【不倫】なぜ詳細を何度も聞きたくなるのか

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

夫を問い詰める妻のイメージ
なぜ不倫の詳細や理由を問い詰めるのか

パートナーの不倫は多くの人にとって、人生を揺るがすような大きな出来事です。多くの人が強いショックを受け、心が混乱して何も考えられなくなることがあります。

少しずつ正気を取り戻し始めると、「いつから?」「どこで会っていた?」と、繰り返し聞くようになります。たとえ相手が前に答えたことと同じ内容でも、もう一度あえて問いただすことがあります。

これは、表面的には「怒り」や「疑念」の感情が表れた行動のように見えますが、その背景にはいくつかの理由が考えられます。

不倫によって負う心の傷

不倫によって負う心の傷の大きさは、トラウマ(災害の被災や犯罪の被害等、自分の存在を脅かすほどの大きなショック体験によって負う心の傷)に相当することがあります。不倫の発覚直後には、以下のような状態が現れやすいことがわかっています。

  • 頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなる
  • 「なぜこんなことが」と現実を受け入れられない
  • 食事がとれない、眠れないなどの身体症状が出る
  • 仕事や家事に集中できなくなる
  • 不安や怒りなど、強い感情が波のように押し寄せる
  • 「どこで気づけなかったのか」という自責の念

これらの反応は、大きなショックを受けた後の自然な反応です。むしろ、このような反応が出ることで、少しずつ心の整理が始まっていくと考えられています。

心の傷の詳細は以下のページをご覧下さい。ここでは「なぜ詳細を何度も聞きたくなるのか」にテーマを絞って話を進めていきます。

なぜ詳細を何度も聞きたくなるのか

大きなショックから少し落ち着きを取り戻すと、多くの方が「いつから?」「どこで会っていた?」「どんな関係だったの?」と、繰り返し詳細を聞くようになります。聞かれる側は「なぜ?」と戸惑ったり、疲弊したりします。

この行動には、以下のような意味があります。

1. 現実を把握して整理したい気持ち

不倫という大きな出来事が起きたとき、人はまず現実を整理しようとします。

  • 「何も知らない」「実態が見えない」状態は不安を強める
  • 詳細を知ることで、現実を少しずつ受け止められるようになる
  • 状況を理解することで、次の一歩を考えるヒントを得られる

2. 安心感を取り戻したい気持ち

大切なパートナーの裏切りは、心の安全基地が失われたような強い不安をもたらします。

  • 前回と同じ答えが返ってくると、少しだけ安心できる
  • 矛盾がないか確認することで、「もう隠し事はないかもしれない」と感じられる
  • 何度も確認したくなるのは「過覚醒」と呼ばれるトラウマ反応の一つ

3. コントロール感を取り戻したい気持ち

不倫された側は、自分の知らないところで物事が進んでいたという無力感を抱えています。

  • 「自分には何もできなかった」という喪失感を和らげたい
  • 質問することで、わずかでも状況をコントロールしている感覚を得られる
  • 「私が聞いて、相手が答える」という構図自体に意味がある

4. 感情を表出して整理したい気持ち

大切なものを失い、深く傷ついたときには、感情を表出することが必要です。

  • 涙を流す、怒りを表現する、問いただすなどの行為が心の回復を促す
  • 感情を言葉にすることで、自分の気持ちを整理しやすくなる
  • 誠実に答えてもらえることで、少しずつ信頼を取り戻せる可能性がある

繰り返し問いただすことのリスク

不倫発覚直後の感情的な反応は自然なものですが、それが長期間続くと以下のような問題が起こることがあります。

1. お互いの消耗

  • 不倫された側は疑念や怒りで疲れ果てる
  • 不倫した側は「何度説明しても理解してもらえない」と追い詰められる
  • コミュニケーションがむずかしくなる

2. 関係性の悪化

  • 感情のぶつけ合いだけでは解決に向かわない
  • 再構築も離婚も選択できない状態で立ち止まってしまう
  • 監視や束縛が増え、新たな不信感を生む

3. さらなる心の傷

  • 不倫相手との比較で自尊心を傷つける
  • 答えを聞くたびに傷口をえぐることになる
  • 過度の監視行動が新たなストレスを生む

建設的な対話への移行が重要

ある程度時間が経ち、初期の動揺が落ち着いてきたら、少しずつ以下のような建設的な対話を目指すことが望ましいです。

  • お互いの気持ちを理解しようと努める
  • 再発防止について具体的に話し合う
  • 今後の関係性について率直に話し合う
  • 夫婦関係の問題点を冷静に見つめ直す

カウンセリングのすすめ

不倫の悩みは誰にでも相談できるものではありません。多くの方が、以下のような理由で一人で抱え込んでしまいます。

  • 友人や家族にも「何か言われるのでは」と不安
  • 周囲に知られたくないという気持ち
  • 相談相手がいないという状況

しかし、この苦しい状況を一人で抱え込む必要はありません。カウンセリングには以下のメリットがあります。

  • 安全な環境で気持ちを吐露できる
  • 専門家の視点から状況を整理できる
  • 極端な感情のぶつけ合いを減らすヒントが得られる
  • 冷静な対話への移行をサポートしてもらえる

不倫された直後に詳細を何度も聞きたくなるのは、心が回復しようとする自然な反応です。この反応を「おかしなこと」と否定する必要はありません。しかし、その状態が長く続くことで、かえって回復が遠のくこともあります。

一人で抱え込まずに、専門家に相談することをお勧めします。夫婦関係をどうするかは重要なテーマですが、まずはあなた自身の心を少しでも穏やかにしていくことを優先してください。

タイトルとURLをコピーしました