に表現することが苦手
  • パートナーが近づいてくると距離を取りたくなる
  • 深刻な話し合いを避けたくなる

このような状態が続くと、パートナーは「私たちの間に壁がある」と感じ、孤独感や寂しさを抱えることになります。

よく見られる組み合わせ:追う・逃げるパターン

夫婦関係に困難が生じている際、非常によく見られるのが「追う・逃げる」の悪循環です。これは、不安傾向の高いパートナーと、回避傾向の高いパートナーの組み合わせによって生じる、典型的な相互作用といえます。

  1. 不安傾向の強いパートナーが親密さを求める
  2. 回避傾向の強いパートナーが距離を取る
  3. 距離を取られることで不安がさらに高まり、もっと追いかける
  4. 追いかけられることで窮屈さを感じ、さらに距離を取る

もちろん、夫婦の課題には性格の不一致や生活環境、ストレスなど様々な要因が絡み合っており、アタッチメントスタイルがすべてではありません。また、「どちらが追い、どちらが逃げるか」は固定されたものではなく、相手との関係性の中で相対的に入れ替わることもあります。

夫婦関係がアタッチメントを変える可能性

幼少期に形成されたアタッチメントスタイルは生涯にわたって影響を及ぼしますが、決して変えられないものではありません。特に夫婦関係は、アタッチメントスタイルが変化する重要な機会となります。

変化のメカニズム

アタッチメントスタイルが変化するのは、新しい関係性の中で、これまでとは違う体験を積み重ねることによってです。

例えば、回避傾向が強かった人が、パートナーとの関係の中で次のような体験を繰り返すことで、少しずつ変化が起こることがあります。

  • 困っていることを打ち明けても、拒絶されなかった
  • 助けを求めたら、温かく応えてくれた
  • 弱い部分を見せても、受け入れてもらえた

こうした体験が積み重なることで、「人に頼っても大丈夫なんだ」「自分は受け入れられる存在なんだ」という新しい信念が形成されていきます。

変化には時間がかかる

ただし、アタッチメントスタイルは比較的安定した特性であるため、容易には変化しません。幼少期から何十年もかけて形成されたパターンは、そう簡単には変わらないのです。

夫婦関係を通じてアタッチメントスタイルが変化するには、長期的な取り組みと、お互いのアタッチメントスタイルへの理解が必要です。

相互理解から始める

アタッチメントスタイルを変えようとする前に、まず大切なのはお互いのアタッチメントスタイルを理解することです。

  • パートナーの行動の背景を理解する:「冷たい」「しつこい」と感じる相手の行動は、実はアタッチメントスタイルから来ているのかもしれません。
  • 自分のパターンに気づく:自分がどのような場面で不安になったり、距離を取りたくなったりするのかを観察してみましょう。
  • お互いのニーズを尊重する:相手のニーズは自分と違うかもしれませんが、それを否定せずに理解しようとする姿勢が大切です。

安定した関係性を築くために

アタッチメントスタイルの変化を促すために、夫婦で以下のような取り組みを心がけることが助けになります。

  • 安心できる時間を作る:定期的に二人でゆっくり話す時間を持つことで、安心感が育まれます。
  • 小さな信頼の積み重ね:約束を守る、困ったときに助け合うといった小さな行動の積み重ねが、信頼関係を強化します。
  • 感情を適切に表現する練習:「寂しい」「不安」といった感情を、攻撃的にならずに伝える練習をしてみましょう。
  • パターンを中断する工夫:「追う・逃げる」といった悪循環に気づいたら、意識的に違う行動を取ってみることも効果的です。

アタッチメントに着目したカウンセリング

スー・ジョンソン(Sue Johnson)のEFT(感情焦点化療法)は、アタッチメント理論を中核に置いた夫婦・カップルの心理療法です。

EFTでは、夫婦やカップルの関係を「大人同士の愛着関係」と捉えています。つまり、パートナーは単なる生活上の協力者ではなく、心理的に安心できる「安全基地」や「避難場所」の役割を持つ存在だと考えます。

お互いのアタッチメントスタイルの理解

カウンセリングでは、まずお二人それぞれのアタッチメントスタイルを理解することから始めます。自分や相手の行動パターンの背景にあるものが見えてくると、「なぜそうなってしまうのか」への理解が深まります。

表面的な行動の背後にある感情へのアクセス

EFTの視点を取り入れながら、表面的な「責める」「黙る」といった行動の背後にある、本当の感情にアクセスしていきます。

  • 「怒り」の背後にある「寂しさ」や「不安」
  • 「無関心」の背後にある「無力感」や「恐れ」

こうした深い感情をお互いに共有できるようになると、関係性が変化し始めます。

パターンの中断

「追う・逃げる」のような悪循環のパターンに陥っている場合、そのパターンを中断するための具体的な方法を一緒に考えていきます。

ブリーフセラピーの視点からは、「問題を解決しようとする試みが、かえって問題を維持・悪化させている」ことがよくあります。例えば:

  • つながりを求めて「もっと話そう」と迫る → パートナーがさらに引きこもる
  • 批判を避けるために「黙る」 → パートナーがさらに不安になって追いかける

この悪循環を理解し、違う対応を試してみることで、関係性に変化が生まれることがあります。

安全な場での対話

カウンセリングの場は、安全に気持ちを表現し、お互いの話を聞くための「第三の場所」となります。日常生活では言いにくいことも、カウンセラーがサポートする中で伝えやすくなることがあります。

特にEFTでは、カウンセラーが「情緒的な通訳者」となって、一方の本当の気持ちをもう一方に伝わりやすい形で伝えるサポートをします。

新しい関わり方の体験

カウンセリングの場で、これまでとは違う関わり方を実際に体験していただくことができます。

  • 批判せずに自分の不安を伝える練習
  • 黙り込まずに、自分の本当の気持ちを言葉にする練習
  • パートナーの訴えを、防衛せずに受け止める練習

こうした新しい体験の積み重ねが、アタッチメントスタイルの変化につながっていきます。

まとめ

アタッチメントは子どもだけでなく、大人の人間関係、特に夫婦関係においても重要な役割を果たしています。幼少期に形成されたアタッチメントスタイルは、確かに私たちの関係性のあり方に影響を与えますが、決して変えられないものではありません。

お互いのアタッチメントスタイルを理解し、受け止めながら、安定した関係性を築いていくこと。そのプロセスの中で、少しずつアタッチメントスタイルが変化していく可能性があります。

もし、夫婦関係の中でアタッチメントに関連する課題を感じている場合は、カウンセリングを通じてサポートを受けることも一つの選択肢です。一人で抱え込まず、専門家の力も借りながら、お二人にとってより良い関係性を築いていっていただければと思います。

参考文献
  • 数井みゆき (編), 遠藤利彦 (編) 2005 アタッチメント:生涯にわたる絆 ミネルヴァ書房
  • 遠藤利彦 (著, 編) 2021 入門 アタッチメント理論 臨床・実践への架け橋 日本評論社
  • 遠藤利彦 (監修) 2022 アタッチメントがわかる本 「愛着」が心の力を育む 講談社
  • スー・ジョンソン (著), 岩壁茂 (監修), 白根伊登恵 (翻訳) 2014 私をギュッと抱きしめて―愛を取り戻す七つの会話 金剛出版

この投稿の執筆者
山崎 孝

大阪を拠点に夫婦・カップルのカウンセリングを行っています。ブリーフセラピー(短期解決型カウンセリング)と家族療法を主軸に、不倫・浮気からの関係修復、フラッシュバック・トラウマ症状のケア、セックスレスの悩み、コミュニケーションの改善などをサポートしています。

自身も夫婦関係に困難な時期を経験したことがあり、その経験が来談者の苦しみへの理解につながっていると感じています。理論だけでなく、当事者としての視点からも、来談者の苦しみに向き合うことを大切にしています。

<資格>
公認心理師(第36732号:厚生労働省)
ブリーフセラピスト ベーシック(B00196号:国際ブリーフセラピー協会)
家族相談士(第2021号:家族心理士・家族相談士資格認定機構)

カウンセラーの詳しいプロフィール

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