ジョン・M・ゴットマン博士。夫婦関係の研究を長年行ってきたアメリカの心理学者です。博士が見つけたある法則は「ゴットマンの法則」として知られています。
それは、夫婦の会話を5分間観察するだけで、その結婚生活が続くかどうかを90%以上の確率で予測できるというものです。
ゴットマン博士は、将来離婚する夫婦の会話には、以下の4つのパターンが見られると言います。
- 相手を軽蔑するような発言をする(軽蔑)
- 人格攻撃をする(非難)
- 責任のなすりつけ合いをする(自己弁護)
- 問題にきちんと向き合わない(逃避)
夫もしくは妻から、このような会話や態度を感じたことはありませんか。ご自身がこのような会話をしていませんか。
軽蔑(相手を見下す言葉)
最も破壊的とされるのが「軽蔑」です。相手をばかにしたり、見下したりするような言葉や態度が含まれます。
例:「そんなことも分からないの?呆れるね」「ほんと、あなたって役に立たないわよね」
影響:軽蔑は、相手の価値を否定し、尊厳を深く傷つけます。関係における信頼や尊重が失われ、修復が困難になります。
※補足:ゴットマン博士は、4つの危険なパターンのうち、軽蔑を最も離婚に直結する危険要因として特に重視しています。ただし、日本語版の翻訳書では非難の方が害が強いと記載されている箇所もあり、解釈に揺れがあります。本投稿では原著の見解を参考にし、軽蔑が最も深刻であるという立場で紹介しています。
非難(相手の人格を責める)
非難とは、相手の行動ではなく人格そのものを責める言い方です。
例:「また遅刻?ほんと、あなたって自己中だよね」「いつもだらしない。親になった自覚あるの?」
影響:非難が繰り返されると、相手は防衛的になり、対話の質が下がります。感情的な距離が生まれやすくなります。
自己弁護(責任の押しつけ合い)
自己弁護とは、非難されたときに自分を守ろうとして、相手に責任を転嫁する反応です。
例:「だって、あなたが先にそんな言い方したんでしょ?」「僕だって疲れてるんだよ。君ばかり文句言うのはおかしいよ」
影響:自分を守るつもりでも、相手との信頼関係が崩れやすくなります。問題の本質に向き合う機会が失われてしまいます。
逃避(問題から目をそらす)
逃避とは、話し合いを拒んだり、無言になったり、感情的に距離をとることです。
例:話しかけても無視する、返事をしない、スマホを見続ける、「もう話したくない」と言って離れる
影響:逃避が続くと、「どうせ言ってもムダ」と相手が感じ、あきらめや孤独感が強まります。
ゴットマン博士とは
ジョン・M・ゴットマン博士は、アメリカの臨床心理学者・心理学研究者です。
夫婦の会話、表情、心拍、声のトーンなどを科学的に分析し、夫婦関係の未来を高い精度で予測する研究成果は、世界中の臨床家に大きな影響を与えています。アメリカでは彼の理論を基にした夫婦セラピーが広く行われ、夫婦関係改善の専門的な支援に役立てられています。
ゴットマン博士の理論は日本ではあまり知られていません。その理由には、いくつかの文化的・制度的な背景が考えられます。
- 日本では、感情を率直に伝えるよりも我慢や沈黙が美徳とされる文化が根強く、ゴットマンの理論が前提とする「感情の表現と対話」が馴染みにくい。
- 心理職における夫婦カウンセリングの比重が低く、医療・発達・教育分野に重きが置かれてきた。
- 「夫婦の問題をカウンセリングで解決する」という考え方自体が、まだ一般的ではない。
以上はあくまで私見ですが、日本ではゴットマン博士の著書の翻訳も少なく、一部は廃刊となっています。
4つのパターンを修正する
ゴットマン博士が明らかにした「関係を壊す4つのパターン」は、気づくことさえできれば修正可能なものです。完璧な夫婦である必要はなく、お互いの違いに気づき、尊重し、対話を積み重ねていくことが大切です。
感情を否定せず、冷静に、思いやりをもって伝える。そんな対話が、壊れかけた関係に再びつながりをもたらす第一歩になります。
以下のコミュニケーションに関するシリーズ投稿も参考になると思います。
夫婦カウンセリングではどのようにサポートするか
「軽蔑」「非難」「自己弁護」「逃避」
これらのパターンが繰り返される関係性において、当事者同士で関係の修復を図ることは、非常に困難なこともあります。夫婦カウンセリングでは、以下のような形でサポートを行います。
当カウンセリングルームでは、家族療法の学派の一つである、コミュニケーション派の理論に基づくカウンセリングを行っています。文字通りコミュニケーションに焦点を当てるサポートです。興味のある方は是非お試し下さい。
参考ページ:夫婦のコミュニケーションのカウンセリング
今のコミュニケーションパターンに焦点を当てる
当カウンセリングルームで行うブリーフセラピー・家族療法では、問題の原因を個人に求めるのではなく、関係性やコミュニケーションのパターンの中にあると捉えます。感情的なすれ違いが積み重なることで、やがて軽蔑や非難といった破壊的なやりとりに発展していきます。
カウンセリングでは、こうしたやりとりの背後にある相互作用に目を向け、対話の流れを丁寧に言語化していきます。感情に共感しながらも、原因や犯人探しをしないアプローチだからこそ、「責め合わずに振り返る」ことができ、関係改善への第一歩を踏み出しやすくなります。
安全な対話の場をつくる
パートナーとの対話の中で強い感情が出てしまい、冷静な話し合いが難しいと感じている場合でも、カウンセラーが介在することで安全な環境を保ちます。「自分の気持ちを落ち着いて言えること」「相手の話を途中で遮らずに聴けること」を少しずつ体験しながら、より建設的な対話のスタイルを築いていきます。
感情の背景を理解する
軽蔑や非難などの表現の奥には、しばしば「傷つき」「失望」「孤独感」「不安」などの感情が隠れています。カウンセリングでは、そうした一次感情に立ち返り、攻撃ではなく“本当に伝えたいこと”を探っていきます。
小さな変化が関係を動かす
ゴットマン博士の研究においても、関係を修復できた夫婦には「修復の試みを受け入れる柔軟さ」や「肯定的な感情を意図的に育てる行動」が見られるとされています。カウンセリングでは、そうした小さな積み重ねをサポートし、関係の再構築を伴走していきます。ブリーフセラピーの考え方では、「小さな変化が大きな変化を生み出す」とされています。一つひとつの小さな前進が、やがて関係全体を動かしていく力になります。
一人での相談も可能です
パートナーがカウンセリングに来ることに抵抗がある場合もあります。そのようなときは、お一人でのご相談も可能です。自分自身の感じ方や受け取り方を見つめなおすことで、関係全体に変化が生まれることもあります。
夫婦関係は、どちらか一方だけでつくるものではありません。しかし、どちらかが「変わろう」と思うことがきっかけで、関係は確実に動き始めます。そのきっかけを支えるのが、夫婦カウンセリングの役割です。