
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
パートナーが適応障害と診断されたとき、「自分がもっと支えなければ」と思うかもしれません。しかし、支えようとするあまり、自分自身も疲弊してしまうケースがあります。
パートナーのことが心配で、自分のことは考えられなくなっていませんか。「自分が楽しむなんて申し訳ない」と、自分の時間や楽しみを我慢していませんか。
パートナーを支えるために、あなた自身のケアを後回しにする必要はありません。むしろ、あなたが自分を大切にすることが、パートナーにとっても安心につながります。自分の時間を持つこと、楽しむことに、罪悪感を持つ必要はないのです。
この記事では、あなた自身を大切にしながら、パートナーを効果的にサポートする方法をお伝えします。
適応障害のパートナーに対して、よかれと思ってやっている行動が、実は状況を悪化させていることがあります。
「もっとこうすればいいのに」「こういう考え方をしてみたら?」と、解決策を提案していませんか。
パートナーはすでに十分がんばっています。それでもうまくいかなかった結果が適応障害です。アドバイスは「まだ努力が足りない」というメッセージに聞こえることがあります。
また、適応障害になると判断力や集中力が低下します。アドバイスを理解したり実行したりするのがむずかしい状態です。
一緒に暮らしているからこそ、本人の課題が見えることがあります。「もっと人に頼ればいいのに」「完璧主義をやめたら楽になるのに」と思うかもしれません。
その指摘は正しいかもしれません。しかし、今がそれを伝えるタイミングでしょうか。
本人は今、ストレスに圧倒されて心身のバランスを崩している状態です。自分を変えることに取り組む余裕はありません。
改善点の指摘は、回復してから、医師やカウンセラーと相談しながら行うのが望ましいです。
ストレスの原因が職場の人間関係だとわかったとき、「上司に相談してあげようか」「一緒に会社に話に行こうか」と提案していませんか。
パートナーを守りたい気持ちはよくわかります。しかし、本人の意思を確認せずに介入すると、「自分では何もできない」という無力感を強めることがあります。
本人ができること、手伝いが必要なことを、一緒に整理してから動くのが望ましいです。
パートナーの負担を減らそうと、家事や育児、各種手続きをすべて引き受けていませんか。
サポートは必要です。しかし、何もかも代わりにやると、本人の「できること」まで奪ってしまいます。
また、あなた自身の負担が大きくなりすぎると、イライラや疲労が溜まります。それが関係のギクシャクにつながることもあります。
「もう少しだよ」「きっと乗り越えられるよ」という言葉は、励ましのつもりでも、本人には「まだがんばれ」と聞こえることがあります。
適応障害は、がんばった結果、適応できなくなった状態です。励ましより、労いと共感が必要です。
適応障害について詳しく知る必要はありません。パートナーとして最低限押さえておきたいポイントをお伝えします。
適応障害は、明確なストレス要因があり、その要因が取り除かれれば症状が改善します。うつ病は原因が多岐にわたり、原因がはっきりしないこともあります。
適応障害はうつ病の手前と考えられています。早めの対処で回復が見込めますが、放置するとうつ病に移行する可能性があります。
以下のような状態が続いている場合は、医療機関(精神科・心療内科)の受診を勧めて下さい。
本人が受診を嫌がる場合は、まずかかりつけ医に相談する方法もあります。
適応障害の治療は、ストレス要因への対処とカウンセリングが中心です。必要に応じて薬物療法も行われます。
ストレス要因が職場であれば、異動や休職といった環境調整が検討されます。カウンセリングでは、ストレス対処法を身につけるサポートを行います。
回復には数週間から数ヶ月かかります。焦らず見守ることが大切です。
症状や治療法について詳しく知りたい場合は、以下のサイトが参考になります。
ここからは、具体的にどう関わればよいのかをお伝えします。
パートナーが苦しんでいるとき、自分のことは後回しにしがちです。しかし、あなたが疲弊してしまったら、誰がパートナーを支えるのでしょうか。
自分のケアは、パートナーを支え続けるための必須条件です。
「パートナーが苦しんでいるのに、自分が楽しむなんて」と思うかもしれません。しかし、あなたが元気でいることが、結果的にパートナーの安心につながります。
パートナーが話すときは、解決策を提案せず、ただ聞くだけで十分です。
話したくなさそうなときは、無理に聞き出す必要はありません。「話したくなったら聞くよ」と伝えておくだけで十分です。
すべてを代わりにやる必要はありません。パートナーが「できること」と「むずかしいこと」を一緒に整理してみて下さい。
たとえば、料理は難しくても、洗濯物を畳むことはできるかもしれません。できることは本人にやってもらい、むずかしいことだけサポートします。
これは、本人の自信の回復にもつながります。
「早く元気になってほしい」と思うのは自然です。しかし、回復を急かすと、本人にプレッシャーを与えます。
職場復帰の時期、家事や育児の再開など、焦らず本人のペースを尊重して下さい。医師やカウンセラーとも相談しながら進めるのが望ましいです。
ずっと一緒にいる必要はありません。パートナーが一人でいたそうなときは、そっとしておきます。
あなたも自分の時間を持って下さい。互いに適度な距離を保つことが、長期的に支え合える関係につながります。
以下のような状況では、カウンセリングや専門機関のサポートを検討して下さい。
これらは、あなた自身がサポートを必要としているサインです。パートナーのためにも、まず自分のケアを優先して下さい。
パートナーのために相談に行くのではなく、「自分のため」に相談することが大切です。
適応障害のストレス要因が夫婦関係にある場合、夫婦でカウンセリングを受けることが効果的です。第三者が入ることで、互いの気持ちや状況を整理しやすくなります。
当カウンセリングルームでは、夫婦関係の改善に向けたサポートを行っています。
一人で抱え込まず、外部のサポートを活用して下さい。
カウンセリングでは、あなた自身の気持ちの整理や、具体的な対処法を一緒に考えることができます。

適応障害のパートナーを支えるために大切なのは、以下の3つです。
「良かれ」と思ってやっていることが、実は本人を追い詰めていることがあります。がんばりすぎず、できる範囲でサポートすることが、結果的に本人にとっても、あなたにとっても良い結果につながります。
適応障害は回復が見込める状態です。焦らず、あなた自身も大切にしながら、パートナーを見守って下さい。