不倫を「魂の殺人」と呼ぶ理由 〜 関係回復・再構築するための心構え 〜

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

不倫は、築いてきた信頼を裏切る行為であり、傷つけられた側に深い心のダメージを与えるものです。それを「魂の殺人」「心の殺人」と呼ぶ人もいます。

この投稿では、不倫によって生じる心の傷の深さ、そして関係回復・再構築に必要な心構えを、加害した側・傷つけられた側の両方の視点から考えます。

はじめに

不倫をめぐるカウンセリングの現場にいると、見えてくる現実があります。それは、不倫という行為がもたらす傷の深さ、そして、その傷にどう向き合うかという課題の重さです。

不倫をした側の中には、「これからは誠実に行動する」と言いながら、パートナーの心のケアをカウンセラーや第三者に委ねようとする方がいらっしゃいます。それは償いでも回復の第一歩でもありません。むしろその姿勢に、傷つけられた側はさらに深く傷つき、失望し、心を閉ざしてしまうことがあります。

この投稿で伝えたいことの一つは、傷ついたパートナーのケアの主体は、傷つけた当事者であるあなた自身だということです。

逃げることなく、自分の行為と向き合い、相手の痛みに寄り添い続けること。それが、信頼を取り戻す唯一の道であり、パートナーとの関係を再構築するために不可欠な姿勢です。

一方で、不倫をされた側が、重い苦しみを抱えながらも夫婦として続けていくと決断されたのであれば、これまでの夫婦関係を振り返り、見直すことを必要とするケースがあるかもしれません。

心のケアを他人任せにする加害者の姿勢への警鐘と、再構築を望む場合に求められる傷つけられた側の視点の双方をお伝えします。

不倫を「魂の殺人」と呼ぶ理由

不倫の被害にあわれた方々と面接で関わっていると、ときおり聞かれる印象的な表現があります。

それが、「魂の殺人」「心の殺人」という言葉です。

これは、単なる比喩では済まされない、体験の深刻さをよく表していると感じます。

不倫によって受けるダメージは、現在の信頼関係が壊れるだけでなく、それまで夫婦で積み上げてきた時間や記憶の意味までも変えてしまうことがあります。

傷つけられた側は、不倫が発覚した瞬間から強い混乱や動揺に襲われます。

  • 不眠食欲不振が続くことがあります
  • 「自分には魅力がなかったのでは」「どうして気づけなかったのか」といった思いから、自分は人(女性もしくは男性)として価値がないという思いにとらわれることがあります
  • 最も信頼していた相手に裏切られたことによって、他人への信頼そのものが揺らぐこともあります
  • 一緒に過ごした時間や思い出の場所が、痛みの引き金となることがあります

幸せだったはずの過去が、苦しみの源へと変わってしまう。それが「心を殺された」と表現される理由の一つです。

関係を修復したいと考えるのであれば、まずこの傷の深さに丁寧に向き合うことが必要です。

不倫をされた人が負う心の傷について、詳しくは以下のページをご覧下さい。

心の傷のケアの「主体」は傷つけたあなた

不倫の発覚後、関係を回復したい人、再構築したい人の多くは、「これからは誠実に向き合います」「自分を変えます」と考えます。宣言されます。

しかし、その一方で、パートナーの心のケアをカウンセラーや第三者に委ねようとする方がいらっしゃいます。

その姿勢が、さらに相手を深く傷つけ、失望させてしまうことがあります。

もちろん、専門家のサポートが回復の助けになること、必要とする時期があるのは事実です。ですが、傷つけたのはあなた自身であり、そのケアの主体もまた、あなた自身であるということを忘れてはなりません。

パートナーがどれほど深く傷ついているか、あらためて想像してみてください。

  • 混乱や不安により、眠れない・食べられない状態が続くことがあります
  • 自分を責め続ける思考に陥り、自己評価が大きく損なわれているかもしれません
  • 他者への基本的信頼が揺らぎ、人間関係に不安を抱くこともあります
  • 幸せな記憶さえも、痛みのもとになってしまうことがあります

「自分は変わる。これからの自分を見てほしい。心の不調は専門家に頼ってほしい」

その姿勢は傷を負ったパートナーにとって、責任を他人に肩代わりさせようとしていると受け取られることでしょう。

  • 信頼を取り戻すには、言葉以上に行動による誠実さが求められます
  • 「変わる」と言うのであれば、それが日常のふるまいに表れるよう努力が必要です
  • 心のケアを他人任せにするということは、関係回復の意思を放棄することに等しいとも言えます

ただ被害者の立場にとどまるだけではなく―再構築を望むときの視点

不倫の事実を知ったとき、「一生許さない」と感じるのはごく自然なことです。衝動的な言葉が出てしまうのも無理はありません。

ただし、もし夫婦として続けていくと決めたのであれば、どこかの段階で、これまでの夫婦関係を振り返るなど、別の視点を持つことが求められるかもしれません。

これまでの不倫をめぐるカウンセリング経験の中で、次のような背景が見られることがありました。

  • 長期間にわたるコミュニケーションの不足
  • 不満やすれ違いの蓄積
  • 一方的に相手を責め続ける言動

もちろん、こうした背景があったとしても、不倫という行為が許されることはありません。裏切りの責任は、行動を選んだ傷つけた側にあります。

ただ、関係の回復を本気で目指すのであれば、「自分にも見直すべき点はあっただろうか」と静かに振り返る姿勢が、前に進む一歩になることもあります。

  • これは責任を受け入れるという意味ではなく、関係の再構築に向けた前向きな姿勢です
  • 同時に、加害した側がこの視点を“責任転嫁”に使おうとする場面には警戒が必要です

あくまで、この投稿で伝えたいのは、関係を再構築したいと願う場合に「自分と向き合う視点」も助けになることがあるという点です。

あなたの傷が癒えるには時間が必要ですし、自分を責める必要はまったくありません。

最後に(まとめとして)

これまで、不倫によって生じる心の傷、そして関係を回復するための両者の姿勢について述べてきました。

最後に、まとめとして整理したいと思います。

  • 不倫の責任は、どのような事情があっても行為を選んだ側にあります
  • 「傷つけられた側にも問題があった」とする主張は、責任をすり替える危険性を含みます
  • 関係修復を望む場合に、自分を振り返る姿勢が有効であることはありますが、それが“非があった”という意味ではありません

ところが、現実にはこうした視点を加害した側が都合よく利用し、自らの責任を軽くしようとするケースがあります。それは傷つけられた側に対する二重の苦痛であり、再構築を妨げる大きな要因となります。

本当に償いたいと願うのであれば、与えた傷の重さに向き合い、言い訳をせず、誠実に行動を積み重ねていくことが求められます。

一方で、傷つけられた側も、関係を続ける選択をしたからといって、「許すべき」と自分に強いる必要はありません。

「今はまだ許せない」と思う気持ちを大切にしてよいのです。

Q&A

Q
なぜ「心の殺人」や「魂の殺人」という表現を使うのですか?
A

不倫の裏切りは、単なる出来事以上に、過去の思い出や築いてきた信頼関係そのものを壊す力を持っています。被害者が「幸せだった記憶ですら苦しくなる」と語るように、心の一部が壊されたと感じることがあります。その深刻さを伝えるために、このような表現を用いています。

Q
パートナーの心のケアをカウンセラーに任せてはいけないのですか?
A

いけないということではありません。専門家の支援が必要な時期は確かにありますが、それだけに頼ってしまうのは不十分です。パートナーに最も深い傷を負わせたのは、傷つけた側のあなた自身です。その痛みに寄り添い、自ら関わる姿勢が関係回復の第一歩です。

Q
傷つけられた側が、自分を振り返る必要はあるのでしょうか?
A

もちろん、不倫の責任は全面的に加害者側にありますが、関係の回復を目指す場合、これまでの夫婦関係を含む背景を見直すことが役立つことがあります。

Q
傷つけた側が「被害者にも悪いところがあった」と言うのは正当ですか?
A

不倫を正当化するために、被害者の行動を持ち出すのは責任転嫁に過ぎません。今回の投稿では「傷つけた側」「傷つけられた側」の関係性に注目していますが、それはあくまで再構築を前提とした視点であり、加害の事実を軽視するものではありません。

Q
夫婦関係を続けるか、別れるか決めかねています。どう考えればよいですか?
A

どちらの選択にも深い葛藤があるのは当然です。まずは、自分の感情を十分に理解し、落ち着いて考えられる状態をつくることが大切です。可能であれば、専門家の支援を受けながら、自分にとって納得のいく選択肢を探っていくことをおすすめします。

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