【夫婦喧嘩】過去を蒸し返す原因と対処

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

夫婦喧嘩のイメージ

会話の最中に過去の話を持ち出されて、話がややこしくなる(関西弁で「複雑になる」「混乱する」の意)のは、夫婦喧嘩でしばしば起きることです。

あるテーマについて対話しているときに、一方が過去の話を持ち出して、すると他方が新たな過去の話を持ち出して、さらに一方が…と繰り返されて、最初の話はどこへやら、ということもあります。

出来事そのものは過去だけど、そのときの感情や感覚が過去のものにならず、現在も心の中でモヤモヤが残っている事柄(以降「未完了の感情」と表記)がある状態に起きやすくなります。

例えば、姑に酷いことを言われたのに守ってくれなかった。仕事を否定された。人格を否定された。それらのことについてごめんなさいの一言が未だにない。など、過去の傷つき体験が未完了のまま残っているときに、過去の話を持ち出されることが起きやすいです。

また、不倫・浮気の発覚後は激しくなることが多いです。これは、これ以上傷つかないための安全確認の機能を果たしていることがあります。何度も確認しないと、心の整理が進まないといった面もあります。

不倫・浮気による心の傷については、以下のページをご覧下さい。

過去の蒸し返しによって起こること

過去の蒸し返しで起こる問題は主に以下の2つです。

  1. 現在のテーマに集中できない
  2. 問題が複雑になる

現在のテーマに集中できない

過去の話を持ち込まれることで、今したい話ができなくなります。

妻

長女の中学受験について、そろそろ考えたいと思うの

夫

長男のとき、君は僕の意見を聞かずに塾に通わせたよね

妻

あなたは忙しいと言って相談する時間を取ってくれなかったじゃない

夫

いや、時間を作ろうとしなかったのは君だよ

この場面だけを切り取って、過去の話を持ち出す夫が悪いと言い切るのは少々乱暴です。夫にも言い分があるでしょう。お互いが言い分をしっかり主張できて、お互いの主張が受け止められる機会が必要です。

問題が複雑になる

話が散らかって、ややこしく(複雑になる、混乱する)なります。

妻

結婚式の費用の分担について相談したい

夫

婚約指輪、君の両親から「安物を選んだ」と言われて傷ついたよ。うちの両親も不快に思ってる

妻

その話はもう済んだと思ってた。両親にも謝ってもらったでしょ。あなたが両親に話しているとは思わなかった

夫

お互いの両親との関わり方を考えないとね

極端な場合、話し合いが深夜に及んだけれど何も決着しない、そもそも何を話していたのだろう、ということがあります。

他の問題を引き起こすことも

このようなコミュニケーションが新たな問題を引き起こすこともあります。例えば、セックスレスです。

「パートナーに性欲を感じなくなった」
「パートナーからレスの不満を訴えられる」
「しかし、自分でも原因がわからない」

パートナーに対する小さな不満の積み重ねが、パートナーに性欲を感じなくさせることがあります。セックスレスは問題ではなく、問題の結果として起こることがしばしばあります。

参考ページセックスレスの悩み

過去を蒸し返す原因

  • 未完了(納得できずに今も心の中でモヤモヤが残っている)の感情
    • 未完了の感情は、大きな出来事によるものに限りません。日々の小さな傷つきの積み重ねによるものもあります。
    • 何度訴えてもスルーされ続けると、訴えることをあきらめて、未完了を積み重ねることになります。ガマンの限界で怒りをもって訴えると、「言ってくれたら良かったのに」と返されて、怒りを逆撫でされることもめずらしくありません。
    • 相手に察することを求める人は、察してくれない不満を未完了の感情として積み重ねることがあります。パートナーの察する努力だけに頼るのではなく、自分から伝える努力も必要です。
  • 不倫・浮気によるもの
  • 抗議として
    • パートナーが自分に要求するのに、パートナーは同じことを実行しない場合、抗議として「前にそう言ったよね」と過去の話をすることがあります。
    • 過去と現在の主張が矛盾しているとき、抗議の意思として「前にそう言ったよね」と過去の話をすることがあります。
  • コミュニケーションスタイル
    • 過去の出来事を持ち出すことが、今の自分の気持ちを伝える方法として習慣化されていることがあります。「あなたはいつもこうだった」と過去の例をあげることで、現在の不満を強調しようとするパターンです。
    • 「いつも、あなたは○○」「あなたは、○○する人」のような言葉は、レッテル貼り、人格否定につながります。そのような言葉を使いながら良いコミュニケーションはできません。今の気持ちを伝えるコミュニケーションに変えることが求められます。
  • 自分を守るために話題を変える
    • 直面している問題から目をそらすために、過去の話題を持ち出すことがあります。自分に都合の悪い状況を回避するため、相手の過去の過ちを指摘することで、注意をそらそうとします。

どのように対処するか:対話と共感

過去を蒸し返してしまう主な原因は未完了の感情にあります。相手に伝えられなかった気持ち、十分に受け止めてもらえなかった感情、そして日々の小さな傷つきの積み重ねによるものです。

対処法は、しっかり話し合って完了させることです。キーワードは「対話」と「共感」です。

対話

「対話」とは、お互いの気持ちを言葉にして伝え合うことです。

相手に察することを求めるのではなく、自分の気持ちを言葉にする努力が必要です。同時に、相手の話に耳を傾け、相手が何を感じているのかを知ろうとする姿勢も大切です。

共感

「共感」とは、相手の気持ちを受け止めて理解することです。

「そう感じるのを理解できる」「そう思うとつらいね」などの言葉で相手の感情を受け止めます。同じ気持ちになる必要はありません。「(私はそう思わないけれど、あなたの立場になれば)そう感じるのを理解できる」という要領です。

相手の気持ちを否定したり、解決策を提案したりしないことが大切です。まずは、相手の気持ちをそのまま受け止めることに専念します。

カウンセリングのすすめ

「話し合いを試みても毎回衝突してしまう」「話をしない方がマシ」「しかし、この状態が続くのはつらい」といった状況のある夫婦・カップルには、カウンセリングを強くおすすめします。

カウンセラーが2人の対話に参加することで、これまでできなかった相互理解が可能になります。カウンセラーとパートナーの対話を観察することで、何をどのように変えれば良いのかが見えてきます。

以下は夫婦コミュニケーションに関するコラムです。自分たちだけで何とかしたいと希望される方は参考にしていただければと思います。

タイトルとURLをコピーしました