モラルハラスメント:「これはモラハラ?」と感じているあなたへ
「パートナーの言動が気になるけれど、これはモラハラなのだろうか」と感じて、このページにたどり着いた方がいるかもしれません。あるいは「モラハラと言われているけれど、自分にはそんな気はなかった」と戸惑っている方もいるかもしれません。
どちらの立場であっても、2人の関係において、何らかの苦しさを感じているのでしょう。
このページでは、モラルハラスメントの定義や特徴を整理して説明しています。しかし、大切なのは、モラハラかどうかより、パートナーが苦しんでいることです。言動に問題があるなら、自覚して変えていくことが必要です。そのための情報と視点を提供します。
近年、「ハラハラ」という言葉が使われるようになりました。ハラスメントは決して許されることではありませんが、過剰なレッテル貼りによる弊害も指摘されています。繰り返しになりますが、大切なのは、モラハラであるか否かより、その言動の改善を必要としていることです。
モラルハラスメントとは
モラルハラスメントとは、精神的な嫌がらせや精神的暴力のことです。身体的な暴力を用いず、言葉・態度・無視などによって相手を精神的に支配し、傷つける行為です。フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した概念で、日本では「モラハラ」と略されます。夫婦・パートナー間で起きる場合は、DVの一形態として位置づけられます。
モラルハラスメントの特徴は、わかりやすい暴力が表面に出ないことです。侮辱・無視・過度な監視・孤立させるなどの行為が、被害者に「自分が悪い」という感覚を抱かせながら繰り返されます。被害者が自分を被害者と気づけないことも、めずらしくありません。
モラハラとモラハラ的言動:どこが違うのか
問題発言をしたら即モラハラとするのは行き過ぎだと思います。
一時的な感情による問題発言と、日常的かつ本人に罪悪感や反省がない問題発言とは質が異なります。ここでは前者を「モラハラ的行動」と呼ぶことにします。
一時的な感情による言動は、誰にでも起きます。言い過ぎてしまう、無視してしまう、きつい言葉を使ってしまう、などです。そこには、本人の自覚や反省があります。この場合、2人は概ね対等な関係を保っています。
モラルハラスメントは異なります。問題となる言動が繰り返され、加害者には反省がありません。加害者は問題の責任を被害者に帰属させます。関係は対等ではなく、支配と服従の構造になっています。
この違いを踏まえたうえで、自分たちに何が起きているかを確認してみてください。
あなたの関係に起きていることを確認する
以下のチェックリストは、モラハラおよびモラハラ的言動の特徴をまとめたものです。「よくある」「ときどきある」と感じる項目に注目してください。いくつ当てはまるかより、どのような状況が繰り返し起きているかに注目することが大切です。
パートナーからされていること(被害側の確認)
- 理由を明かさずに不機嫌な態度をとられる
- 何が地雷になるのか予測できない
- 小さなことで激しく責められる
- 「お前が悪い」「お前のせいだ」と言われることが多い
- 人前で恥をかかされたり、馬鹿にされたりする
- 友人や家族との交流を制限される
- 自分の言動をこまかく監視・管理される
- 話し合おうとすると無視される、または激しく責められる
- 自分が悪いのだという感覚が常にある
- 相手の帰宅時間が近づくと落ち着かなくなる
自分がパートナーにしていること(加害側の確認)
- 感情的になると、相手を激しく責める言葉が出る
- 不機嫌な態度で相手をコントロールしようとすることがある
- 相手の行動を過度に管理したいという気持ちがある
- 話し合いで自分が不利になると、話を打ち切ったり無視したりする
- 相手が謝れば収まるが、何が問題だったかは説明しないことが多い
- 「自分は正しい、悪いのは相手だ」という感覚が強い
このチェックリストは診断ツールではありません。また、「モラハラかどうか」を判定するものでもありません。2人の関係の中で、何が繰り返し起きているのかを整理し、振り返るための手がかりとしてご活用ください。
焦点を当てるべきは、「モラハラかどうか」よりも「パートナーが苦しんでいるか」です。相手が苦しんでいるなら改善が必要です。一方、「モラハラ被害を受けている」という言葉が、相手をコントロールする手段になっていることがあります。これについては後に触れます。
モラハラ的言動の具体的なパターン

前述のイルゴイエンヌは、モラハラには支配と暴力の2段階があるとしました。モラハラ的言動も、この2段階に沿って理解することができます。
不安にさせて支配する
加害者は、被害者を直接責めるのではなく、まず不安にさせることから始めます。
嫌味、ため息、冷たい態度で不機嫌さを示します。しかし、何が問題だったのかは明かしません。わざとあいまいにすることで、被害者を不安にさせます。
加害者の不機嫌には一貫性がありません。あるとき問題ではなかったことが、別のときに問題とされます。被害者がよく言うのは「どこに地雷があるのかわかりません」です。被害者は加害者の顔色を伺うようになります。パートナーの帰宅時間が近づくと落ち着かなくなる、という方もいます。
「ちゃんと自分の意見を言え」と言われたので意見を伝えると、「生意気だ」「反抗するな」と怒られる。このように、どう振る舞っても否定される、いわゆるダブルバインド状態も特徴の一つです。
参考ページ:【ダブルバインド】どちらを選んでも罰せられる。
行動を制限することもあります。一人で外出させない、家族や友人との交流を制限するなどがめずらしくありません。被害者は孤立していき、現状がおかしいと気づく機会を失います。
暴力で服従させる
被害者が状況を変えようとしたとき、加害者は暴力的になります。話し合いの試みさえも、加害者は攻撃と受け取ります。
侮辱・嘲笑・中傷などが繰り返されます。一つひとつを切り取ると暴力に見えなくても、繰り返されると暴力となります。被害者は心身にダメージを受け、身体症状や精神症状として表れることもあります。
追い込まれた被害者が感情的になり、暴言や暴力をふるってしまうことがあります。加害者はそれを逃しません。「DVをふるったのはお前だ」と非難することで、さらに被害者を追い込むパターンもあります。
なぜこのような関係になるのか
加害者の自己愛的な傾向
モラハラ的言動を繰り返す人には、自己愛的な性格傾向が見られることがあります。
- 自分を特別な存在と思っており、他人を下に見る
- 他者からほめられることを強く求める
- 他者の気持ちに共感しにくい
- 自分のストレスを相手にぶつけることで処理する
- 批判や別れの申し出に対して、過剰に反応する(暴力・土下座・自傷など)
ただし、自己愛的な傾向は程度の問題です。「自己愛的な人格」と断定できる人から、「そういった傾向が強い」という人まで、幅があります。
被害者に見られる傾向
被害者には、責任感が強く罪悪感を持ちやすい傾向があります。問題の原因を自分に帰属させやすく、「自分が変わらなければ」と考えます。通常の人間関係では誠実さとして機能する性格が、加害者の他責的な性格と噛み合うことで、モラハラ的な関係が成立しやすくなります。
悪循環としてのモラハラ的言動
ブリーフセラピーの視点では、問題を「誰かの性格や本質」ではなく、関係のなかで繰り返されるパターンとして捉えます。
たとえば、こういうパターンがあります。
Aが不機嫌になる → Bが不安になり機嫌を取ろうとする → Aの不機嫌がさらに強化される → Bがさらに萎縮する → 繰り返し
このサイクルが繰り返されるなかで、Aのモラハラ的言動とBの服従的な反応が固定化していきます。
モラハラ的言動が望ましくないのは間違いありませんが、特に夫婦関係においては、どちらが悪いという構図に居続けると、解決が遠のく傾向があります。それよりも、この関係パターンを変えるという視点が有効です。
「モラハラ被害」が関係の武器になることがある
「モラハラ被害」を強調し続けることで、被害者と加害者の立場が入れ替わるケースがあります。
関係のなかで力を失っていた側が、「モラハラ被害者」という立場を得ることで、今度は相手を一方的に責め続ける側に回る。極端な場合、被害者ポジションにとどまることで自分の要求を通す、相手をコントロールする手段にする、というパターンに発展することもあります。
被害の実態を否定するものではありません。深刻な被害は、深刻なものとして受け止められる必要があります。ただ、「モラハラだ」というラベルを繰り返し突きつけることが、相手の反発を招いて話し合いを困難にする、あるいは関係をさらに悪化させる、というケースも少なくありません。改善を求めているはずが、ラベルをめぐる争いになってしまうのです。
重要なのは「どちらがモラハラをしているか」ではなく、「この関係で何が繰り返されているか」です。パターンを変えることが、問題の解決につながります。
カウンセリングの現場では
カウンセリングの現場でよく見られるのは、「明らかなモラハラ」ではなく(何をもって明らかなモラハラと断定できるのかむずかしいところですが)、「モラハラ的な言動が繰り返されているカップル」です。
典型的なパターンの一つは次のようなものです。一方がため息や冷たい態度で不機嫌さを示す。何が問題なのかは言わない。もう一方は不安になり、機嫌を取ろうとする。その場はなんとなく収まるが、何が問題だったのかはわからないまま。しばらくすると、また同じことが繰り返される。
このパターンでは、「不機嫌を示す側」は相手が察して動いてくれると感じています。「機嫌を取ろうとする側」は、何が地雷になるのかわからないまま、相手の顔色を伺い続けることが日常になっています。
もう一つのパターンは、「支配と不安」が静かに続くケースです。激しい言葉はないけれど、相手の顔色を伺い続けることがあたりまえになっている。「何かまずいことをしてしまったのだろうか」という不安が日常になっている。これもモラハラ的言動の結果として起きやすいパターンです。
当相談室が依拠する心理療法はブリーフセラピーです。ブリーフセラピーのなかでも、解決志向アプローチ(SFA)とMRIアプローチの2本柱でサポートを提供しています。モラハラ的言動を抱えるカップルの相談では、この2つのアプローチが力を発揮します。
解決志向アプローチ(SFA)では、問題が起きていない「例外の時間」に注目します。相談のなかで必ず確認するのは、「いつもこうなるわけではないはずです。うまくいっているときは、どんなときですか」という問いです。例外のなかに、変化のヒントがあります。
MRIブリーフセラピーの視点では、「解決しようとする試みが問題を悪化させている」という悪循環に注目します。機嫌を取ろうとするほど相手の支配が強化される、話し合おうとするほど関係が悪化するなど、「正しいはずの対処」が逆効果になっているパターンを丁寧に解きほぐします。
カウンセリングで変化が起きるとき、多くの場合、「モラハラかどうか」の答えが出たからではありません。関係のなかで繰り返されているパターンが変わったときです。
「モラハラかもしれない」と感じたら
まず確認してほしいこと
「モラハラかどうか」を決めることが、問題解決の条件ではありません。
大切なのは次の2点です。
- パートナーが苦しんでいるなら、それは改善が必要です
- 自分の言動に問題があると感じているなら、自覚して変えることが必要です
ラベルより先に、この2点を正直に見てほしいと思います。
一人での相談について
カウンセリングは、パートナーと一緒でなくても受けられます。「パートナーが来てくれない」「まず自分だけで整理したい」という方も、ご相談下さい。
一人でカウンセリングを受けることで、自分の状況を言語化できます。何が問題で、何が繰り返されているのかを整理するだけで、次の一手が見えてくることがあります。
夫婦・カップルでの相談について
モラハラ的言動が強い場合、夫婦・カップル2人でのカウンセリングには注意が必要です。カウンセリングでの会話が、新たなモラハラ的言動を誘発することがあります。
ただし、これは絶対ではありません。状況によっては2人での相談が有効なこともあります。迷われている方はまずご相談下さい。一緒に進め方を考えます。
深刻な被害を受けている場合
身の安全が脅かされている、または重篤な精神的ダメージを受けていると感じる場合は、カウンセリングより先に安全の確保が必要です。以下の公的機関をご利用下さい。
まとめ
モラハラ的言動の問題は、その言動がモラハラか否かではなく、その言動が繰り返されて苦しんでいることです。関係のなかで繰り返されているパターンに気づき、そのパターンを変えることが解決への道です。
パートナーが苦しんでいるなら、それはラベルに関係なく改善が必要です。自分の言動に問題があると感じているなら、その自覚を出発点にできます。
変化は可能です。長年繰り返されてきたパターンであっても、どこかを変えることができれば、関係全体が動き始めます。一人で抱え込まず、まず話してみるだけでも構いません。
- イルゴイエンヌ,M.-F.(1999).『モラル・ハラスメント』(高野優 訳).紀伊國屋書店.
- 宮地尚子・清水加奈子(2021).「あらためてDVとは何か」『こころの科学』219,10–11.
