【夫婦のコミュニケーション】なぜ伝わらないのか(2)適切な伝え方

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

【1】はじめに

前回は『共感』について考えました。人の話を聞くときは『共感』が大切と言われますが、正確には『共感的理解』です。

話し手と同じ気持ちにならなくても、話し手の考え方に同意できなくても、話し手はそのように感じているのか、そのように考えているのかと『理解』することは可能です。

話し手には『理解』を得られやすい話し方が求められます。今回は『伝え方』について考えたいと思います。

【2】「私メッセージ」と「あなたメッセージ」

自分も相手も尊重するコミュニケーションが好ましいことに異論を唱える人はいないと思います。そのようなコミュニケーションを「アサーション」または「アサーティブなコミュニケーション」と言います。

子どもの教育方針などで、夫婦の考えが食い違ったり、対立したとき、どのような言葉を相手にかけるでしょうか。例えば、次のような言葉が考えられます。

A「どうして、わかってくれないの!?」

このような言い方もあるでしょう。

B「君の考えはわかった。けど、僕は〜と思う。なぜなら…」

あなたがAのように言われると、どのように感じるでしょうか。非難されているように感じるかもしれません。あなたの考えが尊重されているようには聞えないと思います。

Bはどうでしょう。「君の考えはわかった」から、理解されたことは伝わってきます。「けど、」以下の言葉から、異なる考えを持っているけれど、あなたを非難しているようには感じないでしょう。

Bの伝え方が好ましいのは感覚的にも理解できると思います。

AとBの違いは主語です。

Aの主語は言葉にされていませんが、『あなた』です。「(あなたは)どうして、わかってくれないの!?」です。

Bの主語は『僕(私)』です。

Bのように『私は〜と思う(考えている)』と『私』を主語にして話すと、相手も自分も尊重するアサーティブな表現になりやすいです。Aのように『あなた』を主語にして話すと、そのつもりがなくても、相手を非難していると受け取られやすくなります。

自分も相手も尊重する意識を持ち、大切なことほど「私メッセージ」で伝えることを心がけましょう。

【3】目は口ほどにものを言う

『私メッセージ』の説明をすると、「そうしているのに、夫(妻)は逆ギレするんです!」と言われることがあります。

私たちは、言葉だけでコミュニケーションしているのではありません。非言語(表情、身振り・手振り、口調など)でもコミュニケーションを取っています。

メラビアンという学者が、コミュニケーションにおいて、「言葉そのもの」「聴覚情報(口調、声のトーン)」「視覚情報(表情、身振り・手振り)」の3つが、どのような割合で影響しているのかを調べました。

結果は以下の通りでした。

言葉:7%
聴覚情報:38%
視覚情報:55%

この結果が意味するところを例を上げて説明します。

(例1)

「悲しい…」と(言葉)
語尾が消え入るような声で(聴覚情報)
涙を浮かべて少しうつむいて(視覚情報)

つぶやきました。

この例では、言葉・口調(聴覚情報)・表情(視覚情報)の3つすべてが悲しみを表現しています。このように3つの要素が一致しているとき、悲しい気持ちは正確に伝わります。

(例2)

「悲しいの!」と(言葉)
強い口調で(聴覚情報)
目をつり上げて(視覚情報)

言いました。

この例では、言葉そのものは悲しみを表現していますが、口調(聴覚情報)と表情(視覚情報)は怒りを表現しています。このような場合、聞き手は話し手が怒っていると受け取ります。言葉そのものより、聴覚情報と視覚情報の影響が大きいからです。

『私メッセージ』で適切な言葉で「悲しみ」を口にしても、声と表情に明らかに「怒り」が見えると、「悲しみ」が伝わりにくくなります。

【4】やっかいな「怒り」

傷つきや悲しみなどの気持ちは、積み重なると怒りに形を変えます。怒りを向けられた相手は自分を守ろうとします。例えば、(1)その場を収めるために謝罪の言葉を口にする。(2)話し合いを避ける。(3)怒りに怒りで対抗する。などなどです。

相手のその反応は、怒りに油を注ぎます。ヒートアップして、言い争いが何時間も続く夫婦もあります。そこまでいくと、ケンカのきっかけは忘れ去られています。互いに人格を否定したり、酷い場合は暴力が振るわれたりします。

強い怒りを感じたときにすべきことは、怒りを冷ますことだけです。話し合いは中断するのが望ましいです。時間と場所を変えて、落ちついて話せる状態で再開するのが望ましいです。

怒りそのものの対処は、冷静なときに取り組みます。次回は怒りの対処についてです。

【5】まとめ

  • 私を主語にして話す(私メッセージ)と相手は受け取りやすく理解を得やすい。
  • 言葉そのものと非言語情報(表情や口調など)が一致しない場合、相手は非言語情報を受け取る。
  • 強い怒りを感じたときは話し合いを避ける。怒りそのものの対処は冷静なときに。

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