「みんな」が悪化させる夫婦・カップル関係

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

「みんながそう言っている」の圧力

「みんなが言っている」「みんながそうしている」 

夫婦・カップルの会話で、こんな言葉を使ったことはありませんか?

例えば、職場で特定の人の言動に多くの人が困っているとき、「みんなが困っているから改善してほしい」と伝えるのは、ある程度適切な伝え方と言えるでしょう。実際に多くの人が同じ問題を感じている事実があるからです。

しかし、夫婦・カップルの話し合いでは、この「みんな」という言葉が思わぬ悪影響を与えることがあります。

夫婦・カップル関係では、職場とは異なり、お互いの気持ちや考えを直接伝え合い、二人で解決策を考えることが大切です。

それなのに、「みんながそう言っている」と相手に迫ると、相手は「誰が言っているの?」「みんなって誰?」と不信感を抱くかもしれません。

夫婦・カップル関係は、他の人の意見や世間一般の基準に合わせるのではなく、お互いの考えや価値観を大切にすることが重要です。

以下のページから始まる「関係を育てるコミュニケーション」のシリーズも参考にして下さい。

参考ページ【仲が良い ≠ 関係が良い】親密さと関係を育てるコミュニケーション(1)

「みんな」を使うことで起きる問題

「みんな」を使うことによって起こりうる問題をあげていきます。これらは夫婦関係に限ったことではありません。人間関係全般において起こりうるものです。

責任の所在があいまいになる

「みんながそう思っている」と言われると、誰がそう思っているのかがわかりません。これは、発言者自身の意見なのか、本当に多くの人がそう感じているのか、区別がつかないためです。

責任の所在をあいまいにするために意図的に「みんな」が使われることもあります。

夫婦の会話では、相手は「結局誰の意見なのか」と不安になり、話がかみ合わなくなることがあります。

事実が歪められる

「みんな」という言葉は、実際には一部の意見であっても、あたかも全員がそう考えているかのように思わせてしまう力があります。

特にSNSなどでは、ごく一部の意見が「みんな」の意見として拡散され、真実がゆがめられることもあります。

少しの意見でも「みんな」と言うことで信頼性が下がってしまうこともあります。

プレッシャーになり反論しにくくなる

「みんながそう思っている」と言われると、相手は「みんなに逆らったら悪いかも」と感じて、意見を言いにくくなることがあります。

特に、結婚生活のことは他人に相談しにくいと感じる人も多いため、夫婦間の話し合いがうまくいかない場合でも、誰にも相談できず、気持ちを抱え込んでしまうことがあります。

また、「みんながそう言ってる」という言葉がプレッシャーとなり、相手は本音を言いにくくなってしまうこともあります。

具体的な話し合いができない

「みんな」は、誰が、なぜ、どう思っているのかが伝わりません。そのため、いざ詳しく話し合おうとしても、あいまいなままで止まってしまいます。

信頼を失ったり反発を招く

後で「みんな」が実はごく一部の意見だったとわかると、相手の信頼を失いかねません。また、「みんなが言ってるんだから正しい」という一方的な押し付けも、反発を招きます。

エコーチェンバー現象:SNSの罠

エコーチェンバー現象とは、自分と同じ考えを持つ人の意見ばかりが目に入り、違う意見や多様な考えが見えにくくなる現象です。

SNSのアルゴリズムは、自分に都合の良い情報を優先的に表示する仕組みになっているため、「みんな」と思っていたことが、実は特定の限られた意見にすぎなかった、ということが起こりやすくなっています。

このように、エコーチェンバー現象の影響を受けた「みんな」は、実際の世間一般の意見とは大きくずれている可能性もあります。

夫婦間の会話にこの「みんな」を持ち込むと、相手に「そんなの聞いたことがない」と反発されることもあります。

「みんな」と思い込む前に、情報の出どころや偏りを確認することが大切です。

「常識」という言葉が与える影響

「みんな」と同じように、「常識」という言葉も夫婦関係や人間関係に悪影響を与えることがあります。

「それは常識でしょ」と言われると、相手は自分の考えを否定されたように感じたり、「非常識な人」と決めつけられたように受け取ることがあります。

例えば、「親しき仲にも礼儀ありが常識でしょ」と伝える場合でも、「私はこう思う」と伝えるのではなく、「あなたは常識を知らない」と言われているように感じてしまう可能性があります。

あえて強い言葉で表現すると、「人格否定」されていると受け取られることもあります。

「常識」は人によって違いがあり、育ってきた環境や価値観によって大きく変わるものです。夫婦間では、お互いの価値観や考えを確認し合うことが大切で、安易に「常識」という言葉で片付けないことです。

「みんな」を用いないコミュニケーション

「みんな」や「常識」といった言葉が与える影響を踏まえて、それらに変わる表現を提案します。

主語を「私」にするなど、多くの人が既に知っていることで目新しいことはないと思います。当たり前のことを当たり前に行うことが大切であり、それがとてもむずかしいことを示しているのかもしれません。

主語を「私」にする

「みんな」や「常識」に頼らず、自分の気持ちを「私」を主語にして伝えましょう。

例:「私はこう思う」「私はこうしてくれると嬉しい」

主語を「私」にすると、相手は自分の考えを持ちながらも、あなたの考えを聞き入れやすくなります。

参考ページ【アイメッセージ】親密さと関係を育てるコミュニケーション(2)

主語を「私たち」にして、夫婦として問題を考える

「みんな」ではなく、「私たち」という表現を使うことで、問題を夫婦の共通の課題として捉えやすくなります。

例:「私たちはこれからどうしていく?」

互いの気持ちを聞く時間を大切にする

互いの気持ちを聞く時間を作ることで、考えが異なった理由や、それぞれの背景を理解するきっかけになります。

「そのことについてどう思う?」と聞く姿勢が、夫婦の信頼関係を保つ基盤になります。

参考ページ【話し合いの仕組み作り】親密さと関係を育てるコミュニケーション(7)

正しい情報を夫婦で共有する

SNSで見た情報や、他の人の意見をそのまま受け取るのではなく、事実を確かめたり、事情を調べながら夫婦で共有することが大切です。

例:「こんな情報を見たけれど、私たちの場合はどうか考えてみよう」

「みんな」や「常識」を使う前に、一度自分の考えを振り返る

「常識的にはこうだけれど、私たちにはこれが合っている」といったように、一般論にすぐに依存せず、夫婦としての個別性や先の見通しを大切にすると、安心して会話できる関係になります。

参考ページ【自分自身との対話】親密さと関係を育てるコミュニケーション(3)

互いの考えを安易に否定したり、気持ちを無視することなく、正しい情報と相手の気持ちを組み合わせながら、夫婦で一緒に考える姿勢を大切にしていきましょう。

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