不倫を「心の殺人」と呼ぶ理由

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

不倫は心の殺人

不倫・浮気は、築いてきた信頼を根本から壊す行為です。「心の殺人」「魂の殺人」と表現する人がいるほど、傷つけられた側の心のダメージは深刻です。

特に、自分の存在価値そのものを否定される感覚―自己肯定感の傷つき―は、過去・現在・未来にわたって影響を及ぼします。ここでは、不倫が「心の殺人」と呼ばれる理由を自己肯定感の観点から説明します。

また、関係回復・再構築に向けて、傷つけた側・傷つけられた側のそれぞれに必要な姿勢にも触れます。

パートナーの不倫は自分の存在価値を揺るがす

不倫は、現在の信頼関係を壊すだけでなく、自分という存在の価値そのものを揺るがします。「裏切られた」という事実が、「自分には価値がないから裏切られた」という自己否定へと変わるからです。これが「心を殺される」と表現される核心です。

自己肯定感が根底から傷つく

自己肯定感(心理学では「自尊感情」とも呼びます)とは、「自分は価値ある存在だ」という感覚のことです。不倫という裏切りは、その感覚を根底から揺るがします。

傷つけられた側は、不倫を知った瞬間から次のような思いにとらわれます。

  • 「自分に魅力がなかったから、裏切られたのではないか」
  • 「こんな人をパートナーに選んだ自分はおかしいのではないか」
  • 「自分だけが裏切りに気づいていなかった。恥ずかしい」
  • 「自分には、愛される価値がないのかもしれない」

これらは事実ではありません。しかし、最も信頼していた相手に裏切られたという現実が、自分に対する否定的な見方を一気に強めます。カウンセリングの現場では、不倫後に自己肯定感が著しく低下するケースを多く見てきました。

傷は過去・現在・未来の三方向に及ぶ

自己肯定感の傷つきは、「今この瞬間」だけの問題ではありません。過去・現在・未来の三方向に影響が及ぶ点が、不倫による傷の深刻さの一つです。

過去については、幸せだったはずの記憶が疑念や痛みと結びつき、大切にしていた思い出が苦しみの引き金に変わります。現在については、不眠・食欲不振・強い混乱など、日常生活全体に影響が及びます。未来については、「また裏切られるかもしれない」という恐れや、「許せない自分が嫌だ」という二重の自己否定が生じます。

さらに、最も信頼すべき相手に裏切られた経験は、他者全般への信頼感を失わせます。仕事・対人関係・子育てなど、生活の広い範囲に影響が及ぶことも、めずらしくありません。

これらの症状や影響の詳細については、以下のページで解説しています。

パートナーの不倫によって負う傷はトラウマに相当することが多く、PTSDの症状が現れる方もいらっしゃいます。当カウンセリングルームでは、特にフラッシュバックの苦しさを訴えられる方が多いです。不倫・浮気のフラッシュバックについては以下のページで解説しています。

心のケアの主体は、傷つけたあなた自身

不倫後の関係回復・再構築において、心のケアの主役は傷つけた側本人です。カウンセラーはサポート役にとどまります。傷つけた側がケアを他人に委ねる姿勢は、パートナーをさらに深く傷つけます。

「これからは誠実に向き合います」と言いながら、パートナーの心のケアをカウンセラーに任せようとする方がいます。しかし、それは傷つけられた側に「責任を他人に肩代わりさせている」と受け取られます。

信頼を取り戻すには、次の姿勢が求められます。

  • 言葉だけでなく、日常のふるまいで誠実さを示す
  • パートナーの痛みに、自ら寄り添い続ける
  • 心のケアを他者に委ねることなく、自分が主体となって関わる

専門家のサポートが必要な時期があることは事実です。しかし、最も深い傷を負わせたのはあなた自身です。その痛みに寄り添うのは、あなた自身の役割です。

再構築を望むとき、傷つけられた側に必要な視点

夫婦関係を続けると決めた場合、どこかの段階(心の傷の回復が一定程度達成できた時点)で「これまでの関係を振り返る視点」が回復の助けになることがあります。これは加害者の責任を軽くする話ではなく、前に進むための姿勢の問題です。

不倫という行為の責任は、全面的に行動を選んだ側にあります。この点は変わりません。

ただし、不倫に至る背景として次のような状況が見られることがあります。

  • 長期間にわたるコミュニケーションの不足
  • 不満やすれ違いの蓄積
  • 一方的に責め続ける言動の繰り返し

「自分にも見直すべき点はあったか」と振り返ることは、自分を責めることとは違います。それは、関係を前に進めるための能動的な一歩です。

注意が必要なのは、加害した側がこの視点を「責任転嫁」に利用しようとする場面です。振り返りは、傷つけられた側の心の傷のケアが十分に進んでからの取り組みです。傷が癒えていない段階で求めるものではありません。

関係修復に向けた双方への整理

不倫後の関係修復には、加害した側・傷つけられた側それぞれに果たすべき役割があります。責任の所在を明確にしたうえで、双方が誠実に向き合うことが回復の条件です。

傷つけた側に求められること

  • 言い訳をせず、与えた傷の重さに向き合う
  • 心のケアをカウンセラーに任せるだけではなく、自ら主体的に関わる
  • 「変わる」という言葉を、日常の行動で示し続ける

傷つけられた方へ

  • 「今はまだ許せない」という気持ちは、そのままでかまいません
  • 自己肯定感が傷ついているのは、あなたのせいではありません
  • 関係を続けると決めても、自分を責める必要はありません
  • 振り返りが必要になる時期は、あなた自身が判断して下さい

傷ついた心が回復するには時間がかかります。焦らず、自分のペースで向き合っていくことが大切です。

不倫からの関係回復・再構築のカウンセリングは以下のページをご覧下さい。

Q&A

Q
なぜ「心の殺人」や「魂の殺人」という表現を使うのですか?
A

不倫の裏切りは、過去の思い出や築いてきた信頼関係を壊すだけでなく、「自分には価値がないのでは」という自己否定を引き起こします。自己肯定感が根底から傷つき、心の一部が壊されたと感じることがあります。幸せだった記憶すら苦しみの源に変わるその深刻さを表すために、この表現を用いています。

Q
自己肯定感が傷つくとは、どういうことですか?
A

「自分は価値ある存在だ」という根本的な感覚が揺らぐことです。不倫を知った後、「魅力がないから裏切られた」「愛される価値がないのかもしれない」という思いにとらわれる方が多くいます。これは事実ではありませんが、最も信頼していた相手に裏切られたという現実が、自分への否定的な見方を強めます。

Q
パートナーの心のケアをカウンセラーに任せてはいけないのですか?
A

いけないということではありません。専門家の支援が必要な時期は確かにありますが、それだけに頼ってしまうのは不十分です。パートナーに最も深い傷を負わせたのは、傷つけた側のあなた自身です。その痛みに寄り添い、自ら関わる姿勢が関係回復の第一歩です。

Q
傷つけられた側が、自分を振り返る必要はあるのでしょうか?
A

不倫の責任は全面的に加害者側にあります。ただし、夫婦関係の回復を目指す場合、これまでの関係の背景を振り返ることが助けになることがあります。これは心の傷のケアが進んでから取り組むことです。優先すべきは心の傷のケアです。

Q
傷つけた側が「被害者にも悪いところがあった」と言うのは正当ですか?
A

不倫を正当化するために相手の行動を持ち出すのは責任転嫁です。振り返りは、双方が再構築の意思で一致したうえで、二度と繰り返さないために二人の関係性を見直す必要が生じた場合に行われることです。それは傷ついた心のケアが十分に終わってからの取り組みです。加害者が自らの責任を軽くするために利用してよいものではありません。

Q
「許せない」という気持ちがずっと続いています。おかしいですか?
A

おかしくありません。自己肯定感が深く傷ついた場合、回復には時間がかかります。「許せない」という気持ちは、傷が癒えていないサインです。「早く許さなければ」と自分を急かす必要はありません。そのペースで向き合っていくことが、本当の回復につながります。

Q
夫婦関係を続けるか、別れるか決めかねています。どう考えればよいですか?
A

どちらの選択にも深い葛藤があるのは当然です。まずは、自分の感情を十分に理解し、落ち着いて考えられる状態をつくることが大切です。可能であれば、専門家の支援を受けながら、自分にとって納得のいく選択肢を探っていくことをおすすめします。

この投稿の執筆者
山崎 孝

開業15年、延べ9,000回以上のカウンセリング経験を持つカウンセラー。大阪を拠点に、ブリーフセラピー(短期解決型カウンセリング)と家族療法を主軸に、不倫・浮気、セックスレス、コミュニケーション改善など夫婦・カップルの問題解決をサポートしています。

自身も夫婦関係に困難な時期を経験したことがあり、その経験が来談者の苦しみへの理解につながっていると感じています。理論だけでなく、当事者としての視点からも、来談者の苦しみに向き合うことを大切にしています。

公認心理師(第36732号:厚生労働省)
ブリーフセラピスト・ベーシック(B00196号:国際ブリーフセラピー協会)
家族相談士(第2021号:家族心理士・家族相談士資格認定機構)

カウンセラーの詳しいプロフィール

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