社内不倫にのめり込む要因と対処

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

職場は、仕事仲間との長時間の接触や悩みの共有を通じて、不倫関係が生まれやすいとされています。実際、調査によると、不倫関係が始まる場所として職場は特に多く、恋愛感情や情緒的な絆に発展するリスクが高いことがわかっています。不倫が職場で起きやすい要因と、その対策について考えます。

注)社内は会社内、職場は取引先を含む広い範囲を意味しますが、ここではほぼ同じ意味で用いています。

なぜ職場が多いのか

職場での不倫が多い要因として一般的に知られているのは以下です。

長時間の接触と親密度の増加
職場では同僚や上司と長時間一緒に過ごすことが多く、自然と親密な関係が築かれやすいです。特に同じチームで働いたり、共通のプロジェクトに取り組むことで、強い絆が生まれることがあります。

仕事上のストレスや悩みの共有
仕事の悩みやストレスを共有することで、相手に対する信頼感や親近感が増し、それが恋愛感情に発展することがあります。

飲み会や出張などの非公式な場での交流
飲み会や出張といった職場外での活動は、プライベートな一面を知る機会を提供し、そこから恋愛感情が芽生えることがあります。特に飲み会では、お酒の影響で理性が緩みやすくなるため、不倫関係に発展しやすいと言われています。

パートナーへの不満
既婚者の場合、家庭内でパートナーへの不満があると、それを職場の同僚に相談することで、その同僚との関係が深まり、不倫に発展することがあります。

信頼されることへの喜び
男性は頼られること、女性は頼れる人を求める傾向があり、そのようなニーズが職場で満たされると、不倫関係に発展する可能性があります。

メタメッセージが育む絆

職場は結婚相手と巡り会う場所としても上位にあげられます。特に職場の人間関係が恋愛に発展しやすいのは、メタメッセージによる情緒的な絆が育まれやすい環境であることも要因と考えられます。

メタメッセージとは、言葉そのものの意味を超えた「裏にあるメッセージ」や「文脈的な意味」を指します。たとえば、言葉のトーン、表情、身振り、または状況などが、伝えたい意図や感情に影響を与えます。

  • 非言語によるメッセージ:身振り、手振り、声のトーン、態度、姿勢
  • 文脈や状況:関係性、価値観、背景、いつ、どこで

メタメッセージは、言葉だけでは伝えきれないニュアンスや感情を補足する役割を果たします。

「気が利くね♪」と「気が利くね!」は言葉は同じでもメタメッセージが異なります。前者は親しみが感じられますが、後者は嫌味を感じるかもしれません。

同じトーンで「気が利くね」と言われても、関係性が良い相手からの場合は、素直に感謝の意と受け取るでしょう。関係性の悪い相手からの場合は、嫌味と感じるかもしれません。

コミュニケーションにおける言語とメタメッセージの影響力の大きさは、会話の内容によって異なります。

会議、契約、研究発表、論文など正確さを求められる場面では正確な言語と表現が求められます。メタメッセージの影響は小さいです。メタメッセージの影響が大きいのは、感情や関係性が重要になる場面です。

職場は同じ目標や価値観を共有する場でもあります。メタメッセージの影響力が大きくなりやすい場と言えます。仕事への情熱や価値観を共有する相手との間に情緒的な絆が育まれ、不倫に発展することがあります。

セックスと愛情の混同

セックスによる一時的な幸福感や身体的な快楽は、しばしば愛情と誤解されます。

ホルモンが生む誤解
セックスによって分泌されるオキシトシン(この章の下部に説明あり)やドーパミンは、幸福感と安心感を強化し、信頼関係を感じさせます。この生理的反応が、「この人との関係は特別だ」という錯覚を引き起こしやすくします。

セックスの相性と愛情の誤認
身体的な相性が良いと、それが「心のつながり」と感じられ、特別な感情が芽生えたと誤解されることがあります。これが、短期間での不倫関係の深まりを促す要因となります。

「セックス=愛情表現」の価値観
セックスは愛情表現の一部とする社会的な価値観が、性的な満足を愛情の証と誤解させることもあります。こうした誤解が、不倫にのめり込む原因になります。

職場は恋愛関係や情緒的な絆が育まれやすい場所です。また、性的満足は愛情と誤解されることも少なくありません。そのため、こうした要因が重なると、不倫関係にのめり込みやすくなる傾向が見られます。

オキシトシン

オキシトシンは、「幸せホルモン」や「愛情ホルモン」と呼ばれます。このホルモンは特に、人と人とのつながりや、親しい関係が築かれる際に多く分泌されます。例えば、大切な人と抱きしめ合うとき、友達や家族と楽しい時間を過ごすとき、またペットと触れ合うときなど、オキシトシンが脳内で分泌されることで、安心感や幸福感を感じています。

オキシトシンは、ストレスを和らげる効果もあるため、安心感を高めたり、心の安定を促したりするのにも役立っています。そのため、オキシトシンが多く分泌されると、よりリラックスし、人と信頼関係を築きやすくなります。親子の絆や恋人同士のつながりを深める際にも重要な役割を果たします。

また、オキシトシンは、人とポジティブな交流を持つことで分泌が促進されます。誰かに優しさを示したり、相手から思いやりを受け取ったりすると、オキシトシンが増え、結果的に自分も相手もより幸せな気持ちになります。こうしたことから、オキシトシンは「幸せホルモン」として知られています。

職場不倫を防ぐために

職場不倫を防ぐための心構えと対策について、「職場での具体的な行動指針」「夫婦間での仕事の共有」「その他の対策」の3つのくくりで提案します。

職場での具体的な行動指針

職場での不倫を起こさないためには、日常的な行動に注意を払うことが重要です。以下に、具体的な行動指針を提案します。

1.メールやチャットの内容に注意する

職場でのコミュニケーションは、業務に関連した内容に限定します。特に、メールやチャットの内容には注意が必要です。プライベートなメッセージや話題のやり取りは、親密さを深めるきっかけになる可能性があります。また、夜間のやり取りを避けることも推奨されます。

2.物理的な距離を保つ

身体的な距離感も大切です。必要以上に近づかないことで、過度な親しみや誤解を生むことを防ぎます。例えば、長時間2人だけで過ごすことや、他の同僚がいない場所での会話を避けることで、親密な関係が発展するリスクを減らせます。適切な距離を保ちつつ、業務に集中することを心がけます。

3.褒め言葉や親しげな言動を控える

感謝や賞賛は、業務に関連する範囲に限定します。不必要に褒めたり、親しげな言動を取ることで誤解を招く可能性があります。フィードバックは仕事に対するものであり、プライベートな部分には触れないようにします。職場でのコミュニケーションは、あくまで業務をスムーズに進行させるための手段にとどめます。

4.秘密を共有しない

個人的な秘密や感情を打ち明けることは、相手との親密さを増す原因になります。職場での異性にプライベートな悩みを相談することは控えます。信頼できるパートナーや友人、専門家に相談することを推奨します。

5.共同作業を複数人で行う

長期間にわたるプロジェクトや重要な業務は、複数人で進行することを心がけます。個人的なつながりが深まる状況を避けるためにも、チームでの業務進行が推奨されます。感情的な依存や不必要な親密さが生まれるリスクを減少させることが望まれます。

夫婦間での仕事の共有

「仕事を家庭に持ち込まない」という考え方は、日本の多くの家庭で良しとされてきました。しかし、その考えは、夫は仕事に励み、妻は家庭を守る、男性は総合職、女性は一般職とする昭和のものであって、令和の時代にはそぐわないかもしれません。

あえて、仕事での感情や出来事を夫婦で共有することを提案します。これにより、夫婦間の信頼や共感が深まり、外部に感情的な依存をしなくても済む環境を整えることが可能になると考えます。

何をどの程度共有するのが適切かは、個々の夫婦によって異なると思います。ここでは目安となるものを提示します。

1.業務の進捗や成果に関する報告

仕事の成果や進捗状況を夫婦で共有することは、ポジティブな感情を家に持ち込む良い機会になり得ます。すべての業務内容を共有する必要はありませんが、特に感情に関わる部分を共有することで、夫婦間の理解の深まりが期待できます。

選択肢1:成功や達成感の共有
仕事で感じた喜びや達成感を夫婦で共有します。たとえば、プロジェクトがうまくいった際の達成感や、目標を達成した時の喜びを伝えることで、夫婦でポジティブな感情を分かち合えるかもしれません。

選択肢2:失敗や挫折の共有
失敗や挫折を共有します。仕事で悔しい思いをしたときに、それをパートナーと話すことで、ストレスを一人で抱え込むことなく、夫婦で支え合える関係を築けるかもしれません。感情を分かち合うことで、パートナーシップの強化が期待できます。

職場の同僚と同じ質や量の共有をパートナーに求めるのは無理があるかもしれません。何を理解してほしいか、何を理解したいかを明確にするのが望ましいです。

2.人間関係に関する話題

職場での人間関係の悩みを夫婦で共有します。ただし、人間関係の悩みは愚痴になりやすく、愚痴の話が長くなると聴き手は負担に感じて、共有に後ろ向きになることがありますので注意が必要です。

選択肢1:職場での人間関係の状況
同僚や上司との関係について話すことで、パートナーがあなたの職場環境をより理解しやすくなり、仕事のストレスや悩みを家庭に持ち帰っても、共感を得やすくなるかもしれません。

選択肢2:チームでの協力や連携状況の共有
仕事のチームワークや協力関係についての話題の方が、パートナーは受け止めやすいでしょう。パートナーが仕事の困難や達成感を理解することで、それが精神的なサポートになることが期待できます。

悩みの多くは人間関係によるものと言われます。人間関係は早期の解決がむずかしいことが多く、聴き手はただ受け止めることしかできず、その状態を負担に感じることがあります。人間関係の悩みを共有するときは、時間を設定するなど会話のルールを決めておくのが良いかもしれません。

3.感情面にフォーカスした共有

感情面の共有は、特に夫婦間での絆を強める効果が高いです。仕事の成功や失敗に関する感情をオープンにすることで、お互いの心の動きの理解が深まることを期待できます。

選択肢1:感情の浮き沈みを共有する
仕事での感情的な反応、喜びや悔しさ、疲れなどを率直に伝えることで、パートナーがあなたの状況を理解し、安心感や信頼感が生まれます。

選択肢2:ストレスコーピングの共有
ストレス対処法について話し合い、一緒に実践することも効果的です。一緒に散歩に行く、映画を観るなど、ストレスを共有し、対処する方法を探すことで、夫婦間のつながりの強化が期待できます。

4. 仕事と家庭のバランスについての話し合い

仕事と家庭のバランスを適切に保つためには、定期的な話し合いが求められます。特に、どのように時間とエネルギーを使うかについて夫婦で調整することで、相互理解が深まります。

選択肢1:仕事と家庭の優先順位やバランスの話し合い
仕事にどのくらいの時間やエネルギーを注ぐべきかを夫婦で話し合い、お互いが納得できるバランスを見つけます。これにより、家庭での時間を大切にしつつ、仕事にも集中できる環境が整います。

選択肢2:将来のキャリアプランに関する話
夫婦でお互いのキャリアプランや将来の目標について共有し、サポートし合う方法を話し合うことも効果的です。これにより、長期的な視点でお互いを理解し、支え合う関係が築けます。

一緒に考える、一緒に取り組む機会を持つことが重要です。このような機会は締切がないので後回しになりがちです。しかし、人生における重要度は、締切のないものほど高いことがあります。多少強引にでも、このような機会をスケジュールに組み込むことは、大いに意義があるはずです。

最後に

職場での不倫は、長時間の接触や仕事への情熱や価値観を共有することで、情緒的な絆が育まれやすい環境にあることが一因です。こうしたリスクを軽減するためには、日常的な行動に気を配り、適切な距離を保つことが重要です。

今回強調したいのは「夫婦間での仕事の共有」です。職場で他の人と情熱や価値観を共有する代わりに、パートナーと仕事に対する思いや目標を語り合うことで、夫婦間の絆をより強くする機会になるはずです。

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