
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト
パートナーの不倫が発覚してから、毎日が苦しいのではないでしょうか。ふとした瞬間に場面が蘇る。楽しいはずの時間に突然、気持ちが崩れる。「忘れようとしているのに、なぜ思い出してしまうのか」と自分を責めていませんか。
このような体験は、心が深く傷ついているサインです。あなたがおかしいのではありません。異常な出来事に対する、正常な反応です。このページでは、フラッシュバックが起きる理由と、回復に向けてできることをお伝えします。

フラッシュバックとは、過去の記憶(体験)が、あたかも今この瞬間に起きているかのように感じている(体験している)状態のことを指します。トラウマ(心的外傷)の代表的な症状のひとつです。トラウマの主な症状は以下の4つです。
フラッシュバックは「思い出したくないのに思い出す」という点で、通常の記憶とは異なります。過去のできごとであるにもかかわらず、「今ここで起きているように」感じられるのが特徴です。
フラッシュバックや侵入思考が続いているなら、一人で抱え込まないで下さい。カウンセリングでは、症状の整理と対処法の習得から始めることができます。→ カウンセリングの進め方を見る
なお、よく耳にする「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」の『T』は、このトラウマ(Trauma)の頭文字です。
トラウマというと、事故や災害など命にかかわる体験を思い浮かべる方が多いかもしれません。それは正しい認識ですが、現在のトラウマ臨床では、トラウマを2つの意味で捉えています。

【狭義のトラウマ】PTSDの診断基準に該当するものです。「実際に、危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事」がこれに当たります。
【広義のトラウマ】「こころのケガ」と表現されます。身体的・精神的に大きなダメージを受け、その後の生活に長く影響を与える体験全般を指します。次のような出来事がこころのケガになりえます。
PTSDの診断がなくても、こころのケガを負った状態は本物の苦しみです。「大げさだ」「気にしすぎだ」と思う必要はありません。
不倫によるトラウマは、交通事故や自然災害のような「一回の衝撃」とは性質が異なることがあります。カウンセリングの現場で感じるのは、発覚後の苦しみだけでなく、発覚にいたるまでのプロセスそのものが、深刻な傷になっているケースが少なくないということです。
こうした「疑い → 否定 → 自分がおかしいのかという混乱」のくり返しは、受ける側を大きな消耗させます。発覚したころには、すでに長期にわたって傷つき続けていたということもめずらしくありません。
トラウマには、一回の衝撃から生じるもの(以下、単回性トラウマ)と、くり返される体験から生じるもの(以下、複雑性トラウマ)があります。
単回性トラウマは、事故や自然災害、犯罪被害などが代表例です。PTSDとして診断されることがあります。複雑性トラウマは、長期にわたる虐待やDV、繰り返される嘘や隠蔽がこれにあたります。
国際疾病分類(ICD-11)に採用された「複雑性PTSD」は、複雑性トラウマに対応した診断概念です。通常のPTSD症状に加えて、感情のコントロールのむずかしさ、強い自己否定感、他者と親密になることへの恐れ、といった状態が特徴的に見られます。
不倫が発覚する前、多くの方が「おかしい」と感じながらも確信が持てない時期を過ごしています。怪しい言動や問い詰めたときの否定や逆ギレの繰り返しなどによって、複雑性PTSDに似た状態に陥る方が一定数いらっしゃいます。
以下の概念は診断基準ではありませんが、傷ついた側・傷つけた側が「何が起きているのか」を共通の言葉で理解するうえ役立ちます。
【裏切りトラウマ】とは、信頼して依存していた相手に裏切られることで生じる傷です。不倫の発覚は、信頼・安全感・愛されている自分という感覚の3つを同時に破壊します。「信じたいのに信じられない」という矛盾の中で、深い混乱が生じます。
【関係性トラウマ】とは、逃げられない親密な関係の中で、繰り返し心理的な傷を受けることで生じます。不倫では、嘘・隠蔽・否定がくり返されることで、関係そのものが安心できない場所になってしまいます。
【愛着トラウマ】とは、心の安全基地が壊されることによって負う傷です。パートナーは本来「心の安全基地」です。その絆が壊されることは、深い孤独感や見捨てられ不安を引き起こします。
不倫した側がされた側の傷を理解していない、軽く考えている(とパートナーが感じている)状態は、関係の回復にマイナスであることは容易に想像できると思います。長々と書いているのは、そのマイナスを少しでも減らす役に立つと考えるからです。
フラッシュバックは視覚、聴覚、嗅覚、身体感覚で体験します。また、感情がフラッシュバックすることもあります。
不倫相手との場面や、嘘をついていたときの表情が映像として浮かびます。その場面を「今見ている」ような感覚になることもあります。
発覚のときに聞いた言葉や、特定の声が蘇ることがあります。会話の記憶がループのように繰り返されることもあります。
特定の香水や、帰宅時の匂いがきっかけになることがあります。匂いは感情記憶と強く結びついています。
胸が締め付けられる、吐き気がする、体が固まるといった身体反応が突然起きることがあります。これも立派なフラッシュバックです。
映像や音がないにもかかわらず、突然、強い恐怖・怒り・悲しみが湧いてくることがあります。「何が引き金か分からないのに気持ちが崩れる」というような、感情のフラッシュバックを体験することがあります。

強いショックを受けると、身体は自動的に危険から身を守ろうとします。ポリヴェーガル理論という神経科学の考え方では、この反応を次のように分類しています。英語の頭文字から「6つのF」と表現されます。
パートナーの不倫は強いショック体験です。これらの反応が起きているとしたら、それはあなたが自分を守るための反応であり、おかしいことご起きているのではありません。フラッシュバックも同じです。

通常の記憶は「過去のできごと」として整理されます。しかしトラウマ記憶は、映像・音・匂い・身体感覚の断片として保存されます。うまく統合されていないため、特定の刺激をきっかけに「今ここで起きているように」体験されます。これがフラッシュバックの本質です。
「なぜこうなるのか分からない」という混乱自体がつらいものです。カウンセリングでは、このメカニズムを一緒に整理することから始めます。→ 相談の流れを見る
日常のさまざまな刺激が、フラッシュバックのきっかけ(トリガー)になります。
夫婦で楽しく過ごしているときや、家族で過ごしている時間に突然フラッシュバックが起きることがあります。これは次の3つの理由で説明できます。
まず、喪失感です。楽しい時間は「安全な関係」を象徴するものです。しかし不倫の発覚後は、その瞬間に「あの信頼はもう存在しない」という喪失が意識されます。パートナーはそこにいる。しかし以前と同じ関係ではない。この「曖昧な喪失」がトリガーになります。
次に、愛着システムの逆転です。親密な時間は本来、安心感を生むはずのものです。しかし裏切りを体験すると、親密さがかえって危険信号として受け取られることがあります。
最後に、認知的な不一致、矛盾です。「楽しいはず」なのに「安全でない」という矛盾を、脳が解決しようとしてトラウマ記憶を呼び戻すことがあります。
関係を大切にしていたからこそトリガーになると考えられます。
フラッシュバックは心の問題だと思われがちです。しかし心と体は密接につながっており、次のような身体症状として現れることがあります。
これらは「気のせい」ではありません。神経系が慢性的に緊張状態にあるために起きる、身体的な反応です。
身体症状が続いているなら、心療内科や精神科への相談も選択肢のひとつです。カウンセリングと医療機関は並行して利用することができます。まずは現在の状況を整理したいという方は、一度ご相談下さい。→ 相談の流れを見る、カウンセリングの詳細を見る
パートナーの不倫を知った後は、強い怒りが前面に出ることがよくあります。その怒りの背後には、より深い感情が隠れていることが多いです。
これらの感情から自分を守るための防御的な反応として、怒りが生じていることがしばしばあります。
さらにその奥に、「恥」の感情があることがあります。
これは「恥」の感情です。罪悪感が「自分の行動が悪かった」という感覚であるのに対し、恥は「自分そのものに問題がある」という感覚です。
はっきり言います。不倫はパートナーの行動の問題です。あなたの価値が否定されたわけではありません。しかし傷ついた心は、この論理をすぐには受け入れられないことがあります。カウンセリングでは、この感情の整理を丁寧に行います。
フラッシュバックやトラウマ症状でカウンセリングを訪れる方の多くは、最初から「カウンセリングが必要だ」と確信していたわけではありません。次のような状況でご相談に来る方が少なくありません。
「こんなことで相談していいのか」と迷いながら連絡して下さる方も多いです。迷っている段階でも、相談に来ていただいて構いません。
一般的に、強いストレスを受けた後の心の反応は、1ヶ月程度で自然におさまることが多いとされています。しかし、不倫によるフラッシュバックは長引きやすい傾向があります。半年以上続くこともめずらしくありません。「安心・安全」を実感しにくいからです。
傷つけた側が誠実に向き合い続けることが、回復を早める最大の要因になります。
トラウマ反応が回復に向かうために必要なのは、安心・安全を実感できることです。以下の条件が整うと、安心・安全を実感できます。
しかし、不倫の場合、これらの条件を満たすのがむずかしいため、トラウマ症状が長引きやすくなります。
不倫によるトラウマ症状が長引きやすいのは、早期に収まる条件が整いにくいからです。
不倫が終わったことを証明できるものは、実質的に存在しません。確認できるのはパートナー自身の言葉や、LINEやメールの文面です。しかし、ごまかそうと思えばごまかせます。GPSで行動を把握しようとしても同じです。パートナーの誠実な行動の積み重ねから判断するしかありません。
不倫再発の可能性を否定できないのも同様です。パートナーの言葉を信じるしかないのに、その本人が裏切った張本人だからです。職場不倫で相手が同じ職場にいる場合は、特に否定しにくい状況です。
「不倫の証拠を見るのはつらい」「しかし、捨てられない」のは、終わりの証明が困難であること、再発の可能性を否定できないことにも関わっています。お守りとして持っておきたい気持ちが生じて、捨てられなくさせることがあります。
関連ページ:不倫・浮気の「証拠を捨てられない心理」について
パートナーの不倫は、他者に相談しにくく一人で抱えてしまいがちです。周囲のケアを得にくくしてしまいます。また、勇気を出して相談すると、「別れなさい」と一方的に言われて、相談できなくなるのもめずらしくありません。
不倫の内容によって、負う傷の大きさや質が異なってきます。
不倫の期間が短い場合と長い場合では、負う傷の大きさや質が変わります。不倫期間が結婚生活の大部分を占めていたというケースもあります。その場合、「今までの人生が否定されたように感じる」「自分の存在を全否定された」と感じるのは当然のことでしょう。
単なる肉体関係ではなく、精神的なつながりが伴っていた場合も、自尊心が強く揺らぐのは想像に難くありません。
傷つけられた側の心理的な背景も関係します。もともと自己肯定感が低い人は、「やっぱり自分は愛されない存在なのだ」と深く傷つきやすくなります。過去に裏切られた経験があると、今回の出来事が過去の記憶と結びつき、より複雑なトラウマ反応につながることもあります。
フラッシュバックが起きたとき、心身を「今ここ」に戻すことが大切です。これをグラウンディングといいます。
ゆっくりと息を吸い、長めに吐き出します。呼吸に意識を向けることで、過覚醒状態の神経系を落ち着けることができます。
足の裏が床についている感覚、手のひらの温かさなど、今この瞬間の身体感覚に意識を向けます。
目の前にある物の色や形を数える、周囲の音に耳を傾けるといった方法が有効です。
「これはフラッシュバックだ。今この瞬間、私は安全にいる」と自分に伝えます。神経系を現在に引き戻す働きがあります。
これらの方法は、知っているだけでなく実際に練習することで効果が高まります。カウンセリングでは、あなたの状況に合った対処法を一緒に身につけることができます。→ カウンセリングのご案内
トラウマからの回復とは、トラウマ記憶に「圧倒されなくなること」です。不倫がなかったことにはなりません。その出来事を「過去のこと」として統合し、今の生活を取り戻していくことです。
当相談室の臨床の経験では、傷つけた側が真摯に向き合い、誠実に取り組んでいる場合、3ヶ月から6ヶ月ほどで「フラッシュバックが起きることはあるが、日常生活を何とか送れている」という状態に落ち着いてくるケースが多いように感じます。
「フラッシュバックはほとんど起こらない」「日々の生活の中で大きな影響はない」と感じられるようになるには、1年程度を要することがめずらしくありません。人によっては数年単位の時間が必要になることもあります。
心の回復は、努力だけで進められるものではありません。安心できる環境、相互の信頼関係、支え合う姿勢の積み重ねによって育まれていくものです。
回復のスピードに影響する要因として、次のものが挙げられます。
一人での対処には限界があります。フラッシュバックが日常生活に影響しているなら、カウンセリングという選択肢を検討して下さい。
トラウマのカウンセリングについて簡単に紹介します。
下図の左側はフラッシュバックを示しています。記憶が侵入してきます。右側は通常の状態を示してます。自分から能動的に記憶にアクセスします。

カウンセリングでは、あえて自分からトラウマ記憶にアクセスして、そのときの感情を言語化します。通常のルートを意識して増やすことで、侵入を減らすことを目的としています。

こうしてトラウマ記憶にアクセスしながら、トラウマ記憶に「圧倒されない」状態で記憶を整理していきます。「圧倒されない」状態で取り組むことが必要であり、カウンセリングはその環境を提供して、整理の促進をサポートします。
「カウンセリングに行くほどのことなのか」と迷う方はめずらしくありません。迷って、気持ちがはっきりしていない段階でご相談に来る方も少なからずいらっしゃいます。
カウンセリングは、今感じていることを整理し、これからを一緒に考える場所です。まず話してみるだけで構いません。当相談室は基本的に聞くだけのカウンセリングは行いません。何らかの提案をさせていただきますが、提案を採用するか否かは、あなた自身が決めることです。
お一人でのご相談も受け付けています。パートナーと一緒でなくても、まずはご自身の状況をお話し下さい。オンラインでのご相談も可能です。