真面目な人が不倫に陥るのは

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

意外にも「真面目そうな人」が不適切な関係にハマることがあります。原因は一つではなく、多くの場合複数の要因があります。必ずしも不誠実な人格ではなく、真面目さゆえに抱えるストレスが引き金になることもあります。

ある事例を用いて不適切な関係に向かう人の心の状態を検討したいと思います。これは複数の事例を基にしたフィクションです。また、不倫を正当化するものではありません。以上を強調しておきます。

参考ページ不倫をしている人へのカウンセリング

参考ページ社内不倫にのめり込む要因と対処

事例

Yさん(仮名)は40代の会社員で、周囲からは「真面目で誠実な人」として知られていました。仕事でも家庭でも責任感が強く、常に周囲の期待に応えようと努力を続けてきました。しかし、その裏でYさんは次第に孤独感とプレッシャーに押しつぶされそうになっていました。

家庭内での孤独感

Yさんは家族を愛しており、家族のためにと家のローンを早く返済しようと仕事に励んでいましたが、その一方で妻と子どもたちとの距離が少しずつ広がっていることに気づいていました。

育児を考えて、妻の実家近くに家を買いました。妻と妻の両親は互いの交流に熱心になりました。Yさんは家庭での孤立を感じることが増えていきました。

仕事のプレッシャーと社会的な期待

職場では重要なプロジェクトを任されました。彼はその期待に応えようと懸命に働きました。一方で、プレッシャーは増すばかりでした。また、周囲からの「できるビジネスマン」という評価と、内面で感じる「本当の自分」とのギャップに苦しむようになりました。

出会いと不倫への依存

そんな折、Yさんは職場の女性が同じ趣味を持っていることを知りました。趣味を通じて意気投合しました。家庭で得られなくなった(と思っていた)共感や理解を感じるようになりました。次第にその関係に依存するようになりました。

最初は罪悪感を覚えながらも、「少しの時間だけだから」「ただ話をするだけだから」と自分に言い聞かせていました。しかし、次第にその依存は深まり、気がつけば不倫関係に発展していきました。

考察

単純化した事例ですが、不倫には複数の要因が絡んでいることを示そうとしたものです。それが悪循環を繰り返して深みにハマっていきます。アルコールやギャンブルが不倫の代わりになることもあります。

このようなことが起こりうると知っていれば、事前に何らかの対処を行いやすくなります。病気と同様に、起きてからの回復より、起きないように予防するほうが、労力も痛みも小さくなります。

原因の分類

不倫の要因になるうることを「個人的な要因」「環境の要因」「心理的な要因」の3つに分類して示します。

個人的な要因

  • 精神的な孤独
    • 家庭内や職場での人間関係が希薄で、孤独感を抱えている人は、その孤独を埋めるために不倫に走ることがあります。配偶者や家族との距離が広がると、その孤独感がさらに強くなり、他者との親密な関係を求めることがあります。
  • 自己肯定感の低下
    • 自己肯定感が低く、自分に自信を持てない人は、他者からの承認を求める傾向があります。不倫相手からの肯定や関心が、一時的に自己肯定感を高める手段となることがあります。
  • 過度のストレス
    • 仕事や家庭のプレッシャー、経済的な不安など、日常生活の中で蓄積されたストレスが大きいと、そのストレスから逃れるための手段として不倫を選ぶことがあります。

環境の要因

  • 夫婦間のコミュニケーション不足
    • 夫婦間でのコミュニケーションが不足すると、お互いの感情や考えを共有する機会が減り、心の距離が広がります。このような状況で、パートナー以外の人との関係に逃げ込むことがあります。
  • 家族関係の変化
    • 子どもの成長や親の介護など、家族関係が大きく変化することで、夫婦間のバランスが崩れることがあります。これにより、一方が孤立感を感じたり、もう一方に対する期待が満たされないと感じたりすることが、不倫の要因となることがあります。
  • 社会的な孤立感
    • 現代社会では仕事や地域コミュニティとのつながりが薄くなることが多く、特に中年以降の男性にとっては、家庭外での孤立感を感じやすい状況が生まれます。社会的な孤立感が深まると、不倫相手との関係に依存することがあります。

心理的な要因

  • 逃避行動
    • 自分が直面する問題やストレスから逃れるために、不倫を一時的な逃避の手段として選ぶことがあります。一時的な解決策に過ぎず、根本的な問題解決にはなりません。
  • 瞬間的な快楽を求める傾向
    • 一部の人は、日常生活の中での満たされない欲求を瞬間的な快楽で埋めようとする傾向があります。不倫はそのような快楽を提供する場面の一つとして現れますが、それが長続きすることは稀です。
  • 依存症的な行動パターン
    • 不倫をする人の中には、何度も繰り返す人がいます。これは、感情的な高揚感や刺激を求める依存症的な行動パターンに近いものです。このような行動がエスカレートすると、自己制御が困難になり、問題が深刻化することがあります。
  • 無自覚の偏見
    • 家父長制をルーツとする男性優位的な価値観は今の時代も存在します。不倫に対する罪悪感やハードルが低い男性がいます。

これらの要因が絡み合うと、より不倫が発生しやすい状況になります。これらを知っておくと、変化に気づきやすくなるはずです。予防しやすくなるはずです。

不倫を防止するために

不倫を防ぐには、複数の視点からの対処が有効です。「自己理解とセルフケア」「コミュニケーション」「専門家のサポート」の4つを紹介します。

自己理解とセルフケア

  • 定期的に感情を振り返る
    • 日記を書く、振り返りの時間を設けるなど、自分の感情や思考を定期的に振り返ることが有効です。ストレスが溜まっていることや、自分のニーズが満たされていないことに早めに気づきやすくなります。
    • 気持ちを言葉にするのが苦手な人に対しても、一行日記、一言日記をオススメします。最初は「イライラした」の一言だけでもOKです。続けているうちに、文になり、文章になっていきます。気持ちの解像度が上がり、自己理解が深まります。
  • ストレス対処法を取り入れる
    • ストレスに適切に対処できるよう、セルフケアを積極的に行うことも有効です。専門家の監修によるセルフケアの書籍の活用はおすすめです。。

コミュニケーション

良いコミュニケーションは良い関係を育てます。悪いコミュニケーションは関係を悪化させます。多くの人はコミュニケーションを学ぶ機会を持っていません。学校でも学びません。自ら能動的に学ぼうとしなければ、その機会を得られない人がほとんどです。

  • 「私メッセージ」の活用
    • 「私メッセージ」とは、自分の感じたことを主語にして伝えるコミュニケーション方法です。たとえば、「あなたはいつも遅い」ではなく、「私はあなたが遅いと心配になる」という表現を使います。これにより、相手を非難せずに自分の感情を伝えることができ、相手との対話がスムーズになります。
    • 参考ページ【アイメッセージ】親密さと関係を育てるコミュニケーション(2)
  • アサーティブ・コミュニケーションの習得
    • アサーティブとは、自分の意見や感情を率直に、しかし相手の権利も尊重しながら伝えるコミュニケーションスタイルです。アサーティブ・コミュニケーションを学ぶことで、パートナーとの対話がより建設的になり、お互いのニーズを理解し合うことができます。
    • 参考ページ【DESC法】親密さと関係を育てるコミュニケーション(4)

夫婦・カップルカウンセリングでは、カウンセリングの場で行われる2人のコミュニケーションをカウンセラーが観察して、具体的なアドバイスを行ったり、ロールプレイを行ったりすることもあります。

専門家のサポート

夫婦・カップルの問題解決には、ときには専門家のサポートが必要になることもあります。カウンセリングやワークショップに参加することで、自分たちでは気づけなかった問題点や新たな視点を得ることができるかもしれません。

  • カップルカウンセリングの活用
    • カップルカウンセリングでは、専門家が中立的な立場でお互いの問題を整理し、解決策を一緒に考えるサポートを行います。カウンセリングは、コミュニケーションの改善や信頼関係の再構築に大いに役立つ方法です。
  • 個人カウンセリングの活用
    • 個々の問題やストレスについて話し合う場として、個人カウンセリングも有効です。自己理解を深め、ストレスの原因を特定し、適切な対処法を学ぶことで、パートナーシップをより健全なものにすることができます。
  • ワークショップやセミナーの参加
    • コミュニケーションスキルやストレス管理法を学ぶワークショップやセミナーに参加することも、不倫の予防に役立ちます。専門家の指導のもとで新しいスキルを学ぶことで、パートナーシップを強化することができます。

まとめ

不倫の背景には、個人的な孤独感や自己肯定感の低下、仕事や家庭でのストレス、夫婦間のコミュニケーション不足、社会的な孤立感など、複数の要因が絡み合っていることがあります。

複合的なアプローチを取ることで対処しやすくなります。自己理解とセルフケア、効果的なコミュニケーション、必要に応じて専門家のサポートを得るといった多角的な対策をおすすめします。

不倫が発生した場合、早期に対処することが重要です。問題が小さいうちに行動を起こせば、それだけ傷は小さくて済みます。問題を放置することで、不信感が深まったり、関係が修復不可能なほどに悪化したりするリスクが高まります。

専門家によるカウンセリングやサポートは、個々の問題に対して適切なアプローチを提供し、より健全な人間関係の構築をサポートします。自分たちだけでは気づけない視点や新たな解決策を得ることで、問題解決の糸口が見つかるかもしれません。

参考ページ不倫をしている人へのカウンセリング

参考ページ社内不倫にのめり込む要因と対処

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