家族ライフサイクルの転換期

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

人間には8つのライフステージがあり、それぞれのステージに発達課題がある。この概念はエリクソンのライフサイクル理論として有名です。家族にも同じようにライフステージと発達課題があり、課題をクリアできないときに危機が起こる、とするのが家族ライフサイクル理論です。

例えば、子どもの誕生(ライフステージの変化)は、夫婦に変化を求めます。夫と妻の役割に、父と母の役割が付加されます。変化はそれまでの安定を不安定にします。課題を達成して不安定さを乗り越えると、次のステージを良い状態でスタートできます。

クリアできない場合、たちまち夫婦の危機となる場合と、その積み重ねが後年、危機として立ちはだかる場合もあります。危機とは、例えばセックスレス、例えば不倫・浮気です。後に熟年離婚ということもあります。

以下、家族ライフサイクル理論の7つのステージを紹介します。

①独身の時期

家庭を持つ前の土台作りの段階です。主な発達課題は以下です。

  • 親や実家から心理的に自立する
  • 友人や恋人たちと親密な人間関係を築く
  • 職業を選択して経済的に自立する

ケンカが絶えない結婚前カップルの相談が増えています。ケンカが必ずしも悪いわけではありません。多少激しいやりとりになっても、最後に着地点にたどり着くのであれば、建設的な議論と言えるかもしれません。

ただ怒りを表現して、わだかまりが残り、それを積み重ねるのは、我慢の上に成り立っている不健康な関係です。我慢はいずれ限界に達します。結婚を考えているパートナーとそのような関係であれば、結婚前のカウンセリングをおすすめします。

②新婚の時期

異なる家庭で育った2人が新しい家庭つくりをスタートさせます。家庭を「文化」や「国」と捉えるくらいの意識でいいんじゃないかと個人的には考えています。

  • 家庭生活、友人関係、仕事のバランスを取る
  • 新たな夫婦のルール作りとルール・パートナーへの適応
  • 夫婦と原家族(育った家庭)とのバランスを取りながら信頼関係を強めていく

育った家庭(実家)との間に適切な境界を引く必要があります。親子の関係に終わりはありませんが、質は変わります。結婚後も、配偶者より実家との関係が近い状態が続くと、配偶者の問題行動のきっかけになることがあります。

③乳幼児を育てる時期

子どもが安心できる関係・環境を作っていく時期です。親子の情緒的な絆が形成されるには、家庭が安全基地である必要があります。家庭が安全基地であるには、夫婦関係の安定が必要です。

  • 親の役割を身につける
  • 子育てをしながら夫婦の絆を保つ
  • 祖父母や親族との関係を調整する

親子の情緒的な絆のことを「愛着(アタッチメント)」といいます。子どもの頃に形成された愛着(アタッチメント)は、成人後の人間関係にも影響を及ぼします。

妻の産前産後は男性にとって、最も性的に、精神的に追い詰められがちな時期です。夫の役割に父の役割が加わります。その変化への適応が妻より遅れるのが普通です。

妻は夫に比べるとスムーズに母役割に適応します。適応を強いられると言い換えるのが適切かもしれません。

妻にとって大切な存在No.1が、夫から子に変わります。性的な欲求が低下します。そもそも、子育てに振り回されて、性的欲求どころではありません。

妻の産前産後に起こりやすい問題は、セックスレスと不倫です。事前に話し合う機会を持てるのであれば、それに越したことはありません。

④学童期の子どもを育てる時期

子どもが小学生の時期です。乳幼児期と異なるのは、学校など地域社会との関係ができることです。子どもの教育や進学について、考え方の違いで対立が生まれやすい時期でもあります。

  • 地域や学校などとの交流を深めていく
  • 子どもの教育
  • 親密さと明確な世代間境界を両立する

⑤思春期・青年期の子どもを育てる時期

この時期の子どもの発達課題は「アイデンティティの確立」です。親に対して、自立と依存の矛盾した要求を示すようになります。子どもが自己を確立すると、次は独立に向かいます。子どもが巣立った後の夫婦の今後を考え始める時期でもあります。

  • 子どもの進路や職業の選択
  • 子どものアイデンティティの確立
  • 子どもの自立したい欲求と依存したい欲求にバランスよく応える
  • 親として夫婦が協力する
  • 夫婦の将来を考え始める

この時期の来談者から、「配偶者との将来を考えられない」と相談されることがあります。この時期になって急に浮上してきた問題というより、これまで目を背けてきたけれど、いよいよ直面せざるを得なくなったと考えるのが適当だと思われます。

⑥子どもの巣立ちの時期

子離れの時期です。喪失感や悲しみを経験します。家庭は親子関係中心から夫婦関係中心に変わります。子離れできない場合、子どもへの過干渉、子ども夫婦の葛藤などの問題が起こります。

  • 子どもの自立を見守る
  • 子どもの自立に伴う喪失感を受け入れる
  • 子どもとの適切な距離感を保つ
  • 夫婦関係を再編成する

⑦老年期

老化、家族や親しい人の死別など、喪失体験を受け入れることがテーマになります。

  • 老化を受け入れ対処する
  • パートナーの老化や死に対処する
  • 人生の振り返りと統合
  • 自分の死への準備をはじめる

コミュニケーションが危機を救う

変化の時期には必ず危機が訪れます。その危機を適切に乗り切れば、関係を更に発展させる機会になるでしょう。しかし、一方もしくは双方のガマンに頼っていると、その積み重ねがあるとき、大きな危機となって2人の前に立ちはだかることもあります。

夫婦の関係を育てる土台はコミュニケーションです。普段からコミュニケーションが取れている夫婦は、危機が訪れてもうまく乗り切るでしょう。コミュニケーションに問題を感じている場合は、早めに対処するのが望ましいです。

まとめ

ライフステージ発達課題
①独身の時期親や実家から心理的に自立する
友人や恋人たちと親密な人間関係を築く
職業を選択して経済的に自立する
②新婚の時期家庭生活、友人関係、仕事のバランスを取る
新たな夫婦のルール作りとルール・パートナーへの適応
夫婦と原家族(育った家庭)とのバランスを取りながら信頼関係を強めていく
③乳幼児を育てる時期親の役割を身につける
子育てをしながら夫婦の絆を保つ
祖父母や親族との関係を調整する
④学童期の子どもを育てる時期地域や学校などとの交流を深めていく
子どもの教育
親密さと明確な世代間境界を両立する
⑤思春期・青年期の子どもを育てる時期子どもの進路や職業の選択
子どものアイデンティティの確立
子どもの自立したい欲求と依存したい欲求にバランスよく応える
親として夫婦が協力する
夫婦の将来を考え始める
⑥子どもの巣立ちの時期子どもの自立を見守る
子どもの自立に伴う喪失感を受け入れる
子どもとの適切な距離感を保つ
夫婦関係を再編成する
⑦老年期老化を受け入れ対処する
パートナーの老化や死に対処する
人生の振り返りと統合
自分の死への準備をはじめる
参考文献
  • 中釜洋子他 2008 家族心理学ー家族システムの発達と臨床的援助 有斐閣ブックス
  • 平木典子・中釜洋子 2006 家族の心理ー家族への理解を深めるために サイエンス社
  • 亀口憲治 2000 家族臨床心理学ー子どもの問題を家族で解決する 東京大学出版会

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このページの執筆者
山崎 孝(公認心理師)

夫婦・カップルの相談を中心にカウンセリングを行っている公認心理師です。原因を個人内に求めるのではなく、コミュニケーション(相互作用)の変化を促すことで問題の解消・解決を目指すブリーフセラピーを主に用いてサポートします。

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