夫婦・カップルの危機は必ずある – 理解と対処

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

「危機」という言葉は、「危険」と「機会」という二つの要素から成り立っています。結婚生活において、夫婦・カップルの危機は避けられないものですが、同時に、より強く、成熟した関係を築くための貴重な機会に成る得るものです。

夫婦・カップルの危機を理解し、適切に対処することで、関係性をさらに深めることができます。危機に関する情報と、それを乗り越えるための方法をご紹介します。

夫婦・カップル関係の健康度チェック

このチェックリストは、あなたの夫婦・カップル関係の健康度を自己評価するためのツールです。各項目について、1(全くそう思わない)から5(強くそう思う)の5段階で評価してください。

  1. 全くそう思わない
  2. あまりそう思わない
  3. どちらともいえない
  4. ややそう思う
  5. 強くそう思う
No.設問回答
1私たちは日常的に良好なコミュニケーションを取っている
2お互いの感情や考えを尊重し合っている
3意見の相違があっても、建設的に話し合うことができる
4家事や育児の分担について、公平だと感じている
5お互いのプライバシーや個人の時間を尊重している
6経済的な問題について、オープンに話し合える
7性生活に満足している
8お互いの趣味や興味を理解し、支援している
9将来の計画や目標について、共通のビジョンを持っている
10困難な状況でも、お互いに支え合える関係だと感じる
合計

各項目の点数を合計してください(最低10点、最高50点)。 合計点数の解釈は以下です。

  • 40-50点:非常に健康的な関係
  • 30-39点:概ね健康的だが、改善の余地あり
  • 20-29点:いくつかの課題がある可能性が高い
  • 10-19点:関係性に深刻な問題がある可能性が高い

特に低い点数(1 or 2)をつけた項目に注目してください。これらの領域は、優先的に改善を検討すべき部分かもしれません。

このチェックリストの結果を深刻に捉えないで下さい。点数が低いから関係に問題があるというわけではありません。夫婦・カップル関係について話し合うきっかけとして活用してください。深刻な問題を感じている場合は、夫婦・カップルカウンセリングを検討下さい。

うまくいってない夫婦・カップルに起きていること

ゴッドマン博士は夫婦の会話を5分観察すると、その結婚生活が幸せになるか否かがわかると言います

最初に、ジョン・ゴッドマン博士による、夫婦の危機を予測する4つの危険要因を紹介します。次に、危機に陥りやすい夫婦の特徴を紹介します。

夫婦の危機を予測する四騎士

ジョン・ゴットマン博士は、アメリカの心理学者で、夫婦関係研究の第一人者として知られています。ゴッドマン博士による、夫婦の危機を予測する4つの危険要因を紹介します。四騎士(The Four Horsemen)と呼ばれています。

  • 非難
    • 不満と非難は異なります。不満はあなたの期待に背くパートナーの言動に向けられるものですが、非難はパートナーの人格や能力を否定する言葉の武器です。
  • 侮辱
    • 皮肉を言う、目をむく、嘲笑するなど、パートナーを見下したり、侮辱したりする態度や言動は、パートナーに自分への嫌悪感を抱かせます。
  • 自己弁護
    • 「私のせいじゃない」「あなたこそ〜だ」と自分の非を認めず、自分を正当化しようとする態度です。相手の気持ちを無視することになり、問題解決を妨げます。
  • 逃避
    • 無視する、話題を変える、部屋から出て行くなどによって、会話や関わりから撤退することです。問題解決の機会を失い、相手に拒絶されたという感情を与えます。

「非難 → 侮辱 → 自己弁護 → 逃避」のループが繰り返されることで関係悪化が深刻化していきます。ゴッドマン博士は、夫婦の会話を5分間観察するだけで、その夫婦の結婚生活が幸せなものになるか、離婚になるかを9割以上の確率で予測できると言います。

危機に陥りやすい夫婦の特徴

ゴッドマン博士の四騎士と重複する部分もありますが、夫婦を危機に陥らせる要素の一般的なものをあげます。

  • コミュニケーション不足
    • 日常的な会話が少ない、または表面的なやりとりに留まっている
    • 感情や考えを適切に表現できず、誤解が生じやすい
  • 批判的な態度
    • 相手の行動や性格を頻繁に非難する
    • 肯定的な評価よりも否定的な評価が多い
  • 過剰な期待及びミスマッチ
    • 結婚生活や相手に対する期待が現実と大きく異なる
    • お互いの役割や責任について共通理解がない
  • 信頼関係の棄損
    • 嘘をつく、または重要な情報を隠す行動がある
    • 相手の言動を常に疑ってしまう
  • 価値観の違い
    • 人生の目標、お金の使い方、子育ての方針などで意見が合わない
    • お互いの価値観を尊重し合えない
  • 親密さの不足
    • スキンシップや性的な親密さが減少している
    • 精神的な繋がりが薄れ、お互いを他人のように感じる
  • 個性の否定
    • 相手の個性や成長を認めず、変化を拒む
    • 自分の意見や好みを押し付ける
  • 問題解決能力の不足
    • 意見の相違や問題が生じたとき、建設的な話し合いができない
    • 同じ問題で繰り返し衝突する
  • 家庭外のストレスの影響
    • 仕事、経済的問題、家族関係などの外部のストレスを適切に管理できない
    • ストレスが夫婦関係に悪影響を及ぼしている
  • 共有する時間の不足
    • 一緒に過ごす時間が極端に少ない
    • 共通の趣味や活動がない

どの夫婦・カップルにおいても、これらの1つまたは複数が生じることがあります。それで即、危機の到来となるわけではありません。これらが繰り返されることによって、気づけばパートナーへの信頼や絆がなくなっていた、ということが起こり得ます。

病気になってから治療するより、病気にならないように予防するほうが、労力もコストも小さくて済みます。夫婦・カップル関係も同様です。これらの知識を2人で共有して、折に触れて一緒に振り返ることが予防につながります。

夫婦の危機が起きやすい時期

ライフステージが変わるタイミングに危機が起きやすい

結婚すると、彼と彼女関係から、夫婦関係に変わります。2人であることに変わりはありませんが、彼・彼女から夫・妻へ役割が変わります。子どもが誕生すると、父・母の役割が加わります。子どもの成長に伴い、父・母役割の質が変わります。

ライフステージが変わるとき、夫婦は変化が求められます。変化とは、新しい役割への適応です。変化・適応がうまくいかないとき、夫婦の危機に発展することがあります。

典型的なケースは子どもの誕生です。妻は妊娠から出産までの間に母役割への変化・適応を済ませていることが多く、妻と比較すると、夫は変化・適応に遅れが生じることがしばしばです。出産前後に関係が悪化するのは多くの夫婦で見られます。

家族ライフサイクル理論に基づく各ライフステージの特徴と起きやすい危機については、以下のページをご覧下さい。

詳細ページ家族ライフサイクルの転換期

夫婦・家族構造の歪み

境界が曖昧になると実家の過干渉を招くなど問題が起きやすくなる

家族を一つに国に例えると、結婚とは育った国を出て、新しい国を2人で創るスタートと考えることができます。国の間に国境があるように、実家と新しい家庭(夫婦)の間にも、適切な境界を設ける必要があります。

境界があいまいになるなど、夫婦・家族構造に歪みが生じると、夫婦の危機に発展することがあります。ライフステージの移行期に危機が起きやすいのは、夫婦・家族構造に歪みが生じやすい時期でもあるからです。以下のページに夫婦・家族構造について述べています。

詳細ページ夫婦・家族システムの歪み

コミュニケーション

会話がない夫婦のイメージ
関係を育てる土台はコミュニケーション

程度に違いはあれど、危機は必ず起こると考えるのが現実的です。危機が起きても、それを乗り越えることが絆を深める機会にもなります。その土台はコミュニケーションです。

たわいもない話は楽しいけれど、大切な話は毎回、衝突して着地点に到達しない。話し合いを試みてもケンカになるだけなので、お互いに話し合いを避けている。このような状態が続くと、結婚生活を続ける必要があるのだろうか、何のための結婚なのだろうか、と考えるようになります。

当カウンセリングルームのカウンセラーが依拠する理論は、家族療法のコミュニケーション派と呼ばれる学派です。コミュニケーションの支援を得意としています。

詳細ページ夫婦コミュニケーションのカウンセリング

まとめ

夫婦・カップル関係における危機は、避けられないものですが、同時に関係性を深める貴重な機会でもあります。このページの内容を簡単に整理します。

  • 危機の予兆を知る
    • ゴットマン博士の「四騎士」(非難、侮辱、自己弁護、逃避)や、その他の危機に陥りやすい特徴を理解することで、問題の早期発見につながります。
  • ライフステージの変化に注意
    • 結婚、出産、子育てなど、ライフステージの変化は新たな役割への適応を必要とし、危機のきっかけとなる可能性があります。
  • 家族構造の重要性
    • 適切な境界を設定し、健全な家族構造を維持することが、危機の予防に繋がります。
  • コミュニケーションの質を高める
    • 効果的なコミュニケーションは、危機を乗り越え、関係性を深めるための基礎となります。
  • 予防の重要性
    • 問題が深刻化する前に対処することで、より少ない労力とコストで関係性を改善できます。
  • 専門家のサポート
    • 自分たちだけで解決が難しい場合は、カウンセリングなどの専門的なサポートを受けることも検討しましょう。

上記の中でも強調したいのは、予防は労力とコストが小さくて済むこと、傷つき体験も小さくて済むことです。そして、例え危機に陥っても、発展の機会にできることです。2人で取り組むのが困難な場合はカウンセリングの活用も検討して下さい。

カウンセリングのご案内

料金・その他詳細

個人60分:10,000円
90分:15,000円
夫婦90分:15,000円
お支払い方法現金・クレジットカード・電子マネー
備考税込価格、延長料金等ナシ、面接報告書は有料にて

カウンセリングの流れ

完全予約制で対面とオンラインに対応しています。事前の手続きをオンラインで行うことにより、面接時間はカウンセリングに集中できるようにしています。

このページの執筆者
山崎 孝(公認心理師)

夫婦・カップルの相談を中心にカウンセリングを行っている公認心理師です。原因を個人内に求めるのではなく、コミュニケーション(相互作用)の変化を促すことで問題の解消・解決を目指すブリーフセラピーを主に用いてサポートします。

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