大人のADHD(注意欠如・多動症)

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

大人のADHD(注意欠如・多動症)のご本人やパートナーが直面する悩み・問題の対処を支援しています。

ADHD

ADHD(注意欠如・多動症)の特徴を説明する際に、ドラえもんの「のび太」と「ジャイアン」の例えが用いられることがあります。「のび太」と「ジャイアン」。この正反対のキャラクターが同じADHD。わかりにくいのはやむを得ないと思います。

発達障害の1つ

ADHD(注意欠如・多動症)は発達障害の一つです。発達障害とは、脳の特定の領域での発達の遅れや特異性によって、学習、コミュニケーション、社会生活など、さまざまな面で影響を受ける状態です。生まれながらにしてその特徴を持ち、子ども期から成人に至るまで続くことが一般的です。

外見からはわかりにくいため、障害があると気づかれにくい一方、日常生活や社会生活を送る上でさまざまな支障をきたすことから、生きづらさを感じる人も少なくありません。

ADHD(注意欠如・多動症)以外にも発達障害にはいくつか種類があります。主なものとして、自閉スペクトラム症(ASD)限局性学習症(SLD)があります。

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会性の特性・コミュニケーションの特性・こだわりの特性の3つの特性を持ちます。限局性学習症(SLD)は、知的な遅れはないものの、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する能力のうち、特定の能力の習得と使用に困難を示す障害です。

ADHD(注意欠如・多動症)の特性とタイプ

ADHDには、不注意、多動性、衝動性の3つの特性があります。3つの現れ方には、人によって偏りがあります。現れ方によって3つのタイプに分けられます。

不注意優勢型

気が散りやすい、集中力が保てない、忘れっぽさ、整理整頓が苦手、計画性に物事を進められない、などの特性があります。集団の中では大人しく目立たないことが多い。「のび太」型と言われるタイプです。女性のADHDは、この不注意優勢型が多く見られます。

多動性・衝動性優勢型

落ち着きのなさ、衝動的な言動、怒りっぽい、などの特性があります。「ジャイアン」型と呼ばれるタイプです。多動性は成長と共に収まる傾向があります。

混合型

3つの特性すべてが見られるタイプです。

大人のADHD

発達障害は生まれつきの脳機能の一部の偏りによるものです。大人になって発症するというものではありません。

  • 子どもの頃には問題とされる程度ではなかった。
  • 周囲が柔軟に受け止めてくれる環境で目立たなかった。
  • しかし、職場や結婚生活などの環境において問題が生じるようになった。
  • うつ病や不安障害で精神科を受診した際に発達障害であることがわかった。

このようにして、大人になって気づくことから、大人のADHDと表現されます。

以前と比較すると、発達障害は社会的に広く認知されるようになりました。しかし、当事者や家族の実感としては、まだ十分でないとの指摘もあります。

発達障害、高い認知度…当事者や家族の実感とギャップも | リセマム

現在でも残念ながら、怠けているだけという偏見を持たれるケースもあります。

偏見の一つに、親の育て方やしつけが原因とするものがあります。親の育て方やしつけは無関係であることが明らかになっています。

そのような環境において、うつ病や不安障害などの二次障害が引き起こされることがあります。うつ病などで精神科を受診して、その際に発達障害であることが明らかになるケースもあります。

また、発達障害の特性が見られるものの、医学的な診断基準には至らないグレーゾーン(通称であり医学用語ではありません)の人もいます。特性による問題が生じてはいるものの、診断されないことによる辛さを抱えている例もあります。

ADHDの診断・治療

診断は医療機関で

診断は医療機関(精神科・心療内科・神経科など)で行います。専門医による問診と心理検査が用いられます。診断に時間がかかるケースもあります。発達障害と似た症状が生じる精神疾患の可能性があるなどの要因からです。

診断のメリット・デメリット

ADHDの傾向があっても、家庭外での日常生活に大きな支障が生じていないのなら、必ずしも診断を受ける必要はないかもしれません。診断を受けることのメリットとデメリットをあげます。

メリット

  • 【自己理解の促進】診断を受けることで、自分自身の特性を理解することができます。自尊感情が回復して自己受容が高まる人もいます。
  • 【適切なサポートの受けやすさ】診断を受けることで、必要なサポートや治療を受けやすくなる道が開けます。
  • 【人間関係の改善】周囲が特性を理解して、人間関係のストレスが軽減されることがあります。周囲が特性に合わせた対応をとることが可能になります。

デメリット

  • 【レッテルの可能性】社会的な偏見や誤解に直面する可能性もあります。
  • 【心理的な影響】自分自身をネガティブに捉えて、自己否定感を引き起こす可能性もあります。
  • 【支援の限界】必ずしも十分な支援が受けられるとは限りません。

メリットとデメリットを総合的に考慮する必要があります。

大人のADHDの困りごとと対処

  1. 実行機能の障害
  2. 何はともあれADHDを理解する
  3. 理解者との関わりを増やす

1.実行機能の障害

日常生活において起こる困りごとは様々です。具体的な事例をあげていくとキリがありませんので、ここでは実行機能の障害について説明するにとどめます。

実行機能とは、自分の置かれた状況や場面にうまく対処するためには、どのように行動すれば良いかを判断して、実行する機能のことをいいます。

アメリカの精神科医トーマス・E・ブラウンは、ADHDに関わる実行機能の一部もしくはすべての機能障害のために、ADHDの特性が現れると考えました。以下の6つがその機能です。

  • 【取りかかり】課題を整理して、優先順位をつけて、取りかかる
  • 【焦点化】課題に集中して、注意を維持して、注意の移動を適切に行う
  • 【努力】意識を覚醒して、努力を維持し、適切な速度で処理する
  • 【感情】欲求不満を管理して感情をコントロールする
  • 【記憶】ワーキングメモリーを活用して複数の作業を進める
  • 【行動】自分の行動を監視し、必要に応じて調整する

ADHDの困りごとに「計画的にできない」「優先順位がつけられない」「複数の課題をこなせない」があります。これは【取りかかり】や【記憶】の機能がうまく働かないからと考えられます。「怒りっぽい」は【感情】の機能がうまく働かないと考えられます。

2.何はともあれADHDを理解する

まずは、医師等の専門家による「大人のADHD」の書籍を2,3冊読むことをおすすめします。このような投稿をしている私が言うのも矛盾していますが、ネットの情報だけに頼るのは危ういです。

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例えば、ADHDのパートナーの言動に傷つけられたとき、その言動が人格によるもの、悪意のあるものと感じると傷は大きくなります。特性によるものと捉えれば、傷は小さくて済むかもしれません。実際、特性によるものの場合が多いからです。

ADHDのご本人は、書籍から対処法を学べます。最初はうまくやれなくても、対処しようとする姿勢がパートナーの気持ちを和らげるものです。開き直って何もやらないのとは大違いです。

繰り返しになりますが、できれば2,3冊読みたいです。著者によって文体や表現に多少の違いがあります。書籍Aでピンと来なかった内容が、書籍Bでスッと頭に入ることがあります。

当事者や家族の体験談をまとめた書籍も参考になります。あくまで個人の体験ですが、専門家による一般化された情報とは異なり、生々しい体験や感情を追体験できます。共感できることも多いと思います。

3.理解者との関わりを増やす

努力不足と人格を批判され続けて、自信をなくしている本人は少なくありません。二次障害として、うつ病や不安障害を引き起こすことがあるのは先に述べた通りです。人格によるものではありません。特性によるものです。

自信他者との関わりを通じて傷つきます。また、他者との関わりを通じて育ちます。他者との関わりです。無人島で一人で暮らしていたら、自信があるとかないとか考えることはないはずです。

パートナーには理解者でいてほしいと思います。本人には当事者会など理解者がいるコミュニティや人を探して、そこでの関わりを増やしてほしいと思います。

大人のADHDの夫婦・カップルカウンセリング

カウンセリングでは、日々の生活で起きていることを明確にして、できることできないことを明確にして、具体的に何ができるのかを見つけて、一つずつ実行していきます。本人に必要なスキルを一つずつ習得してくサポートを行います。

パートナーが発達障害(または傾向が見られる)の場合、パートナーに理解してもらえない・伝わらない苦しみ、周囲に理解してもらえない辛さと孤独感を抱え続けていることが多いです。その感情に寄り添い、癒しの場になることも重要です。

傾聴(話を聴く)だけのカウンセリングでは役に立ちません。ブリーフセラピー・家族療法・認知行動療法など、実用的な心理療法が有効です。

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