【アイメッセージ】親密さと関係を育てるコミュニケーション(2)

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

関係を育てるには、好きなことを一緒に楽しむだけでは足りません。夫婦・家庭の将来象など、重要なことで一致を重ねていく必要があります。価値観の違いがありながらも、お互いが納得できる着地を積み重ねることが、2人の関係を発展させます。

自分も相手も尊重しながら、自分の考えをしっかり伝える

前回の続きです。

【仲が良い ≠ 関係が良い】親密さと関係を育てるコミュニケーション(1)

「言いたいことを言えない、でも相手を傷つけたくない」というジレンマに、私たちはしばしば直面します。

このような状況で役立つのが、アサーティブコミュニケーションです。アサーティブコミュニケーションとは、自分も相手も大切にする自己表現です。自分の感情や意見を、相手を尊重しながら伝える方法です。

夫婦間でこのスキルを身につけることは、誤解を減らし、互いの理解を深めるために非常に効果的です。今回は、アサーティブコミュニケーションの基本と、夫婦間での実践方法についてお話しします。

アサーティブコミュニケーション

自己表現には、アサーティブコミュニケーションを含む3つのタイプがあります。あとの2つは、攻撃的コミュニケーションと受動的(非主張的)コミュニケーションです。それぞれを説明します。

攻撃的なコミュニケーション

攻撃的なコミュニケーションは、自分の意見を強く主張し、相手の感情や意見を無視するスタイルです。「I’m OK. You are not OK.」と表されます。この方法では、しばしば相手を非難し、自分の意見を強制します。

特徴と例

  • 自分の意見を強く主張する。
  • 一方がもう一方に対して、「いつもやることが遅い!」や「何もかも間違っている!」といった非難をする。
  • 相手の意見や感情を無視、軽視する。
  • 感情的になり、声を荒らげて相手を非難する。
  • 非難や指摘が多い。
  • 相手の意見や感情を考慮せず、自分の意見の正しさを強調する。

影響

  • 相手を傷つけて、信頼関係を損なう可能性が高い。
  • 相手が防御的になったり、反発したりすることで、さらなるコミュニケーションの障害が生じる可能性がある。
  • 結果として、夫婦間の感情的な距離が広がり、解決が困難になる問題が生じる可能性がある。
  • 自分:短期的には満足感があるが、長期的には孤立するリスク。
  • 相手:傷つき、反発する可能性が高い。

背景

  • コントロールや優位を保とうとする心理。
  • 自己表現の方法として攻撃的な態度を取ることを学んできた背景。

夫婦関係では、相手に敬意を示し、相手の意見や感情を尊重することが重要です。攻撃的なコミュニケーションは、この基本的な尊重を欠いているため、通常は避けるべきです(「絶対に」ではありません。理由は後ほど)。

受動的なコミュニケーション

受動的なコミュニケーションは、自分の感情や意見を抑え、相手に合わせる傾向があります。「I’m not OK. You are OK.」と表されます。こうしたスタイルでは、自分のニーズや意見が後回しにされ、満たされない感情が残りやすいです。

特徴と例

  • 自分の意見や感情を抑える。
  • 一方がもう一方の意見に常に従い、自分の意見や感情を表現しない。
  • 相手に合わせる、譲歩することが多い。
  • 相手が提案したことにいつも「いいよ」と答えるが、本当は不満を感じている。
  • 自分のニーズを後回しにする。
  • 自分の欲求やニーズを後回しにして、相手を優先させる。

影響

  • 自分の本当の感情やニーズを隠してしまうため、不満が積み重なることがある。
  • 相手は自分の真の感情や考えを知ることができず、誤解が生じやすくなる。
  • このような状況は、長期的には関係の不均衡を生じさせ、満足のいく関係の構築を妨げる可能性がある。
  • 自分:内面的な不満やストレスが蓄積。
  • 相手:自分の意見や感情が不明瞭で、関係が深まりにくい。

背景

  • 衝突を避けるための防衛機制
  • 自己主張を抑えることで、承認や受容を求める心理。

防衛機制とは、人々が心理的ストレスや不快な感情を無意識に処理し、自分を保護するための心理的な戦略です。不安やストレスを感じるときに、それらの感情を抑えたり、現実から目を背けたりする方法です。抑圧、否定、合理化、投影、退行、昇華などがあります。

受動的コミュニケーションは、表面的な調和を保つかもしれませんが、真の理解や満足にはつながらないため、通常は避けるのが望ましいです(「絶対に」ではありません。理由は後ほど)。

アサーティブコミュニケーション

攻撃的もしくは受動的なコミュニケーションは、誤解や不満を招きやすいため、アサーティブ(自分も相手も大切にする)なコミュニケーションが望ましいです。

特徴

  • 自分の意見や感情をはっきりと伝える。
  • 相手の意見や感情を尊重する。
  • 開かれたコミュニケーションと対話を促進する。

例)攻撃的 ➡ アサーティブ

  • 攻撃的:「いつもやることが遅い!」
  • アサーティブ:「時間通りに物事を進めることが大切だと思う。スケジュールについて話し合いたい」

例)受動的 ➡ アサーティブ

  • 受動的:「いいよ」(本当は不満を感じている)
  • アサーティブ:「君の提案を理解するよ。でも、私の考えも話したい。こんな提案はどうだろう?」

影響

  • 自分:自己尊重感が高まり、自信を持てるようになる。
  • 相手:尊重されていると感じ、関係が強化される。

背景

  • 健全な自己表現と相手への配慮のバランスを重視する心理。
  • コミュニケーションにおける平等と相互尊重を大切にする価値観。

自分の意見をはっきりと述べつつ、相手の立場や感情も考慮に入れることが重要です。伝え方の一つに、「私はこう思うけど、あなたはどう思う?」という言い方があります。自分の意見を尊重しつつ、相手にも話を聞く余地を残します。

アサーティブにコミュニケーションを取ることで、互いのニーズや期待を明確にしつつ、相手を尊重するバランスを保つことができます。これにより、健全な関係を築き、互いの理解を深めることが可能になります。

常にアサーティブコミュニケーションでなければ、ということではない

いかなるときでもアサーティブコミュニケーションであるべきかと問われると、必ずしもそうではありません。

理不尽な要求にはNoを返す権利があります。相手が強硬に理不尽な要求を押しつけてくる場合は、強く拒否の姿勢を示す必要があるかもしれません。「あなたの要求は受け入れられません」と宣言するのは、自分を尊重することです。広義のアサーティブコミュニケーションと言えます。

強烈な怒りをぶつけられて、怖くて話せないこともあるでしょう。何を言っても火に油を注ぐ結果になることもありえます。そのようなときは、自分を守るために受動的であるのが望ましいこともあります。その選択も広義のアサーティブコミュニケーションと言えます。

アイメッセージ(「私」を主語にして、考え・気持ちを伝える)

アサーティブコミュニケーション第一歩目アイメッセージです。アイメッセージとは、私を主語に考えや気持ちを伝える言い回しです。

以下の2つのメッセージは同じことを訴えています。

  1. 何でいつも散らかしっぱなしやの?
  2. 片付いてると落ち着けるねん。一緒に片づけて。

同じことを訴えているのですが、自分が言われる立場になったとき、どちらのほうが受け入れやすいでしょうか。おそらく2.でしょう。

違いは主語です。

  1. あなたは)何でいつも散らかしっぱなしやの?
  2. 私は)片付いてると落ち着けるねん。一緒に片づけて。

アイメッセージI message)とは、自分の気持ちや考えを表現する際に「私は」という表現を使う方法です。ユーメッセージYou message)は「あなたは」という表現を用いる方法です。

ユーメッセージ相手の行動を批判する表現になりやすいです。相手の反発を招きやすい言い回しになります。

上記の例文は疑問形になっていますが、相手の答えを求めるより、相手を批判する目的で使われることがしばしばです。相手が「○○○だから…」と答えると、「片づけた後でいいでしょ!」とか「言い訳はやめて!」と返すのが、ありがちなパターンです。

アイメッセージ自分の気持ちの表現にとどまります。相手は責められたと感じにくく、相手が受け止めやすい言い回しです。

  1. ユーメッセージ:あなた + 行動・発言
  2. アイメッセージ:私 + 気持ち・考え

アイメッセージを使用することで、自分の感情やニーズを明確に伝えつつ、相手に攻撃的にならずに済むため、夫婦間での理解と協力が促進されます。

自分の気持ち・考えを言語化する

アイメッセージで伝えるためには、自分の気持ち考え言葉にする必要があります。

ユーメッセージが習慣になっている人は、自分の気持ち考え言語化しない傾向があります。気持ちや考えの言語化が苦手な人もいます。

言語化しない人・苦手な人は、ストレスをためて、怒りで表現しやすい傾向があります。ストレスをためると、人は「あなた + 行動・発言の批判」の形で表現します。相手の反発を招きやすい言い回しです。

アイメッセージを用いるためには、自分の気持ち考え言語化する必要があります。

次回は、自分の気持ち考え言語化する「自分自身との対話」です。

【自分自身との対話】親密さと関係を育てるコミュニケーション(3)

まとめ

  • コミュニケーションには3つの型があります。
    • 相手も自分も尊重しながら自分の考えや感情を表現するアサーティブ・コミュニケーション。
    • 相手の気持ちを無視する攻撃的なコミュニケーション。
    • 自分の欲求を抑える受動的なコミュニケーション。
  • アサーティブなコミュニケーションは、パートナー同士のオープンな対話と理解を可能にし、より強いつながりをもたらします。
  • 攻撃的なコミュニケーションでは、「あなた + 行動・発言の批判」の形で行われます。この形は気持ちが伝わらないだけではなく、相手の反発を招きやすい表現です。
  • アサーティブコミュニケーションの第一歩目は、自分の気持ちを「私は」で表現するアイメッセージです。
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