【メタメッセージ】親密さと関係を育てるコミュニケーション(8)

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

夫婦・カップルのコミュニケーションに問題が生じる原因には様々なものがあります(このシリーズの投稿一覧参照)。メタメッセージもその一つです。メタメッセージが異なると、同じ言葉でも意味がまったく異なる場合があります。

メタメッセージとは、状況や文脈、身振りや口調などの非言語メッセージのことです。詳しくは文中で紹介します。

メタメッセージの違いが夫婦のコミュニケーション不全の原因になる例

メタメッセージと言語メッセージ

夫婦・カップルの会話において、「相手に自分の気持ちが伝わっていない」、「なぜか話がうまくいかず、すれ違ってしまう」と感じたり、「ちょっとした言葉でも相手がイライラしているように見える」のは、メタメッセージの違いが原因となっている可能性があります。

例えば、「今日は寒いね」という言葉自体は、ただ気温が低いという事実を述べているだけです。しかし、話し手の声のトーンや表情、状況によっては、

  • 「暖房をつけてほしい」
  • 「一緒に温かいものを飲みに行こう」
  • 「あなたの服装、薄着じゃない?」

など、様々な意味合いを持つことがあります。

例えば、「疲れているみたいだね」という言葉は、ただ相手の状態を述べているように見えますが、その背景や言い方によっては、

  • 「休んだ方がいいよ」という気遣い
  • 「ちゃんと家のことをやってほしい」といった不満

などの意味を持つことがあります。

もう一つ例をあげます。「どこに行ってたの?」という言葉は、言葉は単なる事実確認のように聞こえますが、

  • 「心配していたんだよ」という愛情
  • 「信用していない」といった疑い

などの意味を持つことがあります。

これらのように、同じ言葉でも状況や文脈によって意味が変わることがあります。メタメッセージを理解することで、夫婦間のコミュニケーションの誤解を減らすことが可能になります。

改めて「メタメッセージ」とは

メタメッセージの意味を辞書で調べると、「あるメッセージがもっている本来の意味をこえて、別の見方・立場からの意味を与えるメッセージ」と記されています(デジタル大辞泉 (C)SHOGAKUKANN 2008)。

言葉の表面的な意味を超え、その背景や周辺情報から伝わる「隠されたメッセージ」と言い換えることができます。日常の会話において、ただ話している言葉だけではなく、その言葉に関連する多くの要素が実際のコミュニケーションに影響を与えています。

メタメッセージを構成する要素

  • 非言語的要素
    • 声のトーン:柔らかいトーンで「ありがとう」と言う場合と、無愛想に同じ言葉を言う場合では、相手に伝わる感情は大きく異なります。
    • 表情と態度:笑顔で「今日は大丈夫」と言うのと、無表情で言うのとでは、相手が受け取る意味が異なることが多いです。
    • ジェスチャー:手を振りながら「またね」と言うとき、その仕草には友好的な気持ちがこもっていることが多いです。
  • 文脈や状況
    • 会話の背景:どのような状況でその言葉が発せられたか。たとえば、急いでいるときに「手伝ってくれる?」と言われた場合、それは切迫した要望として受け取られやすくなります。
    • 関係性:発言者と受け手の関係性もメタメッセージに大きな影響を与えます。同じ「もう一度確認してほしい」という言葉でも、上司が部下に言う場合と、同僚同士で言う場合では、ニュアンスが違ってきます。
    • 過去のやり取り:過去に何があったかによってもメッセージは変わります。例えば、以前に言い争いをした直後に「本当に大丈夫?」と聞くと、その言葉は心配ではなく疑念として受け取られることがあるかもしれません。

メタメッセージの役割と注意点

メタメッセージは、言葉だけでは伝えきれない感情やニュアンスを補足し、相手とのつながりを深める役割を持っています。「お疲れさま」の一言でも、その場の雰囲気、言い方、タイミングなどが、相手にどう受け取られるかを大きく左右します。

メタメッセージは、言葉だけでは伝えきれない感情やニュアンスを補足しますが、一方で、メタメッセージに頼りすぎることは、相手に察することを求めることになります。ときには自分の伝える責任を相手に転嫁することにもなりかねません。

また、発達障害の人は、メタメッセージを読み取る力が弱いことが少なくありません。発達障害のパートナーに大使邸は、メタメッセージに頼るのではなく、言葉で明確に表現することが求められることが多いです。

メタメッセージが大きな影響を持つ会話のテーマ

メタメッセージによるコミュニケーション

メタメッセージは、感情や関係性が重要になる場面、あるいは言葉だけでは伝えきれないニュアンスが必要な状況で大きな影響を持ちます。特に、恋愛や謝罪、社交の場面では、非言語的な要素が言葉以上に相手に伝わり、関係性に大きな影響を与えます。

  • 感情を伝える場面
    • 恋愛や親密な関係での会話:視線、表情、声のトーンが言葉以上に重要です。
    • 謝罪の場面:ただ「ごめんなさい」と言うだけでなく、表情や声のトーンが本気度を伝える。
  • 対人関係の調整や交渉
    • 人間関係のトラブルや仲直り:表情や態度が言葉以上に、相手への誠意や気持ちの変化を伝えます。
    • 上司と部下の関係:叱責や指導の際、声のトーンや態度が厳しさや本音を伝えます。
  • 文化的な礼儀や社交の場面
    • あいさつやお礼:状況や表情次第で、相手への敬意の度合いが変わります。
    • 社交の場面(パーティーや集まり):服装や立ち居振る舞い、声のトーンが配慮や気遣いを示します。
  • 不確実な状況でのコミュニケーション
    • 曖昧な依頼や指示:表情や態度から「察する」ことが求められることがあります。
    • お見舞いや弔事などの場面:沈黙や表情が相手の心情に寄り添うために重要です。
  • 教育や指導におけるメッセージ
    • 幼児や子どもとのコミュニケーション:表情や態度を通じて感情や意図を読み取らせることが大切です。
    • チームビルディングやリーダーシップ:リーダーが行動や態度で模範を示すことで、信頼感を高めます。

言語が大きな影響を持つ会話のテーマ

言葉によるコミュニケーション

言葉による情報の重要性が高まるのは、正確さや具体性が求められる場面です。専門的な会話や教育、法律、技術、緊急時などでは、曖昧なメタメッセージに頼ることがリスクを伴うため、言葉が中心になります。

  • 専門的な会話・仕事の場面
    • ビジネスの会議やプレゼンテーション:具体的なデータ、数値、計画の詳細などを正確に伝える必要があります。曖昧な表現や非言語的な要素に頼ると誤解が生じる可能性が高いため、明確な言葉での説明が不可欠です。
    • 医療現場での説明:診断や治療方法、薬の使用方法などを正確に伝える必要があります。非言語的なサインだけでは患者に正確な情報を伝えられません。
  • 法律や契約に関する会話
    • 契約交渉や法律相談:契約書や法的な取り決めについては、言葉の使い方が厳密でなければなりません。誤解や曖昧さを避けるために、定義が明確な言葉が多用されます。
    • 裁判の場面:法的な証拠や証言は、言葉による正確な記述が重視されます。非言語的な要素も影響を与えることはありますが、最終的には言葉の内容が判断の基準となります。
  • 教育・学習の場面
    • 授業や講義:理論や概念の説明には正確な言葉が必要です。学ぶ側も言葉で説明された内容を理解し、記憶する必要があります。
    • 取扱説明書やマニュアルの解説:手順や使い方を説明する場面では、わかりやすく正確な言葉が不可欠です。言葉が曖昧だと、誤解によるミスが発生する可能性があります。
  • 技術的・科学的なコミュニケーション
    • エンジニアリングやプログラミングの会話:技術的な仕様や設計に関する説明では、専門用語や定義が正確に使われることが求められます。
    • 研究発表や論文:科学的な成果を伝える場面では、言葉での説明が中心です。明確で具体的な言葉が使われないと、誤解や疑念が生じます。
  • 緊急時や危機管理の場面
    • 災害時の指示や警告:正確な言葉での指示が必要です。曖昧な表現や非言語的なメッセージに頼ると、混乱や危険が生じる可能性があります。
    • 医療の緊急対応:救命処置の場面では、短い言葉での明確な指示が求められます。非言語的なコミュニケーションでは対応が遅れる危険があります。

メタメッセージの誤解を避けるためにできること

身も蓋もありませんが、メタメッセージにより意識的になることです。

メタメッセージを意識する習慣

相手の反応を観察し、自分の伝え方がどのように受け取られているかを振り返ります。相手が自分の言葉をどのように感じているかに敏感になることで、誤解を未然に防ぎやすくなることが期待できます。

意図を直接的な言葉で補足する

メタメッセージを明確にするためには、自分の意図を直接的な言葉で補足することが効果的です。例えば、「今の言い方で不快にさせてしまったかもしれないけど、その意図はない」といった言葉を使うことで、誤解を防ぎやすくなります。

その都度確認する

都度、理解の確認を行います。例えば、「あなたが感じていることをもっと知りたい」とか「今の話で気になったことはある?」といった確認の言葉を使うことで、相手が自分の言葉をどのように受け取ったかを確かめることができます。お互いの理解を深め、誤解を減らせるはず。

話し合いの環境を整える

また、誤解を避けるためには、お互いが落ち着いて話し合える環境を作ることも大切です。やり残した仕事や家事など、気がかりなことがある状態では会話に集中できません。焦りが言葉足らずをもたらしがちです。コミュニケーションがむずかしくなっている場合は、他の一切を脇に置いて、会話に集中できる時間を設けることが有効です。夫婦・カップルカウンセリングの意義の一つは、会話に集中できる環境を持つことでもあります。

まとめ

夫婦・カップルのコミュニケーションにおいて、メタメッセージは重要な役割を果たします。言葉そのもの以上に、その背後にある声のトーンや表情、状況などの要素が、相手にどう受け取られるかを大きく左右します。特に、感情や関係性が絡む場面では、メタメッセージが誤解を招くことが多く、コミュニケーションの不全に繋がることがあります。

メタメッセージを意識的に理解し、相手の反応を観察することで、誤解を減らすことが可能です。また、意図を言葉で補足することや、その都度確認を取ることも、メタメッセージの誤解を防ぐ有効な手段です。さらに、話し合いの環境を整えることで、お互いが落ち着いてコミュニケーションに集中できる場を作ることも大切です。

メタメッセージを上手に扱うことで、夫婦・カップル間の理解が深まり、信頼関係の強化につながります。非言語的な要素に対して敏感になり、意図を明確に伝える姿勢を持つことで、より良いコミュニケーションを築いていくことが期待できます。

タイトルとURLをコピーしました