
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
パートナーがパニック発作や強い不安に苦しんでいるとき、「なんとか安心させたい」「不安を取り除いてあげたい」と考えるのは自然なことです。しかし、安心させようとする行動が、かえって不安を強めてしまうことがあります。
パートナーの不安に巻き込まれて、あなた自身も不安になっていませんか。「また発作が起きるのでは」と心配で、パートナーから目が離せなくなっていませんか。
パートナーを支えるために、あなた自身が不安を抱え込む必要はありません。むしろ、あなたが落ち着いていることが、パートナーにとって最大の安心材料になります。適度な距離感を保ちながら関わることに、罪悪感を持つ必要はないのです。
この記事では、あなた自身を大切にしながら、パートナーを効果的にサポートする方法をお伝えします。
不安やパニックに苦しむパートナーを助けようとする行動が、実は不安を強化していることがあります。
「大丈夫だよ」「心配ないよ」「前も大丈夫だったでしょ」と、何度も安心させる言葉をかけていませんか。
一時的には効果があるように見えます。しかし、確認を繰り返すほど、本人は「確認しないと不安」という状態になっていきます。
不安 → 確認を求める → 安心する → 時間が経つと不安 → また確認を求める
という循環が生まれます。確認の頻度は増え、効果は薄れていきます。
「人混みは避けよう」「電車はやめてタクシーにしよう」と、不安な状況を避ける手助けをしていませんか。
不安な場面を避けることで、一時的には楽になります。しかし、避ければ避けるほど、その場面への不安は強まります。「あの場面は本当に危険なんだ」という信念が強化されるからです。
さらに、避ける範囲は広がっていく傾向があります。最初は電車だけだったのが、バス、車、外出全般へと広がることもあります。
「もしものために」と、パートナーが不安に感じそうな状況を先回りして排除していませんか。
たとえば、パニック発作を恐れるパートナーのために、常に一緒にいる、出かける場所を制限する、などです。
これは、本人が「一人では対処できない」というメッセージを伝えることになります。自信を失わせ、依存を強めてしまいます。
「大丈夫?」と頻繁に様子を確認したり、常に気を配っていませんか。
心配するのは当然です。しかし、過度な見守りは、本人に「自分は危険な状態なんだ」という意識を強めます。また、常に監視されているようなプレッシャーを感じることもあります。
パートナーの不安に共感するあまり、あなた自身も不安になっていませんか。「また発作が起きたらどうしよう」と心配で、気が休まらない状態になっていませんか。
共感は大切です。しかし、一緒に不安になると、二人とも不安の中に沈んでいきます。あなたが落ち着いていることが、パートナーの拠り所になります。
不安に関連する疾患について、詳しく知る必要はありません。パートナーとして最低限押さえておきたいポイントをお伝えします。
不安に関連する疾患には、いくつかの種類があります。
それぞれ特徴は異なりますが、パートナーとしての対応には共通する原則があります。
以下のような状態が続いている場合は、医療機関(精神科・心療内科)の受診を促して下さい。
パニック発作の症状は心臓発作に似ているため、初めての場合は救急受診も検討して下さい。身体疾患がないことを確認した上で、精神科・心療内科につながることが望ましいです。
治療は主に薬物療法(精神科・心療内科)と心理療法(カウンセリング)を組み合わせて行われます。
ブリーフセラピー:不安を「なくす」より、不安があっても生活できる方法を探します。「不安を減らそうとする行動」が不安を強めているパターンを見つけ、別の対処法を試します。
たとえば、確認を繰り返すことで一時的に安心しても、すぐに不安が戻る循環に気づきます。確認を減らす代わりに、不安を感じながらも行動する練習をします。問題の原因を探るより、うまくいっている時に何をしているかに注目します。
認知行動療法:不安を引き起こす考え方と行動のパターンを見直し、避けていた状況に段階的に向き合う練習をします。
薬物療法: 不安を和らげ、心理療法に取り組みやすくする役割を果たします。
回復には数ヶ月かかることが多いです。良くなったり、一時的に悪化したりを繰り返しながら、徐々に改善していきます。
症状や治療法について詳しく知りたい場合は、以下のサイトが参考になります。
ここからは、具体的にどう関わればよいのかをお伝えします。
パートナーの不安に巻き込まれて、あなた自身も不安な毎日を送っていませんか。「また発作が起きるのでは」と心配で、気が休まらない状態になっていませんか。
まず、あなた自身が落ち着いていることが重要です。あなたが不安でいっぱいだと、パートナーはさらに不安になります。以下のことを心がけると良いと思います。
「パートナーが苦しんでいるのに、自分が楽しむなんて」と思う必要はありません。あなたが元気でいることが、パートナーにとって最大の安心材料です。
パニック発作や強い不安が起きたとき、あなたが慌てたり、一緒に不安になったりすると、本人の不安はさらに強まります。
落ち着いた態度で「大丈夫、これは一時的なもの」と伝えて下さい。ただし、何度も繰り返す必要はありません。一度伝えたら、落ち着いて見守ります。
パニック発作は、通常10〜20分程度で自然に治まります。命に関わるものではないことを、あなた自身が理解しておくことが大切です。
「これで大丈夫?」「本当に問題ない?」と確認を求められたとき、最初の1回は簡潔に応じて下さい。「大丈夫だよ」と伝えます。
しかし、繰り返し確認を求められても、同じように応じる必要はありません。「さっき伝えたよ」と優しく指摘するか、話題を変えます。
確認に応じ続けることは、不安を強化します。優しく、しかし淡々と対応することが望ましいです。
不安な場面を避けることに、無条件で協力する必要はありません。
「今日は無理そうだね」と理解を示しつつ、「でも、いつかはできるようになるといいね」と、将来的には向き合うことを前提とした態度を示します。
ただし、無理やり不安な場面に連れ出すのは逆効果です。医師やカウンセラーと相談しながら、段階的に取り組むのが望ましいです。
不安があっても、すべてができなくなるわけではありません。できることは本人にやってもらい、本当にむずかしいことだけサポートします。
たとえば、一人での外出が難しくても、家の中での役割は果たせるかもしれません。できることを見つけて、本人の自信を保つことが大切です。
すべてを代わりにやると、「自分は何もできない」という無力感を強めてしまいます。
医師やカウンセラーと連携することが重要です。可能であれば、受診に同行して下さい。
治療の方針や、家族としてどう関わればよいかを、直接専門家に確認できます。また、あなた自身の不安や疑問も相談できます。
以下のような状況では、カウンセリングや専門機関のサポートを検討して下さい。
これらは、あなた自身がサポートを必要としているサインです。パートナーのためにも、まず自分のケアを優先して下さい。
夫婦でカウンセリングを受けることもできます。第三者が入ることで、互いの気持ちや状況を整理しやすくなります。
カウンセリングでは、具体的な場面を想定しながら、効果的な対応を一緒に考えることができます。
一人で抱え込まず、外部のサポートを活用して下さい。
当カウンセリングルームでは、パートナーとしてどう関わるかのサポートを行っています。必要に応じて、夫婦でのカウンセリングも可能です。
パニック症・不安症のパートナーを支えるために大切なのは、以下の3つです。
「安心させよう」「助けてあげよう」という行動が、実は不安を強化していることがあります。がんばりすぎず、できる範囲でサポートすることが、結果的に本人にとっても、あなたにとっても良い結果につながります。
あなたが落ち着いていること、普段通りでいることが、パートナーにとって最大の安心材料です。自分を大切にしながら、パートナーを見守って下さい。