コミュニケーションは話し手と聴き手がいて成立します。前回まで話し方に焦点を当ててきましたが、今回は聴き手に焦点を当てます。相手を理解しようとする姿勢が信頼と安心を育み、単に仲が良いだけではなく、価値観の違いがあっても納得できる着地点にたどりつける関係の土台となります。
前回の振り返り
前回は、誤解を招きやすい伝え方について説明しました。「いつも」「また」といった一般化する言葉や、怒りを込めた質問形式は、相手の防衛反応を引き出しやすく、建設的な対話を妨げます。非言語情報と言葉が矛盾するときは、言葉が伝わらないことも確認しました。
共感的理解とは何か
「共感」ではなく「共感的理解」を目指す
パートナーの話を聴くとき、「共感が大切」とよく言われます。しかし、正確には「共感」ではなく「共感的理解」と考えるほうが取り組みやすいです。
「共感」を辞書で引くと、以下のように書かれています。
同感や感情移入という言葉が出てきます。たとえ夫婦でも、同じように感じないことは普通にあります。感情移入できないことも普通にあります。
カウンセリングでも、「(妻または夫に)共感してほしいと言われてもできません」と言われることがあります。共感が同感や感情移入を指すのであれば、できないと思うのもやむを得ないと思います。
「共感的理解」には、同感や感情移入は不要です。
共感的理解とは、「(自分は必ずしも同じように感じないけれど)あなたはそのように感じているのですね」と理解することです。「(同感も感情移入もできないけれど)あなたがそのように感じていることは理解できます」という状態です。
これならできると思いませんか。
なぜ共感的理解が重要なのか
人は誰しも、理解され、受け入れられることを深く求めています。特に夫婦においては、共感的理解が重要な要素となります。
相手の心情をより理解しようとする姿勢は、信頼と安心を育みます。信頼と安心は、単に仲が良いだけではなく、価値観や感覚などの違いによる衝突が起きても、お互いが納得できる着地点にたどりつける関係の土台となります。
共感タイプと解決タイプの違い

相談に求めるものが異なる
夫婦カウンセリングにて、「夫(妻)がそんな風に感じているのを初めて知りました」とおっしゃる方が少なからずいらっしゃいます。「私も同じように伝えているのに、どうして伝わらないのでしょう」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
コミュニケーション不全の例としてよくあげられるのは、共感タイプと解決タイプの違いです。相談という行為に求めるものが異なります。
共感タイプの人にとって相談とは、多くの場合、まず「気持ちをわかってほしい」という想いが込められています。
解決タイプの人にとって相談とは、多くの場合、「解決策を考える(または提示する)」ことを意味します。
もちろん、共感タイプの人も解決を求めることに違いはないでしょう。しかし、その前に気持ちをわかってくれたという実感を欲することが多いです。「とりあえず聞いて」と言われたことがあるかもしれません。聞いてもらい、わかってもらえた実感が得られると、それで解決ということもあります。
逆に解決タイプの人には、「終わったことをあれこれ言っても仕方ない」「これからを考えればいい」という考えが強いです。それでも気持ちをわかってもらおうとがんばると、「俺にどうしてほしいの?」という言葉が返ってくることもあります。解決に向かえないもどかしさが感じられます。
性別との関係
一般的に、共感タイプは女性に多く、解決タイプは男性に多いと言われます。しかし、共感タイプの男性と解決タイプの女性のカップルも存在します。性別で決まるものではなく、個人の特性として捉えるのが適切です。
なお、悩みが深いとき、うつ状態のときには、解決タイプの人でも「苦しいなあ」「よく踏ん張ってるなあ」などの共感的理解の言葉が必要です。
具体例:育児で疲弊した妻への対応
解決できない状況での共感的理解
夫婦カウンセリングにて、夫から「解決しなくていいのですか?」と言われることがあります。解決できるに越したことはありませんが、すぐ解決するのがむずかしいケースは少なくありません。
例えば、このようなケースがあります。
はじめての赤ちゃん。子育てはわからないことばかり。実家は遠く離れている。サポートは得られない。夫の帰宅は毎日22時過ぎ。家事・育児に関与できるのは休日のみ。妻一人でやるしかない現実はわかっている。しかし、ままならない毎日に心は限界。
やりきれない気持ちを夫にぶつけてしまう。夫は何もできないとわかっているけど、気持ちをぶつける相手は夫しかいない。毎日のようにストレスをぶつけられる夫。ある日、とうとうガマンできずにキレてしまう。
残念ながら、妻の現状をすぐに改善する方法はなさそうです。
理解が感情の解決につながる
妻が夫にストレスをぶつけたとき、夫が「ごめんな、何もできなくて。いつもつらそうで、申し訳ないと思ってるし、がんばってくれてることに感謝してる」と返したらどうなるでしょう。
「わかってくれてる」とホッとする妻が多いのではないでしょうか。
現状をすぐに解決できないことは、妻自身もよくわかっているはずです。それでも、やりきれない気持ちを処理できない。それが、夫が「わかってくれてる」と感じた瞬間、和らぎます。
メンタルヘルスでは、ストレスへの対処方法を「問題焦点型コーピング」と「情動焦点型コーピング」に分けます。
問題焦点型コーピングは、問題そのものを解決しようとするアプローチです。情動焦点型コーピングは、感情を整理して心を落ち着けるアプローチです。
このケースでは、夫の帰宅時間や実家との距離など、すぐには変えられない現実があります。問題焦点型コーピング(物理的な解決)が困難な状況です。
このような状況では、情動焦点型コーピング(感情のケア)が有効です。むしろ情動焦点型を選択せざるを得ないかもしれません。
解決タイプの人は問題焦点型を優先する傾向があり、共感タイプの人は情動焦点型を優先する傾向があります。どちらも状況に応じて必要な対処法です。
共感的な聴き方の基礎

積極的な姿勢
聴くことには、受動的傾聴と積極的傾聴があります。
受動的傾聴とは、相手の言葉に耳を傾けて、受け止めることです。
積極的傾聴とは、相手の意図と自分の理解にズレがないかを確認したり、「それはどういうこと?」と掘り下げて話すように促すことです。質問によって行います。
相手の話をただ受け止めるだけでなく、「それは〜ということ?」と確認したり、「詳しく説明して」と先を促すのは、もっと理解したいという積極的な姿勢の表現です。それは共感的な姿勢でもあります。
論理と感情の両方を理解する
人は自分が話すように聴きます。論理が優位な人は、聴くときも論理に重点が偏りがちです。感情が優位な人は、感情に重点が偏りがちです。
意識しなければ、すれ違いを繰り返してしまいます。そして、会話がなくなっていくのがパターンの一つです。
論理と感情の両方の理解を促進するツールとして、【自分自身との対話】親密さと関係を育てるコミュニケーション(3)にて紹介した、ABC理論をおすすめします。

【B 考え(受け取り方)】が論理に、【C 結果(感情)】が感情に相当します。
例を示します。
【A 出来事】
夫が約束した家事をしない
【B 論理】
話し合って決めたことを軽く見ている
(私を軽く見ている)
【C 感情】
悲しい、苛立ち
聴き手は【B 論理】と【C 感情】の両方の理解に努めます。話してが両方の言語化に努めることとその方法は、【自分自身との対話】親密さと関係を育てるコミュニケーション(3)で説明しました。
聴き手の場合も話し手と同様、上記を頭に置いて聴きましょう。頭の中に聴き方のフレームがあると、どの方向に話を進めれば良いかの指針になります。漠然と聴くより良い会話になるはずです。
アサーティブに聴く
自分も尊重する
アサーティブコミュニケーションとは、相手も自分も尊重する・大切にするコミュニケーションです。
聴く話をすると、相手が満足するまで聴かなければならないのか、とか、異議を唱えてはいけないのか、などと誤解されることがあります。それは、自分を尊重していないので、アサーティブではありません。
話を聴くのは負荷が高い行動です。疲れがたまっているときには、聴けないこともあります。強い感情を向けられるのは、他人に対する感情であっても、大きな負荷がかかるものです。
そのようなときには、「疲れているので明日以降にしてほしい」「感情的になられると聞くのが辛い」と自己主張するのもアサーティブコミュニケーションです。
話し合いの仕組みを作る
しかし、話し手が「今話しておかなければ、次はいつになるかわからない」という気持ちでいると、「疲れている…」と言っても受け入れてもらえないかもしれません。
そのような事態を避けるには、話し合いの仕組みを作っておく必要があります。次回は仕組みについてです。
まとめ








