モラルハラスメント

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

モラルハラスメントとは、精神的嫌がらせ精神的暴力を指します。無視やコミュニケーションの拒否、あいまいな言い方や態度などで、被害者を不安にさせて精神的に支配します。侮辱や嘲弄、中傷や悪口といった精神的暴力をふるい、被害者の心を破壊します。

暴力の種類

暴力には以下の種類があります。

  • 身体的暴力
    • 蹴る、首を絞める、髪を引っ張る、突き飛ばす、物を投げつけるなど。
  • 精神的・心理的暴力
    • 暴言を吐く、怒鳴る、無視する、人前で恥をかかせる、殴るふりをする、物を投げつけるふりをするなど。
  • 性的暴力
    • 意思に反した性行為を強要する、暴力的な性行為をする、避妊に協力しない、中絶を強要するなど。
  • 経済的暴力
    • 生活費を渡さない、家計を厳しく管理する、配偶者の収入や貯金に勝手に手をつける、外で働くことを妨害するなど。
  • 社会的隔離
    • 友人や親族との交友関係を制限する、メールや電話の内容を監視する、外出を禁止するなど。
  • 子どもを利用した暴力
    • 子どもに暴力を見せる、子どもを取り上げる、子どもの前で配偶者を非難・中傷するなど。

参照ページ 配偶者暴力防止法 | 内閣府男女共同参画局

モラルハラスメントでは、わかりやすい身体的暴力や性的暴力は行われないか、または少ないです。他の暴力が、被害者に非があるという主張と合わせて行われます。

モラルハラスメントの見分け方

モラルハラスメントの判断はむずかしいことがあります。モラハラ的な行為は、一時的な感情で誰もがしてしまうことがあるからです。両者の違いは以下のように説明できます。

一時的な感情による行為とモラルハラスメントの違いは、前者は一過性で、本人に不適切さの認識反省があります。モラルハラスメントは、繰り返し行われ、加害者は被害者に責任があると考えます。

より詳しい判断の仕方としては、『こころの科学』219号に掲載されている、DV(ドメスティック・バイオレンス)の特徴です。引用します。

DVの特徴(『こころの科学』219号より引用)
  • 暴力を受ける
  • 本来、安心感を取り戻すための居場所が危険な場所となる
  • 慰め、安心させてくれるはずの人が暴力をふるう張本人になる
  • 加害者によって暴力の正当化がおこなわれる
  • 被害者は自信や自己尊重感を奪われ、外部に助けを求めたくても、求められなくなりがちである
  • 逃げるために失うものが多い

モラルハラスメントの本質

フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌによると、モラハラには支配暴力の2段階があります。

不安による支配

罪悪感を感じやすい人が被害者に選ばれます。

加害者は嫌味やため息など、態度不機嫌さを示します。また、加害者は不機嫌の理由を明確にしません。わざとあいまいにします。そうすることによって、被害者を不安にさせます。

加害者の不機嫌には一貫性がありません。あるとき問題ではなかったことが、別のときに問題とされます。被害者がよく言うのは「どこに地雷があるのかわかりません」です。被害者は加害者の顔色を伺うようになります。加害者の帰宅の時間が近づくと落ち着かなくなる人もいます。

ダブルバインドのコミュニケーションで追い詰める加害者、追い詰められる被害者も典型的な例です。

参考ページ【ダブルバインド】どちらを選んでも罰せられる

暴力で服従させる

被害者が状況を変えようとすると、加害者は暴力的になります。被害者の話し合いの試みさえも、加害者は攻撃と捉えます。

侮辱嘲笑中傷、などが執拗に繰り返されます。一つひとつを切り取ると暴力に見えなくても、繰り返されると暴力となります。被害者は心身にダメージを受けます。身体症状として、精神症状として表れます。自殺に追い込まれるケースもあります。

追い込まれた被害者が暴言または暴力をふるってしまうことがあります。加害者はそれを逃しません。DVと声高に非難することで、さらに被害者の心が壊されていきます。

加害者の自己愛性

加害者に見られるのが自己愛的な性格です。以下のような特徴があります。

  • 特別感
    • 自分を特別な存在と思っていて、他人を下に見ています。
  • 承認欲求
    • 他人にほめられることを強く求めます。他人からどのように見られているかを強く気にします。それが外面を良くさせます。
  • 共感性の欠如
    • 他者の気持ちに共感できません。逆に、自分が感じていることは、相手も同じように感じているはずと考えます。
  • ストレス処理の未熟さ
    • 自分で処理できないため、被害者を傷つけて処理します。モラハラ行為が依存症的に繰り返されていることもあります。
  • 批判に対する過剰反応
    • 被害者が別れを切り出すと、暴力をふるう、土下座や涙を流して謝罪する、自傷行為や自殺未遂する、など過剰に反応します。

結婚前には気づけない

周囲から「結婚前に気づかなかったの?」と言われて、さらに傷つくこともあります。

多くの場合、結婚前にモラハラに気づくのはむずかしいです。加害者は外部の人には良い印象を与えることが多いためです。

被害者が自分のテリトリー内に入って、簡単に出られなくなると牙をむき始めます。密室で行われることに加えて、加害者は被害者を社会的に隔離します。友人も家族も実態を知るのがむずかしくなります。

被害者がテリトリーから出ていこうとすると、暴力で引き留める・泣いて謝る・土下座する・自殺未遂するなどの極端な行動を取ることもあります。

被害者の特徴

被害者は、責任感が強く、罪悪感を持ちやすい傾向があります。

責任感が強い人は、問題を自分事として考えます。「他人は変えられない。自分を変えるしかない」と考えます。加害者の他責的な性格が、被害者の責任感の強さ噛み合って、モラルハラスメントの関係が成立します。

被害者に求められることは、自分と相手の境界を明確にして、自分の責任と相手の責任をしっかり認識することです。他人の責任を自分の責任のように感じるのは、被害者に見られる傾向です。

被害者のカウンセリング

被害者のカウンセリングは、心身のダメージ回復と決断の支援を目的とします。離婚の決断は複雑で、慎重な考慮が必要です。

誰が見ても離婚しかないと考える状況であっても、できることをすべてやってから決断したいと思うのが人の心です。決断に向かうプロセスの支援を求められるケースもあります。

加害者のカウンセリング

加害者にカウンセリングを受けさせたいと希望するのは、もっともなことだと思います。この人と人生を歩もうと思って結婚したのですから、加害者が変わるのを願うのは当然です。

多くの場合、加害者が自らカウンセリングを受けることはありません。カウンセリングの提案を自分への攻撃と捉えて、モラハラが悪化する可能性さえあります。

本人に認識があるケースや他者から指摘されて自分のモラハラに気づくケースもあります。この場合は、カウンセリングが有効であると考えられます。

ただし、離婚を回避をするためにカウンセリングを受けて、離婚を回避できた途端にモラハラが再発するのは、典型的なパターンでもあります。時間をかけて慎重に見極める必要があります。

夫婦2人でのカウンセリングは慎重に

DVやモラルハラスメントの場合、夫婦・カップル2人でのカウンセリングを行わないのが通常です。カウンセリングでの会話が、新たなモラハラ行為を誘発する懸念があるからです。ただし、絶対ではありません。迷われている方はご相談下さい。

公的な相談機関

公的な相談機関を紹介しておきます。

DV相談プラス|内閣府 DVのお悩みひとりで抱えていませんか?

電話やメールを24時間受け付ける窓口があります。専門の相談員が一緒に考えます。午後0時~午後10時はチャットでの相談も受け付けています。相談員が必要だと判断した場合は、面接、同行支援などの直接支援、安全な居場所の提供を実施します

DV相談ナビ | 内閣府男女共同参画局

配偶者からの暴力に悩んでいることを、どこに相談すればよいかわからないという方のために、全国共通の電話番号(#8008)から相談機関を案内するDV相談ナビサービスを実施しています。発信地等の情報から最寄りの相談機関の窓口に電話が自動転送され、直接ご相談いただくことができます。

配偶者暴力相談支援センター | 内閣府男女共同参画局

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るため、相談や相談機関の紹介、カウンセリング、緊急時における安全の確保及び一時保護、生活や住まいに関する情報提供などを行っています。

モラハラのリスクを減らすには

モラハラのリスクを減らすためにできることを、個人レベルと家庭レベルで考えます。

個人レベルでできること

被害者の特徴に当てはまると思われる方は、以下に取り組んでみられるのが良いと思います。カウンセリングも大いに力になれるはずです。

  • 自己理解を深める
    • 被害者は責任感が強く、罪悪感を持ちやすい傾向があります。加害者はそこをついてきます。自分と相手の間に境界を引く意識を持ちます。自分の責任と相手の責任を区別して考えられるように努めます。
  • コミュニケーション
  • 外部のサポートを得る
    • 友人やカウンセリングなど、相談できる場所を複数持つことは役に立ちます。自分では気づけないモラハラ状況に気づくきっかけを得やすくなります。

家庭レベルでできること

  • 相互尊重の雰囲気づくり
    • お互いを尊重し、感謝の言葉や肯定的なフィードバックを頻繁に行うようにします。家族内での暴言や嫌味を禁止し、穏やかなコミュニケーションを心がけます。しかし、モラハラの情報を検索するのは、このようなことが行えない状態になったからであり、相互尊重と言われると苦しくなる人もいます。
  • 開かれたコミュニケーション
    • 普段から開かれたコミュニケーションを心かげて、問題が生じたら、できれば兆候を感じたら、話し合う機会を持つようにします。しかし、当事者同士ではコミュニケーションがむずかしいことが多いです。
  • 外部のサポートを得る
    • 当事者同士ではコミュニケーションがむずかしくなっていることが多いです。夫婦・カップルで相談できる場を持っておくと、2人ではむずかしい話し合いも適切に行えます。手前味噌ではありますが、カウンセリングは有力な手段です。

被害者から相談を受けたとき

モラルハラスメントの被害者から相談を受けたときに心がけるべきことをあげます。

  • 否定しない
    • 被害者は相談する時点で相当に傷ついています。誰にでも相談できることではありません。信頼するあなたに勇気を出して相談しています。そのあなたに否定されると、さらに追い詰められる可能性があります。
  • 自分の経験や意見を押し付けない
    • あなた個人の経験や意見は、被害者の状況とは異なる場合があります。被害者を尊重し、そのまま受け止めてあげて下さい。
  • 解決を急かさない
    • 被害者は孤立しています。自分の気持ちや経験を理解してほしい場合が多く、解決を急かされるとプレッシャーを感じることがあります。解決策を提案するのではなく、まずは話をじっくりと聞いてあげて下さい。
  • 感謝する
    • 被害者が相談してくれたことに「ありがとう」と言ってあげて下さい。相談した勇気をほめてあげて下さい。傷ついた自尊心が回復するきっかけになるかもしれません。
  • 情報提供

まとめ

長くなりましたので、整理しながらまとめます。

  • モラハラとは
    • 精神的嫌がらせや精神的暴力を指す
    • 被害者を不安にさせ、精神的に支配する行為
  • 主な特徴
    • 不安による支配
      • あいまいな態度で不機嫌さを示す
      • 被害者を不安にさせ、顔色を伺わせる
    • 暴力で服従させる
      • 侮辱、嘲笑、中傷などを繰り返す
      • 被害者の心身に大きなダメージを与える
  • 加害者の特徴
    • 自己愛的な性格
    • 特別感、強い承認欲求
    • 他者への共感性の欠如
    • ストレス処理の未熟さ
  • 被害者の特徴
    • 責任感が強い
    • 罪悪感を持ちやすい
    • 他人の責任を自分の責任のように感じる傾向がある
  • モラハラのリスクを減らすために
    • 個人レベル
      • 自己理解を深める
      • コミュニケーションスキルを向上させる
      • 外部のサポートを得る
    • 家庭レベル
      • オープンなコミュニケーションを心がける
      • 外部のサポートを得る
      • 相互尊重の雰囲気づくりを行う
  • 被害者からの相談を受けた場合の対応
    • 否定しない
    • 自分の経験や意見を押し付けない
    • 解決を急かさない
    • 相談してくれたことに感謝する
    • 必要に応じて支援機関の情報を提供する

モラハラは深刻な問題ですが、適切な理解と対策により、そのリスクを軽減することができます。自己理解を深め、健全なコミュニケーションを心がけることが重要です。また、必要に応じて専門家のサポートを受けることをためらわないでください。

参考文献
  • マリー=フランス・イルゴイエンヌ 高野優訳 1999 モラル・ハラスメント 紀伊國屋書店
  • 本田りえ・露木肇子・熊谷早智子 2013 「モラル・ハラスメント」のすべて 講談社
  • 谷本惠美 2012 カウンセラーが語る モラルハラスメント 晶文社
  • 宮地尚子・清水加奈子 2021 あらためてDVとは何か こころの科学 219号 日本評論社 pp10-11

カウンセリングのご案内

料金・その他詳細

個人60分:10,000円
90分:15,000円
夫婦90分:15,000円
お支払い方法現金・クレジットカード・電子マネー
備考税込価格、延長料金等ナシ、面接報告書は有料にて

カウンセリングの流れ

完全予約制で対面とオンラインに対応しています。事前の手続きをオンラインで行うことにより、面接時間はカウンセリングに集中できるようにしています。

このページの執筆者
山崎 孝(公認心理師)

夫婦・カップルの相談を中心にカウンセリングを行っている公認心理師です。原因を個人内に求めるのではなく、コミュニケーション(相互作用)の変化を促すことで問題の解消・解決を目指すブリーフセラピーを主に用いてサポートします。

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