
執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士
結婚前カウンセリングは、結婚を控えたカップルが、結婚生活に向けて準備をするためのカウンセリングです。結婚前に、2人の関係性や価値観、将来設計などについて話し合い、お互いの理解を深めることを目的としています。
結婚前カウンセリングにお越しなるカップルの多くは、現在の関係のまま結婚生活に移行することに、一方または双方が不安を感じていらっしゃいます。「今のままの関係で結婚生活がうまくいくだろうか」「結婚後、お互いの価値観の違いが問題にならないだろうか」といった不安を感じていらっしゃいます。
特に多いのが、コミュニケーションに関する悩みです。趣味や興味のあること、日常の何気ない会話は波長が合って楽しく過ごせるのに、将来の生活設計や価値観など、大切な話になると衝突して話がまとまらないという悩みです。
このようなコミュニケーションの問題は、2人の関係性や価値観、将来設計などについての話し合いをむずかしくします。お互いの理解を深める以前の問題になっていることもあります。
結婚前カウンセリングでは、まずは関係を育む健全なコミュニケーションの構築に焦点を当てます。2人が安心して話し合える環境づくりを行った上で、2人の関係性や価値観、将来設計などについて、理解を深めていくことを目指します。
まず最初に、2人が安心して話し合えるようになるための土台作りを行います。例えば、配偶者が話しているときは途中で遮らずに最後まで聴く練習や、「私は〜と感じています」という形で自分の気持ちを伝える練習をします。特に大切な話題について話し合うときは、お互いの話をしっかりと聴き合い、相手の気持ちに寄り添うことが重要です。
参考リンク:夫婦コミュニケーションのカウンセリング
コミュニケーションの基礎ができてきたら、2人の価値観や期待、願望について話し合っていきます。例えば、休日の過ごし方について、一方は「家族で過ごしたい」、もう一方は「それぞれの時間も大切にしたい」と考えているかもしれません。
カウンセリングでは、なぜそのように考えるのかという背景まで掘り下げて話し合います。「家族で過ごしたい」という方は、子どもの頃から「家庭を持ったら家族との時間を何より大切にしたい」と願っていたかもしれません。お互いの価値観の背景にある思いを理解し合うことで、より深い絆を築くことができます。
意見の食い違いや対立は必ず起きると思って間違いありません。大切なのは、そのような問題を起こさないことではありません。そのような問題が起きても、お互いがある程度納得できる結論にたどりつける関係です。
例えば、お金に関する価値観が合わないケースはめずらしくありません。ベタな例ですが、「旅行に使いたい」という意見と「貯金に回したい」という意見が対立したとします。「毎月の収入からいくらを貯金に回し、いくらを旅行資金として積み立てるか」というような折衷案で折り合うなど、着地できる関係であることが重要です。
参考リンク:【仲が良い ≠ 関係が良い】親密さと関係を育てるコミュニケーション(1)
結婚生活に対する現実離れした期待を見直し、理想と現実の違いについて理解を深めます。
根拠のない「結婚すれば変わってくれるだろう」という期待は概ね裏切られます。「相手は自分の考えを言わなくてもわかってくれるはず」といった期待や思い込みは、なぜかどうでも良いときには叶えられて、肝心なときほど期待通りになりません。
現実には仕事の忙しさや体調不良など、様々な要因で期待通りにいかないことを理解し、それを前提に、どのように対処するかを考えます。
参考リンク:実家問題
結婚生活で問題となりそうな課題を早めに見つけ、対処方法を考えます。代表的なテーマは、子どもと実家の関係です。
「子どもができたら仕事を続けるか」「保育園に預けるか、実家の協力を得るか」「教育方針をどうするか」などを話し合います。
また、「お盆や年末年始をどちらの実家で過ごすか」「親の介護が必要になったときどうするか」といった将来起こりうる課題についてを事前に話し合います。
将来の夫婦像、家庭像をどこまで具体的に描いて共有する必要があるかというと、個人差があるとしか言えません。目標をきっちりと描いて共有したい人、大枠でありたい姿をきょう有したい人、現在の延長が未来なのだから今を大切にしたい人、等々それぞれです。
漠然と相手との違いを感じながらモヤモヤしているのなら、どこかでしっかり向き合う方が、お互いにとってプラスになるはずです。
結婚前カウンセリングの意義を以下にあげます。
結婚前カウンセリングは、離婚の予防を目的としてアメリカで始まったとされています。離婚の現状に関するデータを紹介します。
古いデータで恐縮ですが、下表は厚生労働省の人口動態統計より抜粋した数字です。離婚の3割は結婚5年未満の夫婦によるものです。10年未満まで広げると総数の約5割になります。
年度 | 総数 | 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 15年未満 | 15年以上 20年未満 | 20年以上 | 不 詳 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2019年 | 208,496 | 63,826 | 40,052 | 27,220 | 22,629 | 40,396 | 14,373 |
2018年 | 208,333 | 64,862 | 40,863 | 27,597 | 22,460 | 38,537 | 14,014 |
2017年 | 212,296 | 66,502 | 42,339 | 28,232 | 22,956 | 38,288 | 13,979 |
2016年 | 216,856 | 68,028 | 44,407 | 29,537 | 22,995 | 37,609 | 14,280 |
2015年 | 226,238 | 71,729 | 47,086 | 31,112 | 23,942 | 38,648 | 13,721 |
2019年の婚姻件数は599,007件です。単純に数字だけを比較すると、婚姻件数の3分の1の夫婦が離婚していることになります。
令和3年4月に公表された法務省の『協議離婚に関する実態についての調査研究業務報告書の公表について』によると、離婚原因の第1位は性格の不一致」でした。
順位 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 |
原因 | 性格の不一致 | 身体的な暴力 | 精神的な暴力 | 経済的な暴力 | 子への虐待 |
そもそも、性格の不一致は問題なのでしょうか。不一致は必ず起きると考えるのが現実的です。不一致が起きても、互いが受け入れられる着地点が見出せる関係が大切です。
メンタルヘルスには3つの予防があります。
一次、二次、三次と数字が上がるほど回復に時間がかかり、負担が大きくなります。
結婚前カウンセリングは、一次予防に相当します。その意義を理解していただけると思います。早めのパブロンではありませんが、見知らぬ他者(カウンセラー)に相談するハードル以外にデメリットはほとんどないはずです。