アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

家事・育児は女性の仕事、男が涙を見せてはいけない

個人が無意識に持っている偏見や先入観のことを、アンコンシャスバイアスといいます。日本語訳は「無意識の偏見」「無自覚の差別」です。人間関係において、このバイアスがすれ違いや誤解を生むことがあります。このバイアスが、不倫・浮気の背景にあることもあります。

アンコンシャスバイアスとは

アンコンシャスバイアスとは、無意識のうちに形成される偏見先入観のことを指します。これらのバイアスは、私たちが意識的に認識していないため、自分自身が持っていることに気づきにくいものです。

しかし、これらの無意識の偏見は、私たちの行動意思決定に大きな影響を与えます。例えば、ある特定の人々に対して持っている無意識の先入観が、彼らとの関係やコミュニケーションに影響を及ぼすことがあります。

アンコンシャスバイアスの一般的な例

アンコンシャスバイアスの例としては、以下のようなものがあります。

  • 性別に関するバイアス:「男性はリーダーシップに向いている」「女性は感情的だ」といった無意識の先入観。
  • 年齢に関するバイアス:「若い人は経験が足りない」「高齢者は技術に疎い」といった考え。
  • 人種や民族に関するバイアス:特定の人種や民族に対して持っている無意識のイメージやステレオタイプ。
  • 職業に関するバイアス:ある職業に対して持っている先入観や固定観念。

これらのバイアスは、日常のさまざまな場面で私たちの判断や行動に影響を与えます。

日常生活におけるアンコンシャスバイアスの影響

アンコンシャスバイアスは、日常生活の中でさまざまな形で現れます。例えば、以下のような場面で影響を及ぼします。

  • 職場での評価や昇進:無意識のうちに性別や年齢、人種による偏見が評価や昇進の決定に影響を与えることがあります。
  • 教育の場面:教師が無意識のうちに特定の学生に対して持っている期待や偏見が、教育方法や評価に影響を及ぼすことがあります。
  • 家庭での役割分担:伝統的な性別役割に基づくバイアスが、家事や育児の分担に影響を与えることがあります。
  • 日常の人間関係:無意識のバイアスが、友人や家族、パートナーとのコミュニケーションや関係に影響を及ぼすことがあります。

これらのバイアスが原因で、誤解や摩擦が生じることがあり、その結果として関係が悪化することもあります。特に夫婦関係においては、無意識のバイアスが原因で不満や誤解が積み重なると、深刻な問題に発展することがあります。

アンコンシャスバイアスは、私たちが無意識のうちに持っている偏見や先入観であり、日常生活のさまざまな場面で影響を及ぼします。これらのバイアスに気づき、対処することが、健全な人間関係の構築につながります。夫婦関係においても同様です。

アンコンシャスバイアスはどのようにして形成されるのか

男が人前で涙を見せるのはみっともない
男は人前で涙を見せるべきではない(男性に対するアンコンシャスバイアス)

アンコンシャスバイアスの形成は、社会的・文化的背景の影響、家庭環境や教育の影響、メディアの影響を受けています。

社会的・文化的背景の影響

アンコンシャスバイアスは、私たちが成長する過程で経験する社会的・文化的背景から大きな影響を受けます。

社会や文化は、特定の価値観や信念を私たちに植え付けるため、それが無意識のうちに偏見となって現れることがあります。例えば、伝統的な性別役割や人種に対するステレオタイプは、社会全体が共有する価値観や信念に基づいています。

  • 性別役割の固定観念:多くの社会では、男性は働いて家計を支えるべきであり、女性は家庭を守るべきだという固定観念が存在します。このようなバイアスは、無意識のうちに私たちの行動や期待に影響を与えます。
  • 人種や民族に関するステレオタイプ:特定の人種や民族に対するポジティブまたはネガティブなイメージが、無意識のバイアスを形成することがあります。例えば、ある人種の人々は勤勉だが、他の人種の人々は怠惰だというステレオタイプは、社会全体が共有する偏見に基づいています。

家庭環境や教育の影響

家庭環境や教育も、アンコンシャスバイアスの形成に影響します。親や教師の態度や言動、教育方針が、子どもの無意識の偏見を形成する要因となり得ます。

  • 親の影響:子どもは親の言動を観察し、それを模倣することで成長します。親が特定の性別や人種に対して偏見を持っている場合、その影響は子供にも及びます。例えば、親が「男性は強くあるべきだ」と言い続けると、子どももその考えを無意識に受け入れるようになります。
  • 教育の影響:学校や教育機関でも、教師の態度や教育方針が子どものバイアス形成に影響を与えます。例えば、教師が男子生徒に対しては厳しく、女子生徒には優しい態度を取る場合、子どもたちは性別によって異なる期待を持つようになります。

メディアの影響

メディアは、アンコンシャスバイアスの形成において非常に強力な影響力を持っています。テレビ、映画、インターネット、ソーシャルメディアなどから流れる情報が、無意識のうちに私たちの偏見や先入観を形作ります。

  • メディアの再現:メディアはしばしば特定の性別、人種、職業に対するステレオタイプを強調して描写します。例えば、犯罪ドラマで特定の人種が犯人役として多く描かれると、その人種に対する偏見が強化されます。
  • インターネットとソーシャルメディア:インターネットやソーシャルメディアでは、アルゴリズムによって似たような考え方や価値観を持つ情報が提供されがちです。これにより、自分の偏見が確認され、強化されることがあります。

アンコンシャスバイアスは、私たちが成長する過程で経験する社会的・文化的背景、家庭環境、教育、そしてメディアの影響を通じて形成されます。これらの無意識の偏見を理解し、それがどのようにして形成されるのかを知ることは、自らのバイアスへの気づきをもたらします。特に夫婦関係においては、互いのバイアスを理解し、乗り越える努力が、より良い関係を育みます。

アンコンシャスバイアスの影響例

家事・育児は女性がやるべき
家事・育児は女性がやるべき(女性に対するアンコンシャスバイアス)

アンコンシャスバイアスによる影響にはどのようなものがあるのか。例をいくつか紹介します。

ジェンダーバイアス

【ジェンダーバイアス】
社会的性別(社会的・文化的に構築された性別の役割や期待)に基づく偏見や先入観。

令和6年6月17日放映の「NHKクローズアップ現代」のテーマは、「女性たちが去っていく 地方創生10年と女性流出・政策と現実のギャップ」でした。

番組では、地方創生10年の政策と現実のギャップ、特に若年女性の地方から首都圏への流出に焦点を当てています。

自治体が実施したのは、結婚・出産・育児の希望をかなえるという政策でした。しかし、結婚以前に若年女性が首都圏に流出しています。

地方を出た女性たちから聞かれるのは、「働きがいがある仕事につきたい」「結婚や出産に干渉しないでほしい」「地域での役割を押しつけないでほしい」という声です。

ミスマッチです。多くの地域で起きていると予想されます。

『女性たちが去っていく 地方創生10年と女性流出・政策と現実のギャップ – NHK クローズアップ現代 全記録』より引用

「働きがいがある仕事につきたい」「結婚や出産に干渉しないでほしい」「地域での役割を押しつけないでほしい」の女性の声は、まさにジェンダーバイアス(アンコンシャスバイアス)です。

具体的な声をいくつか紹介します。

「地区の行事では女性陣が絶対台所に近い席に座っているんですよね。男の人たちは絶対動かなくていい席に座りっぱなしで。お母さんからずっと『女性は気が利く人間にならないとダメだよ』と言われて育ってきたので、将来生きづらいなって」

地方を去る女性たち・・・ なぜ地元に戻らない?女性流出 本音を聞いてみた – クローズアップ現代 取材ノート – NHK みんなでプラス

「東京に就職するって親とか親戚に言った時にやんわり反対されたんですよね。東京は仕事をバリバリやっていくイメージがあるので、私はそれを望んでいたんですけど、『女はそんなに一生懸命働かなくていいよ。それよりはいい人見つけて早く結婚して』と言われました」

地方を去る女性たち・・・ なぜ地元に戻らない?女性流出 本音を聞いてみた – クローズアップ現代 取材ノート – NHK みんなでプラス

「地域の人たちで集まってバーベキューする機会がありました。女の人が料理をよそったりビールついだりしている一方で、男の人はしゃべって食べている。私も将来こんなことしなきゃいけないのかな、嫌だなって」

女性たちが去っていく 地方創生10年と女性流出・政策と現実のギャップ – NHK クローズアップ現代 全記録

その地域の男性にとっては、上記は役割分担であり、不平等と認識していないと思います。それは、地域の文化的背景によるものであり、世代を渡って受け継がれてきたものだからです。それだけに、変化には時間がかかると思います。しかし、個人レベルなら比較的容易なはずです。

多くの研究や報告によると、ジェンダーに関するアンコンシャスバイアスは、歴史的・社会的な背景から、特に女性に対して不利に働くことが多いとされています。一方で、男性に対するアンコンシャスバイアスも存在し、それが男性に特有のプレッシャーや不利益をもたらすこともあります。

この章の最初に申し上げた通り、カウンセラーとしての私は、女性の立場にも、男性の立場にも偏らず、中立を保つことを常に心がけています。

職場でのアンコンシャスバイアスの影響例

職場におけるアンコンシャスバイアスは、従業員の評価や昇進、採用に大きな影響を与えることがあります。例えば、性別に基づくバイアスが、女性が管理職に昇進する機会を減少させる原因となることがあります。

また、年齢に対するバイアスが、若い社員や高齢の社員が公正に評価されない状況を生むこともあります。これにより、優秀な人材が適切に評価されず、企業のパフォーマンスが低下する可能性があります。

同じ業績を上げた男性と女性の社員に対して、男性がより高い評価を受けていた例があります。このような無意識のバイアスが組織全体に広がると、多様性の欠如や不公平な職場環境が生まれます。

教育現場でのアンコンシャスバイアスの影響例

教育現場でも、アンコンシャスバイアスが生徒の学習機会や評価に影響を与えることがあります。

例えば、教師が無意識のうちに男子生徒には理数系の科目で高い期待を持ち、女子生徒には文系の科目で高い期待を持つことがあります。このようなバイアスは、生徒の自己認識や学習意欲に影響を与え、将来の進路選択にまで影響を及ぼすことがあります。

ある研究によれば、教師が生徒の性別や人種に基づいて異なる期待を持つと、その期待が生徒の成績や自己評価に反映されることが示されています(ピグマリオン効果)。これにより、生徒は自分の能力を過小評価し、本来の可能性を発揮できないことがあります。

ピグマリオン効果】
他人が自分に対して持つ期待が、その人の行動やパフォーマンスに影響を与える現象。例えば、教師がある生徒に対して高い期待を持つと、その生徒は実際に成績が向上しやすくなるという現象。

【ゴーレム効果】
他人が自分に対して低い期待を持つと、その人の行動やパフォーマンスが実際に悪化する現象。例えば、教師がある生徒に対して「この生徒は成績が悪い」という認識と態度で接すると、その生徒の成績がさらに悪化する。

夫婦関係における影響例

ジェンダーバイアスは、夫婦関係にも影響を与えます。例えば、伝統的な性別役割に基づくバイアスです。夫が「家事・育児は妻の仕事」の考えを持ち、妻が「キャリアと家庭を両立させたい」の考えを持っている場合、事前に価値観をすり合わせて、家庭をどのように運営するかを話し合う必要があります。

日本では、女性と比較して男性のほうが、不倫・浮気に対して寛容な傾向があります。このアンコンシャスバイアスが不倫・浮気の背景にあり、不幸にも不倫・浮気が起きたとき、再構築の障害になることがあります。

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アンコンシャスバイアスの悪影響に対処するには

「アンコンシャスバイアスが存在するはずだ」の前提に立ち、意識的に対処することで、バイアスの影響を軽減することが可能です。アンコンシャスバイアスは、「普通〜だ」「〜するべきだ」のような形で表現されることが多いです。そのような思考、発言は自ら気づくきっかけの一つです。

アンコンシャスバイアスの影響を軽減するためには、まずは、その存在に気づくことです。そして、自分が持つ偏見や先入観を認めることです。

自己認識の方法

  • 日記:日記やメモをつけ、自分の考えや感じたことを書き出すことで、無意識のバイアスに気づく手助けになります。特に、特定の状況や人々に対する感情や反応を書き留めると、その背後にあるバイアスを発見しやすくなります。
  • 振り返り:日常生活の出来事や対人関係を振り返り、どのようなバイアスが働いたかを考える機会を持つことも有効です。例えば、誰かと意見が対立した場合、その理由や背景に無意識の偏見があったかどうかを自問します。
  • 他者からのフィードバック:信頼できる友人や同僚、家族に、自分の行動や発言についてフィードバックを求めることも有効です。他者の視点を通じて、自分では気づかないバイアスに気づくことができます。

日常に取り入れられる対処法

  • 多様な視点を学ぶ:本や映画、ドキュメンタリーなど、さまざまな文化や背景を持つ人々の視点を学ぶことで、自分のバイアスに気づきやすくなります。また、多様な意見を聞くことも、偏見を減らす助けになります。
  • 判断の前に立ち止まる、もしくは後で振り返る:判断を下す前に一度立ち止まり、自分の考えや感情がどのように形成されたかを考えます。もしくは後で、その考えや感情がどのように形成されたか振り返ります。
  • バイアスチェックリストの活用:チェックリストを活用することも効果的です。以下のリンク先でチェックリストを入手できます。「これもバイアスなの!?」という体験ができると思います。

夫婦関係に影響を及ぼすアンコンシャスバイアスへの対処

夫婦関係に影響を及ぼすアンコンシャスバイアスには、性別役割、家事・育児、経済的役割、感情表現に関するものがあります。

夫婦関係において、アンコンシャスバイアスに対する特別な対処法はありません。コミュニケーションが基本です。コミュニケーションを扱った投稿は以下です。参考になれば幸いです。

夫婦のコミュニケーション改善のサポートを得意としています。詳しくは以下のページをご覧下さい。

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