
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
当カウンセリングルームでは、夫婦・カップルの相互作用に注目する家族療法・ブリーフセラピー、思考(物事のとらえ方)と行動のパターンに注目する認知行動療法にて、夫婦・カップルの関係改善をサポートしています。
それぞれの特徴を説明させていただきます。カウンセリングルーム選びの検討材料などお役に立てれば幸いです。
家族療法の特徴は、家族など複数のメンバーからなる集団を一つのシステムととらえることです。問題はメンバー間の相互作用によって生じて、維持されていると考えます。その相互作用の変化を通して解決を支援します。
家族療法は1950年代に始まり、現在も発展し続けています。ここでは、家族療法の基盤となっている理論を簡単に説明します。家族をシステムとして見るのは共通していますが、システムのどこに焦点を当てるかに違いがあります。
構造派と呼ばれる学派では、家族システムがどのように機能しているか、それぞれのメンバーが家族内でどのような役割を担っているかを理解して、その構造を調整することで解決を図ります。
例えば、お母さんが子どもの宿題を全部やってしまうという状況があれば、子どもが自立に向かえるように、母子の境界線を明確にするように提案することが考えられます。
コミュニケーション派またはMRI派と呼ばれる学派では、コミュニケーションのパターン・相互作用に注目します。家族内のコミュニケーションがどのように全体の関係性や問題に影響を及ぼしているかを理解して、改善を図ります。
ブリーフセラピーは、この学派から生まれました。ブリーフとは短期を意味します。効果的であると同時に、効率的な解決を志向するカウンセリングです。
コミュニケーションとは、言語コミュニケーションに限定されません。身振り手振りや声のトーンなどの非言語コミュニケーションも含まれます。また、何も言わない、何もしないこともコミュニケーションになり得ます。それらすべてを含むコミュニケーションのパターン・相互作用に注目します。
多世代派では、家族の過去の世代から現在に至るまでのパターンや影響を探ることで、家族システムの中での感情的な結びつきや行動のパターンを理解しようとします。
例えば、親が子どもに過保護すぎる場合、親自身がその親から厳しくコントロールされて育った影響で、自分の子どもに対して過保護になっている可能性があるかもしれません。家族の歴史を掘り下げて、世代を超えた行動パターンを理解し、それに基づいて変化を促します。
家族療法はその名称から、「用いられるのは家族に限定される」とか「家族に行うカウンセリング」と誤解されることがあります。
適用先は家族に限定されるものではありません。システムとは、すべてのメンバーが互いに影響を及ぼし合う人間関係のことです。職場や友人のグループ、組織全体における人間関係の改善にも適用できます。
また、家族メンバーが参加してのカウンセリングであっても、家族の関係性を扱っていない場合は家族療法とは言えません。逆に、個人のカウンセリングであっても、その人が関わるシステムに注目するカウンセリングであれば、それは家族療法と言えます。
「問題がある人はいない。問題を作るシステムがある」が家族療法のスタンスです。人に問題を見出そうとしないスタイルが気に入っています。人にやさしいカウンセリングであると思っています。
認知行動療法では、物事のとらえ方と行動のパターンに注目します。それらを改善することで、精神的な苦痛や問題の解決を図ります。カウンセラーなど専門職以外の方が知っている心理療法と言えば、認知行動療法が最初にあがると思います。心の病の心理療法として、国も推す心理療法です。
参考ページ:心の健康 |厚生労働省(認知行動療法のマニュアルをダウンロードできます)
英語で「Cognitive Behavioral Therapy」です。認知行動療法と言わずに、「CBT」と略称で呼ばれることも多いです。
元々は起源を異にする「認知療法」と「行動療法」が統合されて認知行動療法となりました。
認知療法では、ネガティブな考えが心の問題を引き起こすと考え、その思考パターンを変えることを重視します。一方、行動療法は、問題のある行動を変えることに焦点を当てています。認知行動療法では、この両方のアプローチを組み合わせることで、様々な心理的な問題に対応します。
理論がわかりやすく、とっつきやすいため、多くの場面で活用されています。例えば、セルフケアの書籍に紹介されているテクニックや理論の多くが、認知行動療法に基づいています。
カウンセリング(心理療法)には、ここで紹介した家族療法、認知行動療法の他にも多数あります。数百とも言われています。利用される側にとっては、どのカウンセリングが最も効果があるのか、どれを選べば良いのか、判断がむずかしいのは当然だと思います。
上記の図は「ランバートのパイ」と呼ばれるものです。ランバートという研究者が、カウンセリングの効果がどのように構成されているかを示したモデルです。
カウンセリングそのもの効果は60%であり、40%はカウンセリング外の要因に影響されます。家族療法では次回の面接までの間、治療外要因を意識した課題をお願いすることが多いです。
カウンセリング(心理療法)そのものの影響度は15%です。信頼関係、協力関係(30%)のほうが重要と言えます。
家族療法や認知行動療法について語る私が言うのも何ですが、カウンセラーやカウンセリングルームを選ぶ際は、カウンセリング(心理療法)そのものよりも、カウンセラーと信頼関係、協力関係を築けるかを重視するのが良いかもしれません。
「ランバートのパイ」は多数のケースを分析して一般化したものですから、すべてのケースが上記の割合になるわけではありません。個々のケースで割合が変動する可能性が常にあることを付け加えておきます。