
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
パートナーが双極症(双極性障害)になったとき、気分の激しい波に振り回されて、支える側も心身ともに疲弊することがあります。躁状態のときの衝動的な行動や、うつ状態のときの深い落ち込みに、どう対応すればよいのか戸惑うことも少なくありません。
パートナーの気分の波に合わせて、あなた自身も一喜一憂していませんか。躁状態のときは一緒に盛り上がり、うつ状態のときは一緒に沈んでいませんか。
双極症のパートナーを支えるために、あなた自身が気分の波に巻き込まれる必要はありません。むしろ、あなたが一定の落ち着きを保つことが、パートナーにとって安定の支えになります。自分のペースを守ることに、罪悪感を持つ必要はありません。
このページでは、あなた自身を大切にしながら、パートナーを効果的にサポートする方法をお伝えします。
双極症のパートナーを助けようとする行動が、実は状況を悪化させていることがあります。
うつ状態から抜け出して活発になると、「やっと元気になった」と喜んでいませんか。
気分が上向くのは良いことに見えます。しかし、それが躁状態の始まりかもしれません。躁状態を「回復」と捉えて、一緒に盛り上がったり、本人の計画に同調したりすると、症状を悪化させる可能性があります。
躁状態では判断力が低下し、衝動的な行動(浪費、不適切な対人関係、無謀な計画など)をとることがあります。それを止めずに支持すると、後で本人が後悔する結果を招きます。
「もう大丈夫そうだから」と、本人が薬をやめることに同意していませんか。
調子が良いときに「もう薬はいらない」と考えるのは、双極症でよく見られるパターンです。しかし、服薬の継続は再発予防に不可欠です。
パートナーが「薬をやめたい」と言ったとき、簡単に同意すると、再発のリスクを高めます。医師と相談せずに服薬を中断することは避けるべきです。
躁状態で浪費したり、問題を起こしたりしたとき、あなたがすべて後始末をしていませんか。
パートナーを守りたい気持ちはよくわかります。しかし、毎回あなたが尻拭いをすると、本人は「何をしても大丈夫」という感覚を持つことがあります。
適度に本人が結果に向き合うことも、病気の自覚と対処法の学習につながります。
うつ状態のときの深い落ち込みに共感するあまり、あなた自身も落ち込んでいませんか。
共感は大切です。しかし、一緒に落ち込むと、二人とも暗い気分の中に沈んでいきます。あなたが落ち着いていることが、パートナーの支えになります。
躁状態とうつ状態で、あなたの態度や対応が大きく変わっていませんか。
気分の状態によって多少の配慮は必要です。しかし、極端に対応を変えると、本人は「自分の気分で周りが振り回される」という認識を強めることがあります。
基本的な態度は一貫させ、必要に応じて調整する程度が望ましいです。
双極症について詳しく知る必要はありません。パートナーとして最低限押さえておきたいポイントをお伝えします。
双極症(双極性障害)は、気分が高揚する躁状態と、気分が落ち込むうつ状態を繰り返す病気です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。
躁状態:気分が異常に高揚し、活動的になります。睡眠時間が減っても平気、次々とアイデアが浮かぶ、おしゃべりになる、衝動的な行動をとる、などの特徴があります。
うつ状態:気分が落ち込み、何に対しても興味を失います。疲れやすい、眠れない、自分を責める、などの症状が現れます。
双極症には、躁状態が激しい「双極Ⅰ型」と、比較的軽い躁状態(軽躁状態)の「双極Ⅱ型」があります。
うつ病と双極症は、うつ状態の症状が似ているため、最初はうつ病と診断されることがあります。しかし、治療法が異なるため、正確な診断が重要です。
双極症の治療に抗うつ薬を使うと、躁転(うつ状態から躁状態に急激に変わること)を引き起こすリスクがあります。
以下のような状態が見られる場合は、医療機関(精神科・心療内科)の受診を促してください。
躁状態では、本人は「調子が良い」と感じるため、受診を拒むことがあります。できれば、気分が落ち着いているときに、医師に相談することを勧めてください。
双極症の治療は、主に薬物療法と心理療法を組み合わせて行われます。
薬物療法: 気分安定薬が中心です。躁状態とうつ状態の両方を予防し、気分の波を抑えます。長期的な服薬が必要です。
心理療法: 病気の理解、気分の波のパターンの把握、ストレス対処法の習得などに取り組みます。
ブリーフセラピー: 気分の波を完全になくすことは難しくても、波が小さいときに何をしているかに注目します。症状が悪化する前兆に気づき、早めに対処する方法を身につけます。
双極症は再発しやすい病気ですが、適切な治療と生活習慣の調整で、症状をコントロールできます。回復には時間がかかり、良い時期と悪い時期を繰り返しながら安定に向かいます。
症状や治療法について詳しく知りたい場合は、以下のサイトが参考になります。
ここからは、具体的にどう関わればよいのかをお伝えします。
パートナーの気分の波に巻き込まれて、あなた自身も気分が不安定になっていませんか。躁状態のときは疲れ、うつ状態のときは落ち込んでいませんか。
まず、あなた自身が一定の落ち着きを保つことが重要です。あなたが気分の波に乗ってしまうと、家庭全体が不安定になります。
「パートナーが苦しんでいるのに、自分が楽しむなんて」と思う必要はありません。あなたが安定していることが、パートナーにとって最大の支えです。
躁状態で盛り上がっているときも、うつ状態で落ち込んでいるときも、一定の距離感を保ちます。
過度に同調したり、過度に心配したりせず、落ち着いた態度で接してください。「あなたは今、躁(うつ)の状態だね」と、冷静に状況を認識していることを伝えます。
感情的にならず、事実を淡々と伝えることが大切です。
躁状態で無謀な計画を立てたり、大きな買い物をしようとしたりしたとき、止める必要があります。
「今は判断力が低下している時期だから、落ち着いてから決めよう」と伝えます。可能であれば、重要な決断や大きな買い物を制限する方法を、あらかじめ医師と相談しておくのが望ましいです。
ただし、すべてをコントロールしようとすると、本人は反発します。優先順位をつけて、本当に重要なことだけ介入します。
双極症の治療では、服薬の継続が最も重要です。
調子が良いときに「もう薬はいらない」と言い出したら、「医師と相談してから決めよう」と提案します。決して、あなたの判断で服薬の中断に同意しないでください。
服薬を管理しすぎる必要はありませんが、「薬を飲んだ?」と確認することが、継続の助けになることもあります。
うつ状態のときは、うつ病のパートナーへの対応と基本的に同じです。
励まさない、原因を追及しない、普段通りに接する、などが原則です。ただし、双極症の場合、うつ状態は一時的なものと理解しておくことが大切です。
「これは病気の一部で、また気分は上向く」という見通しを持っていると、あなた自身が落ち込みすぎずに済みます。
双極症では、生活リズムの乱れが症状の悪化につながります。
規則正しい睡眠、食事、活動のリズムを保つことが予防に役立ちます。パートナーが生活リズムを整えるのを、さりげなくサポートしてください。
ただし、過度に管理しようとすると、本人の自立を妨げます。できる範囲での協力にとどめます。
どんなときに躁状態やうつ状態になりやすいか、前兆はどんなものか、を一緒に把握します。
パターンがわかると、早めに対処できます。「最近、睡眠時間が減ってきたね」「ちょっと落ち込みが強いかもしれないね」と、冷静に伝えることができます。
医師やカウンセラーと共有することで、より効果的な対処が可能になります。
以下のような状況では、カウンセリングや専門機関のサポートを検討してください。
これらは、あなた自身がサポートを必要としているサインです。パートナーのためにも、まず自分のケアを優先してください。
双極症は夫婦関係に大きな影響を与えます。第三者が入ることで、互いの気持ちや状況を整理しやすくなります。
カウンセリングでは、具体的な場面を想定しながら、効果的な対応を一緒に考えることができます。
一人で抱え込まず、外部のサポートを活用してください。
当カウンセリングルームでは、パートナーとしてどう関わるかのサポートを行っています。必要に応じて、夫婦でのカウンセリングも可能です。

双極症(双極性障害)のパートナーを支えるために大切なのは、以下の3つです。
「一緒に盛り上がろう」「一緒に落ち込もう」という行動が、実は症状を悪化させることがあります。がんばりすぎず、できる範囲でサポートすることが、結果的に本人にとっても、あなたにとっても良い結果につながります。
あなたが一定の落ち着きを保つこと、自分のペースを守ることが、パートナーにとって最大の安定の支えです。自分を大切にしながら、パートナーを見守ってください。