感情を伝えるには:夫婦の理解を深める対話

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

パートナーにサークルの同窓会に行ってほしくない
パートナーにサークルの同窓会に行ってほしくない

パートナーに大学同窓会の参加を嫌がられる。「なぜ?」と聞くと、「嫌だから」。「なぜ、嫌なの?」と聞くと、「どうして参加する必要があるのか理解できない」。嫌な気持ちも理解できるけど、嫌と言われるだけでは受け入れられない。

感情的な会話になりがち

冒頭の例はサークルの同窓会でしたが、会社の懇親会、友人たちの飲み会などの機会があります。サークルの同窓会だと、そこに元彼、元カノがいることもあり、更に状況をむずかしくします。

このような会話に見られるのは、同じ言葉を繰り返すことにより、お互いにイライラしてきて、喧嘩になってしまうことです。「何度言わせるの!」「嫌を繰り返されてもわからない!」というパターンです。

このような状況で行われている会話は、例えば以下のようなものです。

  • 夫:「来週、大学時代の同窓会があるんだ。参加しようと思うんだけど」
  • 妻:「嫌よ。行かないで」
  • 夫:「なんで? 久しぶりなのに」
  • 妻:「だって嫌なの!」
  • 夫:「なんで、嫌なの?」
  • 妻:「あなたの気持ちがわからない!」
  • 夫:「君こそ、なぜ嫌なのか説明してよ!」

「内容より感情をぶつけられる会話が苦痛です」と訴えられるケースはめずらしくありません。

感情的になる理由

パートナーの不快感は、多くの人が何となく理解できると思います。しかし、「嫌」の一言で済まされること、ちゃんと説明されないこと、感情をぶつけられることで、一方的すぎると不快になります。

感情的になる理由として考えられるのは以下の悪循環です。

  • 気持ちを「嫌」としか表現できない
  • 「嫌」だけでは伝わらない、受け入れられない
  • 伝わらない、受け入れられない苛立ちが生じる
  • 苛立ちを込めて「嫌」と伝える
  • パートナーが苛立ち、更に受け入れられない
  • 更に苛立ちを込めて「嫌」と伝える
  • 以下繰り返し

お互い疲れてしまいそうです。

「嫌」を別の言葉で表現すると

「嫌」で訴える気持ちを推測すると、以下のようなものがあげられます。

  • 【嫉妬・不安】パートナーが他の異性に関心を持つのではないかという不安
  • 【信頼の不足】過去のパートナーの言動からくる不安や疑念
  • 【自信のなさ】パートナーが魅力的ではない自分より他を選ぶかもしれない
  • 【独占欲】パートナーを自分だけのものにしたい強い欲求
  • 【過去のトラウマ】以前の関係での不快な経験や裏切りの経験
  • 【文化的・社会的背景】育った家庭や環境による価値観や規範の影響

二人の関係性や歴史にもよりますが、多少の嫉妬や不安が生じるのはもっともなことだと思います。ただし、程度の問題でもあります。

なぜ「嫌」としか言えないのか

「嫌」という表現になるのは、理由を適切に表現できないことがあるようです。もっとも、自分の気持ちを適切に表現するのは、案外むずかしいものです。だからこそ、認知行動療法には、認知再構成法と呼ぶ自分の気持ちを言語化する技法があります。この技法は後ほど紹介します。

「嫌」という表現になってしまうのは以下の要因が考えられます。

  • 【感情の自覚のむずかしさ】自分の感情を認識するのは、案外むずかしいものです
  • 【弱さを見せたくない】自分の弱さを見せたくない
  • 【コミュニケーションスキルの不足】感情を適切に言語化する能力の不足
  • 【感情のコントロールが苦手】思考より感情が先行してしまう
  • 【議論の回避】議論を避けたい気持ちが強い

次に改善策を検討します。

感情を理解する方法

感情を理解する方法として、感情日記と認知再構成法を紹介します。

感情日記

自分の感情の理解度を上げるには、感情日記はオススメです。その日に経験した感情を思い出し、言葉で表現します。ノートやスマホのメモなどを利用します。一行でも構いません。「うれしかった」「イラッとした」など一言でも構いません。

続けているうちに、「上司はいつも気にかけてくれている。その気遣いがうれしい」「あの営業は仕事が雑で毎回尻拭いさせられる。軽く見られているようでイラッとする」のような文になっていきます。感情の解像度が上がっていきます。

認知再構成法

認知再構成法は、認知行動療法の技法の一つです。自分をつらくさせる偏った思考に気づき、現実的な思考を選択する技法です。自分の感情だけではなく、パートナーの感情の理解にも役立ちます。

実例を見るのが早いと思います。

出来事思考・解釈・意味感情
帰宅した夫は私の挨拶に応えなかった私の存在を無視している
私を大切に思っていない
私に怒っている
悲しい
さびしい
こわい
食事中、夫は私の問いかけに返答しなかった私の話を聞く気がない
私に興味がない
私に怒っている
私を大切に思っていない
さびしい
悲しい
こわい
不安
夫は玄関のドアを乱暴に閉めた私に怒っている
私の存在を無視している
こわい
悲しい
認知再構成法の例

相互理解に至らない会話では、「出来事」と「感情」しか言葉にされていません。「あなたは私の挨拶をスルーした」と「出来事」だけを話す例もあります。「スルーした」「悲しい」より、「スルーした」「私をどうでもいいと思っている」「悲しい」のほうが、より伝わると思いませんか。

伝える前に言語化です。その「出来事」があったとき、どのような考えが頭に浮かんだのか(思考)、どのように受け取ったのか(解釈)、それは自分にどのような意味があるのか(意味)を言葉にします。最初はむずかしいと思います。それでも、がんばります。

この枠組みが定着すると、他者の考えや気持ちを推測しやすくなります。相手の感情の理解力も高まります。

こうして明確になった自分の感情を「私は(自分の感情)と感じる」という形で伝えます。私が主語なのでアイメッセージと呼びます。アイメッセージを始めとするコミュニケーションについては、以下のシリーズで詳しく説明しています。

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