関係を育てるには、好きなことを一緒に楽しむだけでは足りません。夫婦・家庭の将来象など、重要なことで一致を重ねていく必要があります。価値観の違いがありながらも、お互いが納得できる着地を積み重ねることが、2人の関係を発展させます。
自分も相手も尊重しながら、自分の考えをしっかり伝える
前回の続きです。
【仲が良い ≠ 関係が良い】親密さと関係を育てるコミュニケーション(1)
「言いたいことを言えない、でも相手を傷つけたくない」というジレンマに、私たちはしばしば直面します。
このような状況で役立つのが、アサーティブコミュニケーションです。アサーティブコミュニケーションとは、自分も相手も大切にする自己表現です。自分の感情や意見を、相手を尊重しながら伝える方法です。
夫婦間でこのスキルを身につけることは、誤解を減らし、互いの理解を深めるために非常に効果的です。今回は、アサーティブコミュニケーションの基本と、夫婦間での実践方法についてお話しします。
アサーティブコミュニケーション
自己表現には、アサーティブコミュニケーションを含む3つのタイプがあります。あとの2つは、攻撃的コミュニケーションと受動的(非主張的)コミュニケーションです。それぞれを説明します。
攻撃的なコミュニケーション
攻撃的なコミュニケーションは、自分の意見を強く主張し、相手の感情や意見を無視するスタイルです。「I’m OK. You are not OK.」と表されます。この方法では、しばしば相手を非難し、自分の意見を強制します。
特徴と例
影響
背景
夫婦関係では、相手に敬意を示し、相手の意見や感情を尊重することが重要です。攻撃的なコミュニケーションは、この基本的な尊重を欠いているため、通常は避けるべきです(「絶対に」ではありません。理由は後ほど)。
受動的なコミュニケーション
受動的なコミュニケーションは、自分の感情や意見を抑え、相手に合わせる傾向があります。「I’m not OK. You are OK.」と表されます。こうしたスタイルでは、自分のニーズや意見が後回しにされ、満たされない感情が残りやすいです。
特徴と例
影響
背景
※防衛機制とは、人々が心理的ストレスや不快な感情を無意識に処理し、自分を保護するための心理的な戦略です。不安やストレスを感じるときに、それらの感情を抑えたり、現実から目を背けたりする方法です。抑圧、否定、合理化、投影、退行、昇華などがあります。
受動的コミュニケーションは、表面的な調和を保つかもしれませんが、真の理解や満足にはつながらないため、通常は避けるのが望ましいです(「絶対に」ではありません。理由は後ほど)。
アサーティブコミュニケーション
攻撃的もしくは受動的なコミュニケーションは、誤解や不満を招きやすいため、アサーティブ(自分も相手も大切にする)なコミュニケーションが望ましいです。
特徴
例)攻撃的 ➡ アサーティブ
- 攻撃的:「いつもやることが遅い!」
- アサーティブ:「時間通りに物事を進めることが大切だと思う。スケジュールについて話し合いたい」
例)受動的 ➡ アサーティブ
- 受動的:「いいよ」(本当は不満を感じている)
- アサーティブ:「君の提案を理解するよ。でも、私の考えも話したい。こんな提案はどうだろう?」
影響
背景
自分の意見をはっきりと述べつつ、相手の立場や感情も考慮に入れることが重要です。伝え方の一つに、「私はこう思うけど、あなたはどう思う?」という言い方があります。自分の意見を尊重しつつ、相手にも話を聞く余地を残します。
アサーティブにコミュニケーションを取ることで、互いのニーズや期待を明確にしつつ、相手を尊重するバランスを保つことができます。これにより、健全な関係を築き、互いの理解を深めることが可能になります。
常にアサーティブコミュニケーションでなければ、ということではない
いかなるときでもアサーティブコミュニケーションであるべきかと問われると、必ずしもそうではありません。
理不尽な要求にはNoを返す権利があります。相手が強硬に理不尽な要求を押しつけてくる場合は、強く拒否の姿勢を示す必要があるかもしれません。「あなたの要求は受け入れられません」と宣言するのは、自分を尊重することです。広義のアサーティブコミュニケーションと言えます。
強烈な怒りをぶつけられて、怖くて話せないこともあるでしょう。何を言っても火に油を注ぐ結果になることもありえます。そのようなときは、自分を守るために受動的であるのが望ましいこともあります。その選択も広義のアサーティブコミュニケーションと言えます。
アイメッセージ(「私」を主語にして、考え・気持ちを伝える)
アサーティブコミュニケーションの第一歩目はアイメッセージです。アイメッセージとは、私を主語に考えや気持ちを伝える言い回しです。
以下の2つのメッセージは同じことを訴えています。
- 何でいつも散らかしっぱなしやの?
- 片付いてると落ち着けるねん。一緒に片づけて。
同じことを訴えているのですが、自分が言われる立場になったとき、どちらのほうが受け入れやすいでしょうか。おそらく2.でしょう。
違いは主語です。
- (あなたは)何でいつも散らかしっぱなしやの?
- (私は)片付いてると落ち着けるねん。一緒に片づけて。
アイメッセージ(I message)とは、自分の気持ちや考えを表現する際に「私は」という表現を使う方法です。ユーメッセージ(You message)は「あなたは」という表現を用いる方法です。
ユーメッセージは相手の行動を批判する表現になりやすいです。相手の反発を招きやすい言い回しになります。
上記の例文は疑問形になっていますが、相手の答えを求めるより、相手を批判する目的で使われることがしばしばです。相手が「○○○だから…」と答えると、「片づけた後でいいでしょ!」とか「言い訳はやめて!」と返すのが、ありがちなパターンです。
アイメッセージは自分の気持ちの表現にとどまります。相手は責められたと感じにくく、相手が受け止めやすい言い回しです。
- ユーメッセージ:あなた + 行動・発言
- アイメッセージ:私 + 気持ち・考え
アイメッセージを使用することで、自分の感情やニーズを明確に伝えつつ、相手に攻撃的にならずに済むため、夫婦間での理解と協力が促進されます。
自分の気持ち・考えを言語化する
アイメッセージで伝えるためには、自分の気持ちや考えを言葉にする必要があります。
ユーメッセージが習慣になっている人は、自分の気持ちや考えを言語化しない傾向があります。気持ちや考えの言語化が苦手な人もいます。
言語化しない人・苦手な人は、ストレスをためて、怒りで表現しやすい傾向があります。ストレスをためると、人は「あなた + 行動・発言の批判」の形で表現します。相手の反発を招きやすい言い回しです。
アイメッセージを用いるためには、自分の気持ちや考えを言語化する必要があります。
次回は、自分の気持ち・考えを言語化する「自分自身との対話」です。
【自分自身との対話】親密さと関係を育てるコミュニケーション(3)
まとめ
- コミュニケーションには3つの型があります。
- 相手も自分も尊重しながら自分の考えや感情を表現するアサーティブ・コミュニケーション。
- 相手の気持ちを無視する攻撃的なコミュニケーション。
- 自分の欲求を抑える受動的なコミュニケーション。
- アサーティブなコミュニケーションは、パートナー同士のオープンな対話と理解を可能にし、より強いつながりをもたらします。
- 攻撃的なコミュニケーションでは、「あなた + 行動・発言の批判」の形で行われます。この形は気持ちが伝わらないだけではなく、相手の反発を招きやすい表現です。
- アサーティブコミュニケーションの第一歩目は、自分の気持ちを「私は」で表現するアイメッセージです。