エモーショナルアフェア:インターネット・SNS時代の不倫

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

エモーショナルアフェア
感情的な不倫:エモーショナルアフェア

エモーショナルアフェアとは、直訳すると「感情的な不倫」です。パートナー以外の人との、恋愛感情や性的な関係を伴わない、しかし親密な感情的つながりを意味します。不貞行為がない不倫。不倫の概念が変わりつつあるのかもしれません。

エモーショナルアフェアとは

わかりにくい概念なので繰り返します。エモーショナルアフェアとは、パートナー以外の人との親密な感情的つながりを指します。恋愛感情や性的な関係を伴わないこともありますが、それらに発展する可能性もあります。

1980年代後半から1990年代初頭頃に、心理学者等の専門家が、物理的な不貞行為を伴わない感情的な親密さの問題に注目し始めたとされています。特定の人物がこの概念を提唱したのではありませんが、この分野の著名な人物を2人あげます。

1人目は、Shirley Glass です。著書の日本語訳は出版されていません。以下は、彼女の著書、Not “Just Friends”: Rebuilding Trust and Recovering Your Sanity After Infidelity のイントロダクションの要約です。

近年の不倫の傾向が変化していると指摘します。従来の意図的な不倫ではなく、友人関係や職場関係から始まり、気づかぬうちに感情的な親密さが深まり、不倫に発展するケースが増加しています。特に職場での不倫が増加傾向にあり、女性の不倫も増えています。多くの人は性的接触がなければ不倫ではないと誤解していますが、感情的な親密さも不倫となり得ます。統計によると、カップルの約50%が何らかの形で不倫を経験しています。しかし、関係を守るための対策や、不倫後の関係修復の方法は存在します。

エモーショナルアフェアという言葉こそ用いられていませんが、内容はエモーショナルアフェアそのものと言えます。

2人目は、ジャニス・エイブラムズ・スプリングです。著書の日本語訳が出版されています。インターネット時代の不倫、オンラインセックスについて詳しく述べられています。

ジャニス・エイブラムズ・スプリング (著), マイケル・スプリング (著), 永井二菜 (翻訳) 2020 ベストパートナーの対話術 ──浮気・不倫から信頼を取り戻すプロの極意 パンローリング株式会社

恋愛感情や性的関係を伴わない感情的つながりとは

「恋愛感情や性的関係を伴わない感情的つながり」とはどういったものでしょう。例として、以下のようなものが考えられます。

  • 精神的な支え合い
    • 仕事上の悩みや個人的な問題を深く共有し、互いに支え合う関係
  • 共通の興味や趣味
    • パートナーと共有できない特定の趣味や関心事を語り合える関係
  • 感情的な親密さ
    • 日常の喜びや悲しみを細かく共有し、深い理解を感じる関係
  • 精神的な依存
    • その人との交流がないと不安を感じるほど頼りにしている関係

これらの関係は、当初は純粋な友情や同僚関係として始まることが多いようです。それが徐々に深まり、パートナーとの関係よりも重要になっていく可能性があります。

不貞行為がなくても、このような深い感情的な絆がパートナー以外の人と形成されることで、既存の関係に大きな影響を与える可能性があります。インターネット・SNSの普及により、エモーショナルアフェアが起こりやすい状況が増えています。

エモーショナルアフェアの特徴

エモーショナルアフェアには、いくつかの特徴的な要素があります。

  • 感情的な親密さ
    • パートナー以外の人と深い感情的なつながりを持ち、個人的な悩みや喜びを共有します。場合によっては、恋愛感情に発展することもあります。
  • 秘密主義
    • この関係を隠そうとする傾向があり、パートナーに知られることを恐れます。
  • 時間とエネルギーの投資
    • パートナーよりも第三者との関係に多くの時間やエネルギーを費やすようになります。
  • 既存の関係への影響
    • パートナーとの関係に不満や距離感が生まれ、コミュニケーションが減少することがあります。

これらの特徴は、必ずしもすべてが同時に現れるわけではありません。しかし、一つでも当てはまる場合は注意が必要です。エモーショナルアフェアは、気づかないうちに発展し、既存の関係を脅かす可能性があります。

エモーショナルアフェアの形態

エモーショナルアフェアは、様々な状況や環境で発生する可能性があります。主な形態としては以下があげられます。共通するのは、日常的な接点や感情的な共有が容易な環境であることです。

  • 職場で
    • 長時間を共に過ごす同僚との間で発展しやすい
    • 共通の目標や挑戦を通じて親密になりやすい
    • 仕事上の成功体験が感情的なつながりを強める
  • インターネット上で
    • SNSや掲示板を通じて見知らぬ人と親密になる
    • 匿名性が本音を話しやすくする
    • 時間や場所の制約なくコミュニケーションが取れる
  • 地域社会で
    • 近所付き合いや地域活動を通じて親密になる
    • 子どもの学校関連の活動で知り合った保護者同士で発展
    • 地域のサークルや趣味の集まりでの交流から生まれる
  • 過去の恋人や友人と
    • SNSで再会し、昔の感情が再燃する
    • 共通の思い出や経験が強い絆を生む
  • 医療従事者やカウンセラーと
    • 治療や相談を通じて深い感情的つながりが形成される
    • 専門家への依存が強まり、境界線が曖昧になる
  • 宗教や精神的活動を通じて
    • 同じ信仰や価値観を共有する中で親密になる
    • 精神的な指導者と信者の間で発展することもある

不倫が起きやすい場所の1位は昔から職場ですが、調査によってはインターネット・アプリが1位になることもあるようです。また、男女の違いもあるようです。

エモーショナルアフェアの影響

エモーショナルアフェアは夫婦だけでなく家族や周囲に悪影響を及ぼす
エモーショナルアフェアは夫婦・家族・個人に悪影響を及ぼす可能性があります

どのような状況であっても、パートナー以外の人と、パートナーとの関係以上に親密な、重要な感情的つながりが形成されることで、既存の関係に大きな影響を与える可能性があります。例えば、以下のような影響です。

  • 個人への心理的影響
    • 罪悪感や混乱、自己評価の低下
    • エネルギーの分散による日常生活への支障
  • 関係性への影響
    • パートナーとの親密さの減少
    • 信頼関係の崩壊
    • コミュニケーションの質と量の低下
  • 家族や周囲への波及効果
    • 家族の絆の弱まり
    • 子どもの心理的安定への悪影響
    • 友人関係や社会的評価への影響

例えば、パートナーとパートナーの職場の同僚がエモーショナルアフェアの関係になっている場合、その関係を咎めると、逆に「職場のパートナーとして、一緒に真摯に仕事に取り組んでいる」「それを邪な関係と疑う君に失望する」と責められて、何も言えなくなることがあります。

これらの影響は、エモーショナルアフェアが長期化するほど深刻になるのは容易に想像がつきます。早期の気づきと対処が求められます。

予防と対処

エモーショナルアフェアを予防し、関係を維持するための対処としては以下があげられますが、これらは対症療法的です。関係に歪みがある場合、根本的な取り組みが求められます。具体的な取り組みは、夫婦の現状によって異なります。心当たりがある方はカウンセリングを検討して下さい。

  • 健全な境界線の設定
    • 職場やオンラインでの異性との接し方のルールを明確にする
    • パートナーと話し合い、お互いの期待を共有する
  • 効果的なコミュニケーション方法
    • パートナーとの定期的な対話の時間を設ける
    • 感情や不満を率直に、しかし建設的に表現する
  • 自己認識と感情管理のテクニック
    • 自分の感情や行動パターンを客観的に観察する
    • ストレス管理や自己ケアの方法を学ぶ

エモーショナルアフェアの背景には、夫婦の関係に歪みが生じている可能性が考えられます。

不倫や浮気には、パートナーから得られないものを他者に求めている場合があります(もちろん、それだけではありませんが)。恋愛関係も性的関係もないエモーショナルアフェアの場合、よりその傾向が強いかもしれません。

パートナーから得られないものとは、精神的な充足につながるものが予想されます。そうであるなら、夫婦の関係性の面からは、一般的な不倫や浮気よりも深刻なケースもありえます。

エモーショナルアフェアの予防や解決を考えるとき、エモーショナルアフェアを問題と捉えるのと同時に、夫婦関係の悪化の結果としてエモーショナルアフェアが起きていると考えることも、予防や解決につながると考えられます。

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