夫婦のコミュニケーションのカウンセリング

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

夫婦コミュニケーションのカウンセリング

夫婦関係の悪化は多くの場合、コミュニケーションのすれ違いから始まります。コミュニケーションは単なる会話ではなく、お互いの気持ちや考えを理解し合い、信頼関係を築くための大切な手段です。

しかし、日常生活の忙しさや小さな誤解が積み重なることで、次第に会話が減り、感情を伝えることすら難しくなってしまうことがあります。

このページでは、夫婦間のよくあるコミュニケーションの問題やその背景にあるパターンを解説し、具体的な改善方法やカウンセリングでのアプローチについてご紹介します。

相手を理解し、自分自身とも向き合うことで、二人の関係は少しずつ変わり始めます。共に良いコミュニケーションを築き直し、安心できる夫婦関係を取り戻すための第一歩を踏み出しましょう。

夫婦コミュニケーションの問題

コミュニケーションのスレ違いや誤解は、どの夫婦にも起こり得るものです。むしろ、起こらない夫婦の方がめずらしいでしょう。一つひとつは小さなものであっても、積み重なることで大きな溝になることがあります。

よく見られるコミュニケーションの問題

以下は、よく見られる夫婦コミュニケーションの問題です。

  • 会話が噛み合わない
    • お互いに言いたいことを伝えているつもりでも、相手にはうまく伝わっていないことがあります。例えば、一方が感情を共有したいと思っているのに、もう一方は解決策を提示しようとするなど、会話の目的がずれていることが原因になることもあります。
  • 喧嘩が絶えない
    • 小さな意見の食い違いが繰り返されることで、感情的な衝突が増えてしまいます。些細なきっかけから大きな口論に発展し、冷静に話し合うことがむずかしくなることもあります。
  • 距離を置くようになる
    • 会話をしても喧嘩になる、意見がすれ違う、といった経験が続くと、徐々にコミュニケーション自体を避けるようになってしまいます。すると、物理的にも心理的にも距離が広がってしまいます。
  • 気持ちをため込む
    • 自分の気持ちや考えを伝えられないまま我慢し続けると、不満や孤独感が蓄積されていきます。その結果、ある時突然感情が爆発してしまったり、相手への信頼感が薄れてしまったりすることがあります。

これらの問題は、どれか一つだけが単独で起きることもあれば、連鎖的に引き起こされることもあります。例えば、「会話が噛み合わない」ことが続くと、「喧嘩が絶えない」状態になり、やがて「距離を置くようになる」「気持ちをため込む」といったケースです。

コミュニケーション悪化の原因

良いコミュニケーションを阻む原因には、次のようなものがあります。

  • 会話の目的のズレ
    • 一方は話を「聞いて」ほしい、もう一方は「解決策」を示そうとしている。
    • 一方は「今」の話を、もう一方は「過去」の話をしている。
  • 感情をコントロールできない
    • 感情をぶつけ合っているだけで話し合いになっていない。
    • 感情表現が強すぎて伝えたいことが表現されていない。
  • コミュニケーションを避けている
    • うまく話し合えた経験がなくコミュニケーションをあきらめている。
    • これ以上不快な気持ちになるなら何もしないほうがマシ。

解決の努力が問題を維持する悪循環

私たちは、問題が起こると解決を試みます。その解決の試みが、問題を維持してしまうことがあります。家族心理学では「偽解決」といいます。偽りの解決とは、うまく言ったものです。

以下の図は偽解決の例です。

子どもが生まれたばかりの夫婦をイメージして下さい。妻は夫に家事・育児に参加してほしいのですが、夫は仕事が多忙で妻の要望に応えられません。

解決努力が問題を維持する悪循環図
  • 一人では家事・育児が回らない(問題発生)
  • 妻「たまには早く帰ってきて」(解決努力)
  • 夫「繁忙期だから無理」(自己防衛)
  • 妻「考えるくらいして!」(解決努力)
  • 夫「毎日この話ばかり」(不快感と自己防衛)
  • 妻「あなたはいつもそう!」
  • 夫「君も同じ!」
  • 最初に戻る

夫婦カウンセリングの目的は、このような悪循環を良循環に変えるお手伝いと言っても過言ではありません。

コミュニケーションは関係を育む土台です。セックスレス不倫・浮気となど夫婦の問題には、背景にコミュニケーションの問題があるケースが少なくありません。

それでは、良いコミュニケーションとは具体的にどのような状態を指すのでしょうか。

良いコミュニケーションとは

夫婦関係における「良いコミュニケーション」とは、単にたくさん会話をすることや意見が一致することだけを意味するわけではありません。

大切なのは、お互いの気持ちや考えが「伝わり」「受け取られ」「理解される」ことです。コミュニケーションは相互作用であり、相手と自分、双方がそのやり取りに満足感や安心感を得られる状態が理想です。

良いコミュニケーションに見られる要素

良いコミュニケーションには少なくとも以下の3つが見られます。

  • パートナーを理解しようとする姿勢
    • 相手の気持ちや考えを理解しようとする姿勢です。自分の意見を言わないのではありません。自分の意見も相手の意見も尊重します。相手の言葉や態度の背景にある感情や考えにも耳を傾けることが大切です。
  • 共感的に理解する
    • 相手の立場や気持ちに寄り添い、相手の立場になれば「そのような気持ちになるのは理解できるよ」と受け止めることで安心感が生まれます。共感は必ずしも「同意」ではなく、相手を「理解しようとする姿勢」です。
  • 効果的な情報伝達
    • あいまいな言葉や態度は誤解の元です。相手に察することを求めるのではなく、自分の気持ちや考えをできるだけ具体的かつシンプルに伝えます。それが誤解を減らし、すれ違いを防ぎます。

折り合いをつけて着地する

夫婦といえども別人格です。意見や考え方が違うのは当然のことです。大切なのは、違いをなくすことではありません。違いがあることを前提に、違いを受け入れた上で、折り合いをつけることです。

私がカウンセリングでよく口にするのは、「お互いが折り合える地点への着地を目指しましょう」「着地する話し合いができる関係を作りましょう」です。

お互いの違いを尊重し、理解し合える関係が築ければ、多少のすれ違いや意見の食い違いがあっても、それを乗り越える力が生まれます。

悪循環を良循環に変えるカウンセリング

カウンセリングでは、カウンセラーが触媒(お互いの気持ちや考えを引き出し、関係がスムーズに動き出すきっかけ)となって、悪循環を良循環に変えるサポートを行います。

上記の例であれば、以下のようなコミュニケーションが取れるようにサポートするかもしれません。

  • 一人では家事・育児が回らない(問題発生)
  • 「たまには早く帰ってきて」(解決努力)
    • 「回らないので助けてほしい」
  • 「繁忙期だから無理」(自己防衛)
    • 「初めての育児で大変なのにがんばってくれて感謝している」
  • 「考えるくらいして!」(解決努力)
    • 「わかってくれているのは良かったけど、それでもつらい」
  • 「毎日この話ばかり」(不快感と自己防衛)
    • 「今度の休日にしっかり話し合い考えよう
  • 「あなたはいつもそう!」
    • 「わかった」

もちろん、これで解決するわけではなく、最初のステップに踏み出す準備ができたに過ぎません。しかし、一度にすべてを解決するのは困難です。まずは、解決に一緒に向かう態勢を整えることです。

態勢を整えて、実際に一歩ずつ進んでいく2人をサポートするのがカウンセリングです。興味を持たれた方は、一度お試し下さい。

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