
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
アダルトチルドレンの方々が自らの感情や思考を適切に理解し、パートナーとのコミュニケーションをより良くするサポートを提供します。同時に、アダルトチルドレンのパートナーとの関係性において生じる困難に対処し、より良い理解と共感を築くお手伝いをいたします。
アダルトチルドレン(Adult Children、AC)とは、本来、子どもの頃に得るべき適切な愛情やサポートを受けられなかった経験を持ち、大人になってもその影響が心理的・感情的に及んでいる人々を指します。医学的な診断名ではありません。個人の状態を理解するための言葉として使われています。
アダルトチルドレンの概念は、1980年代にアメリカで広まりました。この語の語源は、アルコール依存症の親を持つ人々を支援するためのプログラム「アダルト・チルドレン・オブ・アルコホリックス」(ACoA・アルコール依存の親のもとで育ち、大人になった人たち)にまで遡ります。
その後、この概念はアルコール依存症の家庭に限らず、様々な不安定な家庭環境で育った人々を包括するように拡大されました。このような家族を機能不全家族と呼ぶことがあります。
機能不全家族(きのうふぜんかぞく、Dysfunctional Family)は、家族の機能が正常に働いていない家族のことを指します。以下の要因や状態が機能不全家族の特徴とされています。
これらの要因は、家庭内の問題が原因で子どもが日常的にストレスを感じる環境を作り出しています。機能不全家族の状態は家族のメンバーに悪影響を与えます。特に子どもに対しては、将来的な心の問題を引き起こす可能性があります。
機能不全家庭に育った人が受ける影響の例です。
アダルトチルドレンには6つのタイプがあるとされています。それぞれのタイプは家庭の中で果たしてきた役割を示しています。子どもが以下の役割を強いられてきたと考えると切なくなります。
ヒーロー(英雄)
自分が活躍すると両親が喜び家庭の空気がよくなります。そのため家族の期待に応え続けようと過剰に努力を続けます。
スケープゴート(犠牲の山羊)
問題行動を起こしたり、病気になるなどして、家族の葛藤を一身に背負います。
ロストワン(いない子)
傷つけられない方法として目立たないように過ごします。
プラケーター(慰め役の子)
家族の中でいつも暗い顔をしている人(多くの場合、母親)の慰め役になります。
クラン(道化師の子)
両親の間に葛藤が生じたりすると、わざとふざけたりして、悪い空気を和まそうとしています。
イネイブラー(支え役の子)
必要以上に他者の世話を焼きます。親の代わりに一家の世話役を請け負います。
このページを書くにあたって、関連書籍を読み直しました。家族の中で最も弱く、守られるべき立場であるはずの子どもが、家族を守るために上記の役割を果たしてきたと考えると、何とも切ない気持ちになりました。
アダルトチルドレンのカウンセリングでは、主に以下の2つに取り組みます。
2つの取り組みに必要なのは、安心できる場所と人間関係です。自分の気持ちを素直にありのままに表現しても安全な場所と人間関係が必要です。
人間関係で傷ついた心が癒され回復するのは、安心・安全な人間関係によってです。
アダルトチルドレンの人の中には、自分の考えや感情について、このように考えて良いのだろうかと確信を持てないことがあります。また、そのことを他者に聞いてみることが怖くてできません。否定される可能性があるからです。これ以上傷つかないための防衛本能と考えられます。
カウンセリングでは、どのような考え方や感じ方も良し悪しの評価なしに受け止められます。何を話しても大丈夫な場所だからこそ、普段話せないことも話せます。考えや感じ方を受け止められることで、傷ついた心が立て直されます。その積み重ねで自己肯定感が育ちます。
回復には、これまでできなかったことができるようになること、例えば、Yes、Noをハッキリ言えるようになることなども含まれます。それにはチャレンジが必要です。チャレンジは失敗することもあります。失敗しても、心を立て直す安心・安全な場があれば、再度チャレンジできます。その積み重ねで自己効力感が育ちます。
カウンセリングとは、そのような環境と関係です。ご自身のペースで安全に回復に取り組む場としてご利用いただければと思います。
アダルトチルドレンの影響によって生じる、日常生活における困りごとの解決を積み重ねることで、思考と行動の枠を広げていきます。「アダルトチルドレンであろうとなかろうと、うまくやっていけている」状態を目指します。
ブリーフセラピーや認知行動療法にてサポートします。
アダルトチルドレンの人が直面する課題は、夫婦関係の中で顕著になることがあります。アダルトチルドレン傾向を持つパートナーは、環境の変化や感情の波に強く影響を受けやすく、ときにはそれがコミュニケーションの困難を引き起こすことがあります。
夫婦カウンセリングを通じて、アダルトチルドレン傾向のあるご本人とパートナーの双方に、お互いの感情や思考を共有し、理解し合う場を提供します。これにより、お互いのニーズを尊重しながら、より良いコミュニケーションと理解を築いていくことができます。
逆説的ですが、人は人間関係で傷つき、人間関係で癒されます。アダルトチルドレンの人は、育った家族関係によって傷を負いました。その傷を癒して、自信や自尊心を育てるのは、安心・安全な人間関係です。
心理学にアタッチメント(愛着)という理論があります。不安なときに特定の人(主に養育者)と「くっつく」ことで安心感を得るシステムを指します。
子ども持ち前の好奇心を発揮して外の世界を探索します。ときに傷つきます。傷ついたとき、養育者にくっついて、安心感を得て心を立て直します。再び探索に出かけて、ときに成功して、ときに傷つきます。傷ついたときは、再び養育者にくっついて、安心感を得て心を立て直します。
この経験の繰り返しが、自分は受け入れられる存在である自信(自己肯定感)を育てます。また、要求すればケアを得られる体験は自己効力感(できる感覚)を育てます。安定したアタッチメントは、子どもが自信を育てる安心の基地になります。
アダルトチルドレンの人は残念ながら、育った家庭において安定したアタッチメントを築く機会を得られませんでした。養育者が安心の基地になってくれませんでした。逆にたくさんの傷を負う体験を積み重ねることになりました。
夫婦関係が安心の基地になることで、アダルトチルドレンの人が安定したアタッチメントを築く機会を得られます。当カウンセリングルームは、専門的な知識と経験を持つカウンセラーが、夫婦関係が安心の基地になる支援と、アダルトチルドレンの生きづらさを改善していく支援を提供します。