実家問題

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

実家との関係や実家に関わる問題が、良好な夫婦・カップル関係に悪影響を及ぼすことがあります。過干渉、依存または援助、子育ての干渉、帰省、近居・同居、等々。これらに適切に対処できなければ、夫婦・カップルの危機に発展するのはめずらしくありません。

実家に関わる問題は悩ましい

多くの夫婦・カップルが直面する悩みの一つに、実家との関係があります。

「お義母さんが毎週末突然訪ねてきて、家事や育児に口を出す」

「夫(または妻)の実家への頻繁な帰省で、夫婦の時間が持てない」

「妻の両親が経済的に困っているようで、援助を求められている」

これらは、実家に関わる問題の典型的な例です。結婚は二人の新しい生活の始まりですが、同時に二つの家族の関わりも生み出します。その関わりが時として、様々な問題を引き起こすことがあります。

実家問題は、新婚から長年連れ添った夫婦まで、あらゆるライフステージの夫婦関係に影響を与える可能性があります。その影響は、日常的な小さなストレスから、夫婦関係を揺るがす大きな問題まで多岐にわたります。

  • 子育ての方針に関する実家からの干渉
  • 経済的な援助や依存の問題
  • 同居や近居に伴うストレス
  • 文化や価値観の違いによる摩擦

これらの問題は根深いことがあります。愛情、義務、伝統、個人の自立など、様々な要素が絡み合っているからです。以下に具体的な相談内容を紹介します。

実家に関わる問題

境界の問題

個人の間には、自他の境界があります。境界を超えて相手の領域に首を突っ込みすぎると、「大きなお世話」と迷惑がられることになります。逆も然りです。家庭と家庭の間にも境界があります。

子どもが結婚や同棲のために家を出て新しく家庭を構えました。このことにより、親世代と子世代の間に境界が引かれます。このとき、親世代が一線を引けなければ、過干渉の問題が起こることがあります。子ども世代が一線を引けなければ、実家依存の問題が起こることがあります。

問題の現れ方

  • 実家からの連絡や訪問が頻繁に行われ、夫婦の時間やプライバシーが侵害される。
  • 夫婦の決定事項に対して、実家が過度に意見を述べたり、介入したりする。
  • 実家が夫婦の生活様式や習慣に対して、不必要な批判や指摘を行う。

背景にある原因

  • 親子関係が成熟しておらず、子どもの独立を親が十分に受け入れられていない。
  • 世代間で価値観や生活様式が大きく異なり、互いの立場を理解することがむずかしい。
  • 親の過度な愛情表現が、結果的に子どもの生活に干渉してしまう。

対処法

  • 夫婦で十分に話し合い、実家との適切な距離感について合意を形成する。
  • 実家とのコミュニケーションにおいて、明確なルールを設定し、それを丁寧に伝える。
  • 必要に応じて、実家の行動に対して明確に意思表示をして境界を守る。

境界の問題は、他の実家問題と関連することがあります。例えば、価値観の相違や同居・近居の問題です。これらの問題に対処するには、良好なコミュニケーション、相互理解を深める姿勢が必要です。また、実家との関係を良好に保ちながらも、夫婦の独立性の確保が重要です。

境界の問題が他の問題を引き起こすことがあります

境界は家族心理学の重要な概念の一つです。境界には「内外の境界」と「世代間境界」の2つがあります。「内外の境界」とは家族と家族外の境界です。下図では、親世代と子世帯の間に引かれる境界です。「世代間境界」とは、同居家族における世代間に引かれる境界です。

適切な境界は、適度な相互交流と独立が保たれます。曖昧な境界は過度な干渉や介入を招くことがあります。強固すぎる境界は孤立や断絶を招くことがあります。

参考文献
  • 野口 修司, 若島 孔文 2007 青年期の親子関係における社会的勢力とコミュニケーションに関する研究 家族心理学研究 21(2) 95-105
  • 中村 伸一 2000 家族療法のいくつかの考え方 家族社会学研究 29(1) 38-48

価値観の相違

価値観の相違は、それ自体が問題となることがあり、他の問題(例えば境界)の原因となることもあります。

価値観とは、個人が重要だと考える物事の優先順位や判断基準のことです。家庭環境、教育、経験などによって形成されます。夫婦間での価値観の相違は珍しくありませんが、実家との価値観の違いも多くのカップルが直面する問題です。

価値観は個人のアイデンティティと深く結びついているため、その違いは単なる意見の相違以上に深刻な対立を引き起こす可能性があります。例えば、子育て、金銭管理、生活様式などに関する考え方の違いが、日常的な摩擦や長期的な関係の悪化につながることがあります。

問題の現れ方

  • 金銭感覚の違いにより、家計の管理や支出に関する対立が生じる。
  • 子育ての方針について、実家と夫婦の間で意見の相違が起こる。
  • 休日の過ごし方や家族行事の重要性に対する考え方が異なり、軋轢が生じる。

背景にある原因

  • 世代間のギャップにより、社会観や人生観に大きな違いがある。
  • 育った環境や受けた教育の違いが、基本的な価値観の形成に影響を与えている。
  • 個人の経験や志向性の差異が、重視する価値観の違いを生み出している。

対処法

  • 互いの価値観の背景にある理由を理解し、尊重する姿勢を持つ。
  • 共通の価値観を見出し、それを基盤として新しい家族の文化を創造する。
  • 価値観の違いを前向きに捉え、多様性として受け入れる柔軟性を養う。

価値観の相違は、境界の問題や同居・近居の問題とも密接に関連しています。価値観の違いは、実家間や夫婦間の境界の引き方に影響を与えたり、同居時の生活ルールの設定に困難をもたらしたりすることがあります。

新しい家庭を作るとは、新しい国を創ると考えることもできます。新しい国を創るとは、新しい価値観を創ることでもあります。お互いが大切にしているものをすり合わせて、新しい文化を一緒に創り上げていく関係が夫婦・カップルと言えます。

同居・近居の問題

同居・近居は、家族の境界、プライバシー、自立性、日常生活の様々な側面に影響を及ぼします。 同居の場合、生活空間を共有することで生じる摩擦や、家事分担、生活リズムの違いなどが問題となります。近居の場合、頻繁な往来や干渉により夫婦の独立性を保てず、問題になることがあります。

一方で、同居・近居には経済的メリットや、子育て・介護における協力体制の構築といった利点もあります。これらのメリットとデメリットのバランスを取ることが、良好な家族関係を維持する上で重要となります。

問題の現れ方

  • プライバシーの確保が困難になり、夫婦の親密な時間が減少する。
  • 生活リズムや習慣の違いにより、日常的なストレスや摩擦が増加する。
  • 家事や育児への過度な干渉が起こり、夫婦の自立性が損なわれる。

背景にある原因

  • 経済的な理由や介護の必要性から、同居や近居を選択せざるを得ない状況がある。
  • 文化的背景や家族観の違いにより、同居・近居に対する考え方が異なる。
  • 世代間のコミュニケーション不足や相互理解の欠如が、問題を悪化させている。

対処法

  • 同居・近居に関する明確なルールを家族全員で話し合い、設定する。
  • 可能な限り、夫婦の独立した生活空間を確保し、プライバシーを尊重する。
  • 定期的に家族会議を開き、問題点や改善策について率直に話し合う機会を持つ。

同居・近居の問題は、境界の問題や価値観の相違とも関連しています。世代間の価値観の違いが日常生活の様々な場面で顕在化し、摩擦を生み出すことがあります。また、適切な境界の設定が難しくなることで、プライバシーの侵害や過干渉の問題が生じやすくなります。

同居・近居の形態を選択する際は、そのメリットとデメリットを十分に検討し、家族全員がお互いの立場を理解し、尊重し合い、話し合うことが大切です。また、状況の変化に応じて柔軟に対応できるよう、定期的に家族間でコミュニケーションを取ることが望ましいです。

介護の負担

介護は身体的、精神的、経済的に大きな負担を伴います。時間、労力、経済的資源の配分だけでなく、家族の役割分担、個人の生活の質、キャリアへの影響など、多岐にわたる側面を持ちます。また、介護に対する考え方や価値観の違いが、家族間の対立を引き起こすこともあります。

問題の現れ方

  • 介護の責任分担をめぐって、夫婦間や兄弟姉妹間で対立が生じる。
  • 介護による時間的・身体的負担が増大し、仕事や私生活との両立が困難になる。
  • 介護費用の負担により、家計が圧迫される。

背景にある原因

  • 高齢化社会の進行により、介護を必要とする親世代が増加している。
  • 核家族化や共働きの増加により、介護の担い手が不足している。
  • 介護に対する価値観や責任感の認識に、個人差や世代差がある。

対処法

  • 家族全員で介護の現状と今後の見通しについて、オープンに話し合う機会を持つ。
  • 介護の役割分担を明確にし、定期的に見直しを行う。
  • 介護保険サービスや専門家のサポートを積極的に活用する。

介護については、早い段階から家族で話し合い、将来の見通しを立てることが望ましいです。地域の介護サービスや支援制度について情報を収集し、専門家のアドバイスを受けることも必要です。介護は長期にわたる課題であり、状況の変化に応じて柔軟に対応していくことが求められます。

子育ての干渉

子育ては、実家との関係で摩擦が生じやすい分野の一つです。祖父母の愛情や経験に基づく助言は貴重である一方、それが過度になると夫婦の育児方針と衝突し、ストレスの原因になります。また、世代間での育児観の違いや、現代の子育て事情に対する理解の差が、対立を引き起こすこともあります。

問題の現れ方

  • 祖父母が夫婦の決めたしつけや教育方針に反する行動をとる。
  • 子どもの食事や睡眠など、生活習慣に関して頻繁に意見が出される。
  • 孫への過度な贈り物や甘やかしにより、夫婦の方針が崩れる。

背景にある原因

  • 世代間での育児観や教育観の違いがある。
  • 祖父母の愛情表現が、時に過剰になることがある。
  • 夫婦と実家との間でコミュニケーション不足や遠慮がある。

対処法

  • 夫婦で育児方針を話し合い、一貫した姿勢で実家に伝える。
  • 祖父母の経験や知恵を尊重しつつ、現代の育児事情も説明する。
  • 子どもと祖父母の関係性を大切にしながら、適切な距離感を保つ。

育児・教育方針を夫婦で統一させるのがむずかしいこともあります。夫婦で統一できていない状態で実家の干渉を許すと問題がこじれるのは想像に難くありません。育児に限ることではありませんが、まずは、夫婦の主体性を保つことです。

パートナーと実家の不和

パートナーと実家の不和は、文化的背景の違い、コミュニケーションの齟齬、価値観の相違などの要因から生じます。それらが顕在化しやすいのは、結婚初期や子どもの誕生など、ライフステージが変わる時期です。 パートナーと実家の対立は、夫婦の間に板挟み状態を生み出し、夫婦関係そのものを脅かす可能性があります。

問題の現れ方

  • 配偶者と実家の間で直接的な口論や対立が発生する。
  • 実家の話題が出るだけで夫婦間に緊張が生じる。
  • 家族行事や冠婚葬祭の際に、配偶者が実家との付き合いを避ける。

背景にある原因

  • 文化的背景や育った環境の違いにより、価値観や習慣に大きな差がある。
  • コミュニケーション不足や誤解により、互いの理解が深まらない。
  • 結婚前からの偏見や先入観が解消されていない。

対処法

  • 夫婦でオープンに話し合い、互いの気持ちや立場を理解し合う。
  • パートナーと実家の関係構築のために、両者の橋渡し役を務める。
  • 必要に応じて、家族カウンセリングなど第三者の助言を求める。

パートナーと実家の不和は、深刻な夫婦問題に発展することがあります。子どもをパートナーの実家に連れて行かないことを数年続けた結果、パートナーが夫婦を続けることに疲れて離婚を選択することがあります。

実家と距離を置くことで、夫婦問題としての深刻化を回避できている例もあります。しかし、問題が深刻化し、自力での解決が難しいと感じた場合は、専門家のサポートを受けることも検討すべきです。

まとめ

ここまでのまとめ

実家問題は多くの夫婦・カップルが直面する課題であり、その影響は日常的なストレスから深刻な関係の危機まで多岐にわたります。主な問題として以下があげられます。

  • 境界の問題
  • 価値観の相違
  • 同居・近居の問題
  • 介護の負担
  • 子育ての干渉
  • パートナーと実家の不和

これらの問題は複雑に絡み合い、単独または複合的に発生することがあります。各問題には特有の現れ方、背景にある原因、そして対処法があり、夫婦間のコミュニケーションや相互理解、適切な境界設定が重要です。問題が深刻化した場合は、専門家のサポートを検討することが推奨されます。

カウンセリングのすすめ

ここまであげた問題は単独で発生することもあれば、複数の問題が絡み合って複雑化することもあります。問題が複雑化しているときは、一つひとつの問題を個別に解決しようとするより、家族システム全体を見直す視点が効果的な場合があります。

専門的なサポートを求めることは失敗を意味するものではありません。むしろ、より良い家族関係を築くための積極的な取り組みと捉えることができます。早期に専門家に相談することで、問題が深刻化する前に適切な対応を取ることができる可能性が高まります。

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このページの執筆者
山崎 孝(公認心理師)

夫婦・カップルの相談を中心にカウンセリングを行っている公認心理師です。原因を個人内に求めるのではなく、コミュニケーション(相互作用)の変化を促すことで問題の解消・解決を目指すブリーフセラピーを主に用いてサポートします。

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