
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
ブリーフセラピーは「短期療法」と訳されますが、単に「短い期間で終わる」という意味ではありません。「必要なことに絞って、できるだけ効果的に変化を起こす」ことを重視したアプローチです。
問題の原因を深く掘り下げるよりも、今二人の間で何が繰り返されているかに注目します。そのパターンを変えることで、関係性に変化を起こしていきます。
当カウンセリングルームでは、ブリーフセラピーを中心に夫婦・カップルの支援を行っています。
ブリーフセラピーが夫婦・カップルの問題に有効な理由は4つあります。原因探しをしない、悪者探しをしない、小さな変化から始められる、関係性のパターンに注目する、という点です。いずれも、責任追及から離れて解決に向かいやすくする考え方です。
夫婦の問題について「なぜこうなったのか」を探り始めると、話は過去に遡っていきます。結婚当初の出来事、育った家庭環境、性格の違い。原因を探せば探すほど、解決は遠のいていきます。
ブリーフセラピーでは、原因探しよりも「これからどうなりたいか」「今できることは何か」に焦点を当てます。過去は変えられませんが、未来は変えられます。
なお、過去の出来事そのものは変えられません。しかし、その出来事が今に及ぼしている影響は変えることができます。思い出すと苦しくなる、同じような場面で身構えてしまう。そうした現在への影響には対処が可能です。
夫婦の問題を話し合うと、どうしても「あなたが悪い」「いや、あなたこそ」という責任の押し付け合いになりがちです。
ブリーフセラピーでは、問題を個人に求めません。「どちらが悪いか」ではなく「どのようなパターンが問題を作っているか」を考えます。問題を二人の関係性のパターンとして捉えることで、責任追及から解放され、協力して解決に向かいやすくなります。
「性格を変えなければ」「根本から解決しなければ」と考えると、重荷に感じてしまいます。
ブリーフセラピーでは、小さな変化を大切にします。大きな変化は負担が大きく、「できない」と感じて抵抗が生まれやすいものです。しかし、小さな変化なら実行しやすく、すぐに取り組めます。
夫婦や家族といった関係性には面白い特徴があります。たとえ一部に小さな変化が起きただけでも、全体がそれに反応してバランスを取り直そうとします。一人が「いつもと少し違うこと」をするだけで、関係性全体に影響が広がっていくのです。
この小さな変化が、悪循環に「くさび」を打ち込むきっかけになります。そして、小さな成功体験が次の小さな変化を引き起こし、やがて良い流れ(良循環)を生み出していきます。
夫婦・カップルには、繰り返されるパターンがあります。ある状況になると、いつも同じような展開になる。そのパターンこそが、問題を維持しています。
ブリーフセラピーでは、このパターンを一緒に見つけ、変えていきます。パターンが変わると、問題が問題でなくなることがあります。
ブリーフセラピーには、大きく分けて2つのアプローチがあります。悪循環を断ち切るアプローチ(MRIアプローチ)と、良循環を広げるアプローチ(解決志向アプローチ)です。状況に応じてどちらか、あるいは両方を組み合わせて使います。

夫婦の問題には、「良かれと思ってやっていること」が逆効果になっているケースがよくあります。
例えば、夫の無口を心配した妻が「何か話して」と促します。夫はプレッシャーを感じて、さらに黙ります。妻はますます心配して話しかけます。この「心配して話しかける」という行動自体が、意図に反して「黙る」を強化してしまうのです。
カウンセリングでは、このような悪循環を一緒に見つけます。そして「いつもと違うこと」を試してみます。

例えば、妻が話しかけるのを控えてみる。すると、夫の方から話し出すことがあります。あるいは、夫が「今は話したくないから、後で話すね」と自分から伝えてみる。すると、妻の心配が和らぎ、待つことができるようになります。
別の例では、妻が夫に不満を伝えると、夫が言い訳をします。妻は「また言い訳」とさらに不満を伝えます。夫はさらに言い訳をします。この循環が続きます。
この場合も、どちらかが対応を変えてみます。例えば、妻が不満を伝えるのをやめて、夫の言い分を一度受け止めてみる。「そういう事情があったんだね」と返してみる。すると、夫は言い訳をする必要がなくなり、自分から「次はこうするよ」と言い出すことがあります。

「いつも喧嘩ばかり」と感じていても、実は24時間365日、常に喧嘩しているわけではありません。穏やかに過ごせている時間もあります。この「例外」こそが、解決のヒントです。
カウンセリングでは「最近、少しましだった日はありましたか?」と尋ねます。多くの方が「そういえば先週の水曜日は…」と思い出されます。

その日、何が違ったのか。妻が先に寝ていた。夫が早く帰ってきた。たまたま好きなドラマを一緒に見た。この「たまたま」の中に、解決の種があります。
「たまたま」を「意図的に」に変えていきます。週に一度、好きなドラマを一緒に見る時間を作る。この小さな変化が、関係性全体を変えていくことがあります。
ブリーフセラピーや家族療法に対して、「問題の表面しか扱わない」という批判を目にすることがあります。無意識やコアビリーフ(物事の見方の根底にある信念)といったものを扱わないためだと思われます。「本質的」「根本的」な解決ではないと批判されることがあります。
「本質的」「根本的」な解決とは何でしょうか。「問題が繰り返されない」ことだと思います。解熱剤で熱を下げても、風邪を引きやすい体質や生活習慣の改善がなければ何度も繰り返す——そういった意味での批判でしょう。
ブリーフセラピーは、問題を維持している相互作用のパターン(悪循環)を切断し、良循環を広げることで解決に導きます。問題を引き起こすパターンそのものがなくなるのですから、問題は繰り返されません。その意味で、「本質的・根本的ではない」という批判は的外れです。
コアビリーフは認知行動療法で扱われる概念ですが、認知行動療法も最初からコアビリーフを直接扱うわけではありません。自動思考(日常の場面で瞬間的に浮かぶ考え)や行動のパターンへの介入を通じて、間接的にコアビリーフの変容を図る側面が強いです。
自動思考と行動のパターンの変化は、個人の内側における悪循環が良循環に変わることとも言えます。ブリーフセラピーはコアビリーフの変化を直接の目的としていませんが、相互作用のパターンが変わることで、結果としてコアビリーフにも変化が起きることは十分に考えられます。
次のような状況で特に役立ちます。
初回のカウンセリングでは、まず今困っていることを伺います。どのような状況で、どのようなパターンが繰り返されているのか。お二人それぞれの話を聞きながら、関係性のパターンを一緒に確認していきます。
「どうなりたいか」「どうなったら良くなったと感じるか」も大切なテーマです。大きな目標でなくても構いません。「少し話せるようになりたい」「喧嘩の回数が減ったらいい」。そうした具体的な希望を確認します。
2回目以降は、前回から今回までの間に起きた変化を確認します。「いつもと違うこと」を試した結果はどうだったか。うまくいったこと、うまくいかなかったことを振り返ります。
うまくいったことは続けていきます。うまくいかなかったことは、別のやり方を一緒に考えます。この積み重ねが、少しずつ関係性を変えていきます。
セッション時間は1回50分程度です。頻度はお二人の状況やご希望によって異なりますが、2週間に1回を目安にしています。
数回で変化を感じる方もいれば、時間をかけて取り組む方もいます。「ブリーフ(短期)」という名前にとらわれすぎず、お二人のペースに合わせて進めていきます。
「短期」とは「短い期間」という意味ではなく「効率的」という意味です。原因探しや悪者探しに時間を使わず、解決に直結することに焦点を当てるため、結果的に効率的な支援になります。ただし、急ぐことはありません。変化には時間がかかることもあります。
いいえ、一人でも大丈夫です。一人の行動が変われば、関係性全体に影響します。「相手を変えよう」ではなく「自分の関わり方を変えてみる」ことで、パートナーの反応が変わることがあります。
「こんなことを試してみませんか」と提案することが多いです。ただし、これらはあくまで提案です。試すかどうか、どう試すかはご本人の判断に委ねます。希望される場合を除いて、聴くだけのカウンセリングは行いません。