
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
夫婦の一方がうつ病になると、パートナーも感情的に巻き込まれたり、落ち込んだりすることがあります。支えようとがんばりすぎて、共倒れになることがあります。気持ちを受け止めながら、ご自身はできるだけ普段通り過ごすことが望ましいです。
悲しい出来事やつらい体験をしたとき、一時的に気分が落ち込む等の抑うつ状態になるのは、誰にでもあることです。抑うつ状態が長く続き、日常生活に支障を来すようになった場合、うつ病の可能性があるかもしれません。
うつ病は、心身のエネルギーが欠乏している状態と考えるとわかりやすいです。気分の落ち込みや興味・喜びの喪失は、心のエネルギーの欠乏によるものです。食欲・睡眠・疲労等の不調は、身体のエネルギーの欠乏によるものです。
パートナーに抑うつ状態が見られるときは、医療機関(専門は精神科・心療内科)の受診を促して下さい。可能であればパートナーも一緒に受診して下さい。本人が自分の状態を上手く伝えられないとき、パートナーがサポートできます。
本人が精神科・心療内科の受診を嫌がる場合は、かかりつけ医に相談して下さい。かかりつけ医が精神科・心療内科を勧めれば、パートナーの言葉より受け入れられやすいです。カウンセラーが受診をお勧めすることもできます。
うつ病の症状は、精神症状と身体症状に分けることができます。
繰り返しになりますが、パートナーにこれらの症状が見られる場合は、医療機関の受診を促して下さい。自己診断は避けて下さい。うつ病と似た症状が現れる疾患が他にもあります。適切な治療を受けられなくなる危険性があります。
うつ病が重くなると妄想が現れることもあります。
妄想とは、(根拠のない誤った)確信であり、説得して覆せるものではありません。不安な気持ちを受け止めつつ、うつによるものであり、よくなれば不安もなくなっていくと伝えるのが望ましいです。
環境、性格、身体(病気や身体の変化)が影響し合っていると考えられています。原因は一つではなく、人によってさまざまです。
原因の特定は困難です。原因の追及は本人の自責感を強めることがあります。原因の追及より、回復のために何を行うかに焦点を向けましょう。
うつ病はエネルギーが不足している状態ですから、休養してエネルギーの回復ために休養が必要です。休養の仕方は一律ではありません。休職するのか、休まず仕事量を軽減するのか。人によって異なります。同じ人でも状態や時期によって異なります。
治療法は、薬物療法と心理療法の2つが中心になります。また、治療は、急性期・回復期・再発防止期の3つのステップで考えられます。以下の表は目安です。
期間 | 目標 | 治療法 |
---|---|---|
急性期(1~3ヶ月) | 気分の落ち込みや意欲低下などの症状がなくなる | 十分な休養 薬物療法 |
回復期(4~6ヶ月) | 生活リズムを整えながら、元の生活に戻していく | 薬物療法 心理療法 休養 |
再発防止期(半年以上) | 再発を防ぐ | 薬物療法 心理療法 休養 |
回復には時間がかかることが多いです。職場復帰を急かすなど、本人の焦りを生む関わりは避けて下さい。また、回復は一直線ではありません。良くなったり、ぶり返したりの波を繰り返しながら回復に向かいます。一時的に悪くなっても焦らないことです。
うつ病は再発しやすい病気ですが、セルフケアや心理療法によって再発を防止できます。うつ病になりやすい思考と行動の偏りに対処できるようになると、再発予防に加えて、日々の過ごしやすさも向上します。
うつ病の人を励ましてはいけないことは広く認識されるようになりました。うつ病の人はエネルギーが枯渇して、がんばりたくてもがんばれません。その状態での励ましは、本人をさらに追い詰めることになります。
その他に、パートナーが心がけたいことをあげます。
パートナー自身のケア
パートナーは、気負わず普段通りに接するのが基本です。がんばりすぎると共倒れになりかねません。普段通りと言われても、辛そうな姿を目にすると影響を受けるものです。心配や不安にとらわれることもあります。パートナーが自身のケアのためにカウンセリングを利用するのも有効です。
身体を動かすのが良いこともあるが基本は休ませる
抑うつ状態になると【 行動しない → 気分が晴れない → 行動しない → 気分が晴れない 】の循環に陥ります。あえて行動することで心を活性化させる心理療法があります。しかし、どのタイミングで行うかの判断は慎重さが求められます。特に急性期は休養が原則です。
大きな決断は先延ばしが鉄則
抑うつ状態のときは極端な決断をする傾向にあります。「職場に迷惑をかけているから退職する」「あなたを幸せにできないから離婚する」などです。極端なことを口にしたら、回復してから考えましょうと先延ばしにしましょう。
考えたり決めたりすることを求めない
症状の一つに「集中できない、考えがまとまらない、決められない」があります。ちょっとしたことでも考えるのが負担になることがあります。「何を食べたい?」ではなく「○○はどう?」と提案するのが望ましいです。
原因を追及しすぎない
原因の追及は、私たちが持つ問題解決法の一つです。うつ病の場合、その解決法が問題を維持させることがあります。うつ病の症状の一つが自責感です。真面目で強い責任感はうつ病になりやすい性格です。原因の追及によって、本人は自責感をさらに募らせることがあります。
がんばりすぎない
繰り返しになりますが、パートナー自身ががんばりすぎないことです。共倒れになることがあります。一人で孤独にがんばるのは辛いです。外部資源も利用しましょう。以下は行政の相談窓口です。
●電話相談窓口|困った時の相談方法・窓口|まもろうよ こころ|厚生労働省
●全国精神保健福祉センター一覧│全国精神保健福祉センター長会
●大阪府/電話相談(こころの電話相談・若者専用電話相談・こころの健康相談統一ダイヤル)
●こころの健康相談 豊中市
●こころの健康相談|吹田市公式ウェブサイト
大阪の北摂地域に偏った情報であることをお許し下さい。皆様が暮らす自治体にも同じサービスがあるはずです。
当カウンセリングルームでは、家族療法・ブリーフセラピーと認知行動療法を用いて夫婦・カップルの問題解決を支援しています。
ブリーフセラピー・家族療法では、問題の原因を個人内ではなく、コミュニケーション(相互作用)によって維持されていると考えます。相互作用の変化を促して問題の解消・解決を目指します。原因や犯人探しをしない、人にやさしいカウンセリングです。
認知行動療法は、認知(考え方、物事の捉え方)と行動のパターンを改善することで問題の解決を目指します。お互いの気持ちや考えを理解し合うことにおいて、とても役に立つ理論です。セルフケアなど様々な場面で活用されています。