
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
パートナーがうつ病になったとき、多くの人が「しっかり支えなければ」と考えます。しかし、支えようとがんばりすぎた結果、自分自身も心身のバランスを崩してしまうケースは少なくありません。
パートナーのことばかり考えて、自分のことは後回しにしていませんか。疲れていても休まず、不安や心配を一人で抱え込んでいませんか。
うつ病のパートナーを支えるには、まずあなた自身が元気でいることが最も重要です。自分のケアを優先することは、決して自己中心的ではありません。むしろ、あなたが健康でいることこそが、パートナーを支え続けるための土台になります。
この記事では、あなた自身を大切にしながらパートナーをサポートする方法をお伝えします。
パートナーを助けようとする行動が、実は状況を悪化させていることがあります。以下のようなパターンに心当たりはないでしょうか。
「大丈夫?」「何か食べた?」「ちゃんと薬飲んだ?」と、頻繁に声をかけていませんか。
心配するのは当然です。しかし、過度な声かけは本人に「自分は病人なんだ」という意識を強めます。また、常に見守られているというプレッシャーを感じさせることもあります。
パートナーは病気ではありますが、すべてを失ったわけではありません。できることは自分でやってもらい、あなたは普段通りに接するのが基本です。
「なぜうつ病になったんだろう」「あのときの出来事が原因かもしれない」と、原因を探していませんか。
原因を特定できれば解決策が見つかると考えるのは自然です。しかし、うつ病の場合、原因の追及が本人の自責感を強めることがあります。
うつ病になりやすい性格の一つに、真面目で責任感が強いことが挙げられます。このタイプの人は、原因を尋ねられると「自分が悪い」「自分の努力が足りなかった」と考える傾向があります。
原因探しより、今できることに目を向けるほうが建設的です。
「がんばって」という言葉がNGなのは広く知られるようになりました。しかし、「きっと良くなるよ」「前向きに考えよう」といった言葉も、本人を追い詰めることがあります。
うつ病は心身のエネルギーが枯渇した状態です。前向きに考えたくても考えられません。できないことを求められていると感じると、自分を責めてしまいます。
「少し外に出てみたら?」「軽く運動したら気分転わるんじゃない?」と提案していませんか。
たしかに、行動することで気分が改善する心理療法があります。しかし、タイミングを誤ると逆効果です。特に症状が重い時期は、休養が最優先です。
活動を促すのは、医師やカウンセラーと相談しながら慎重に判断する必要があります。
家事や育児、各種手続きなど、パートナーができないことをすべて引き受けていませんか。
サポートは必要です。しかし、すべてを代わりにやると、本人は「何もできない自分」という無力感を強めます。また、あなた自身の負担も大きくなりすぎます。
できることは本人にやってもらい、困難なことだけ手伝うバランスが大切です。
うつ病について詳しく知る必要はありません。ここでは、パートナーとして最低限押さえておきたいポイントだけお伝えします。
以下の状態が2週間以上続いている場合は、医療機関(精神科・心療内科)の受診を促して下さい。
本人が受診を嫌がる場合は、まずかかりつけ医に相談する方法もあります。また、カウンセラーが受診を勧めることもできます。
可能であれば、最初の受診にあなたも同行して下さい。本人が自分の状態を上手く説明できないとき、サポートできます。
治療は主に休養と薬物療法から始まります。その後、心理療法を組み合わせながら回復を目指します。
回復には時間がかかります。数ヶ月から半年、場合によってはそれ以上かかることもあります。また、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら回復していきます。
一時的に症状が戻っても、それは回復の過程の一部です。焦らず見守ることが大切です。
症状や治療法について詳しく知りたい場合は、以下の公的機関のサイトが参考になります。
ここからは、具体的にどう対応すればよいのかをお伝えします。
「自分のことより、パートナーのことが心配」と思うかもしれません。しかし、あなたが倒れてしまったら、誰がパートナーを支えるのでしょうか。
自分のケアは自己中心的な行為ではありません。パートナーを支え続けるための必須条件です。
パートナーの様子が気になって、自分のことが後回しになりがちです。意識的に自分の時間を作って下さい。
基本は普段通りです。過度に気を遣ったり、腫れ物に触るような態度は避けて下さい。
ただし、以下の点には配慮が必要です。
考えたり決めたりすることを求めない
「今日の夕食、何がいい?」ではなく「今日は○○にするね」と伝えます。症状の一つに判断力の低下があります。小さな決断でも負担になることがあります。
大きな決断は先延ばしにする
「会社を辞める」「離婚したい」など、重大な決断を口にしたら、「回復してから考えよう」と先延ばしにして下さい。うつ病のときは極端な判断をしがちです。
パートナーの話を聞くときは、解決策を提案したり、励ましたりする必要はありません。ただ聞くだけで十分です。
話したくなさそうなときは、無理に話を引き出そうとしなくて構いません。
ずっと一緒にいる必要はありません。かえって互いに息苦しくなることがあります。
パートナーが一人でいたそうなときは、そっとしておきます。あなたも自分の時間を持って下さい。
ただし、自傷行為や自殺をほのめかす発言があった場合は、すぐに医師に相談して下さい。
以下のような状況では、カウンセリングや専門機関のサポートを検討して下さい。
これらは、あなた自身がケアを必要としているサインです。パートナーのためにも、まず自分のケアを優先して下さい。
夫婦でカウンセリングを受けることもできます。第三者が入ることで、互いの気持ちや状況を整理しやすくなります。
一人で抱え込まず、外部のサポートを活用して下さい。
カウンセリングでは、あなた自身の気持ちの整理や、具体的な対処法を一緒に考えることができます。

うつ病のパートナーを支えるために大切なのは、以下の3つです。
「良かれ」と思ってやっていることが、実は問題を悪化させていることがあります。がんばりすぎず、できる範囲でサポートすることが、結果的に本人にとっても、あなたにとっても良い結果につながります。
困ったときは、遠慮なく専門家に相談して下さい。あなた一人で抱える必要はありません。