妻「どうするのがいいと思う?」
夫「いちいち聞かないで自分で決めて」
妻「こんな風にしたよ」
夫「何で勝手に進めるの?」
妻「えっ!」
矛盾したメッセージを同時に送られて、どちらを選んでも罰せられるようなコミュニケーションをダブルバインドといいます。
ダブルバインド(二重拘束)をもう少し詳しく
ダブルバインドとは,家族療法の父とも呼ばれるグレゴリー・ベイトソンらのグループが行った研究から生み出された概念です。日本語に訳すと二重拘束です。
冒頭の例には、矛盾する2つの言語メッセージが描かれていますが、言語メッセージと、矛盾する非言語メッセージが同時に送られる例もあります。むしろこのケースの方が多いかもしれません。
以下は、親が子に声をかける例です。
言語:「抱っこしてあげるからこっちにおいで」
非言語:表情や口調は怒っている
親の元に行かなければ、「抱っこすると言ってるのにかわいげがない」と言われるかもしれません。抱っこしてもらっても、居心地の悪さや不安を感じることになるでしょう。どちらを選んでも苦痛を感じることになります。
あきらめ・無気力・自信喪失に陥る
このようなコミュニケーションが繰り返されると、「どうせ何を言っても(しても)ダメ」とあきらめモードになり、無気力なってしまいます。
最初は相手がおかしいと思っていても、幾度も繰り返されていくうちに混乱します。「これだけ言われるのは自分が悪いから?」と自信喪失に陥ることもあります。
「それ、モラハラちゃうの?」と思った方もいらっしゃるでしょう。モラルハラスメントやパワーハラスメントにも見られるコミュニケーションです。
ダブルバインドが成立する条件
ダブルバインド状況が成立する条件には以下の6つです。
- 2人以上の近しい関係にある人間の存在
- 二重拘束的な出来事が繰り返される
- 第一次の禁止命令(以下のいずれかの形を取る)
- これをすると、あなたを罰する
- これをしないと、あなたを罰する
- より抽象的なレベルで第一次の禁止命令と矛盾する第二次の禁止命令
- 被害者がその場から逃れるのを禁ずる第三次の禁止命令
- 上記が成立すれば、以後すべてが揃う必要はない
家族、夫婦、職場など2人以上の近い関係にある人間の存在が前提です。その関係の中で、例示したようなダブルバインドコミュニケーションが繰り返されます。
わかりにくいと思いますので例示します。
「第一次」の禁止命令
先ほどの親が子に声をかける例で説明します。
言語:「抱っこしてあげるからこっちにおいで」
非言語:表情や口調は怒っている
親が「抱っこしてあげるからこっちにおいで」(これをしないと、あなたを罰する)が第一次の禁止命令になります。
より抽象的なレベルで第一次の禁止命令と矛盾する「第二次」の禁止命令
怒っている表情や口調は、「こっちにおいで」とは矛盾する、「こっちに来るな」という禁止命令になっています。
被害者がその場から逃れるのを禁ずる「第三次」の禁止命令
第三次の禁止命令を独立した項目としてあげるのは不要かもしれません。少なくとも成人するまでは、子は親子関係から逃れることができません。夫婦や職場も離れるには大きな覚悟と決断が必要です。
仮に「抱っこしてあげるからこっちにおいで」と言われて親の元へ行かなければ、「抱っこすると言ってるのにかわいげがない」と言われるかもしれません。どちらも選べず心理的に身動きが取れなくなるかもしれません。
上記が成立すれば、以後すべてが揃う必要はない
一旦、ダブルバインドの状況が形成されて、その矛盾したコミュニケーションが継続的に繰り返されると、その後は条件や状況が完璧でなくても、被害者はその矛盾的なメッセージに縛られ続けます。
ダブルバインドになりうる会話の例
ダブルバインドコミュニケーションの例をいくつかあげてみます。
妻「どうするのがいいと思う?」
夫「いちいち聞かないで自分で決めて」
妻「こんな風にしたよ」
夫「何で勝手に進めるの?」
妻「えっ!」
- 第一次の禁止命令:夫に確認してはいけない。
- 第二次の禁止命令:夫に確認しなければいけない。
- 第三次の禁止命令:夫婦関係から逃れられない。
親が子に「言われる前に、自主的に勉強しなさい」と言う。
- 第一次の禁止命令:母の指示を受けてはいけない。
- 第二次の禁止命令:母が意図するように行動しなければならない。
- 第三次の禁止命令:親子関係から逃れられない。
彼氏が彼女に「本心を言って」
- 第一次の禁止命令:本当の気持ちを言わなければならない。
- 第二次の禁止命令:彼氏が望むことを言わなければならない。
- 第三次の禁止命令:恋人関係から逃れられない。
夫が妻に「どうせ君は変わらないから」
- 第一次の禁止命令:妻の変わろうとする意志を否定する。
- 第二次の禁止命令:妻が変わることを望んでいる。
- 第三次の禁止命令:夫婦関係から逃れられない。
妻が夫に「好きにすれば!」
- 第一次の禁止命令:自由にして良い。
- 第二次の禁止命令:自由にしてはいけない。
- 第三次の禁止命令:夫婦関係から逃れられない。
無意識のうちにダブルバインドコミュニケーションを行っていることがあるかもしれません。うまくコミュニケーションが取れないと感じることがあったら、自分のコミュニケーションの振り返りも役に立つと思います。
ダブルバインド状態から抜け出すには
ダブルバインドの状態から抜け出す方法をあげてみます。
ダブルバインドの概念を知る
まずは、ダブルバインドコミュニケーションの存在を知ることです。知ると気づきやすくなります。知らなければ「○○と話すと何かしんどい」で終わってしまいがちです。
コミュニケーションがしんどいと感じたら疑ってみる
普通に会話しているつもりなのに、通じない、噛み合わない、疲労がたまる。そのようなことが繰り返されていると感じたら、コミュニケーションがおかしいかも?と疑ってみましょう。
コミュニケーションに矛盾がないかチェックする
矛盾するメッセージが同時に送られているのを、その会話中に気づくのはむずかしいかもしれません。後で会話を振り返ると気づきやすくなります。
第三者に相談する
第三者に相談すると、自分と異なる視点から現状を見る目が得られます。第三者と一緒に振り返ると、より有効かもしれません。手前味噌ですが、カウンセリングもそうですね。
禁止命令に対抗する
ダブルバインド状態から抜け出すには、禁止命令に対抗することになります。Noを言えば(第一次または第2次への対抗)済むこともあります。モラハラレベルになれば、別れる(第三次の禁止命令への対抗)ことが必要になるかもしれません。
カウンセリングでは、実際に行われた会話を、台本に書き起こせるくらいに詳細に振り返って、どのように対抗するのかを一緒に考えることもあります。
治療的ダブルバインド
ダブルバインドを対人支援に応用したものが治療的ダブルバインドです。ダブルバインド「どちらを選んでも罰せられる」のに対して、治療的ダブルバインドとは、どちらに転んでも前進していると意味づけできる課題を出すことです。
不眠で悩んでいる人に対して、「いつもより長く起きていられるか実験して下さい」と課題を出します。起きていられれば睡眠をコントロールできたと意味づけできます。早く寝てしまえば問題が減少したことになります。