前回は、アサーティブコミュニケーション(自分も相手も尊重するコミュニケーション)と、その第一歩目として、アイメッセージ(私を主語にして気持ち・考えを伝える言い回し)を紹介しました。今回は、自分の気持ちや考えを言語化するための「自分自身との対話」がテーマです。
アイメッセージの復習
前回の復習です。
【アイメッセージ】親密さと関係を育てるコミュニケーション(2)
以下の2つのメッセージは同じ意味を伝えようとするものです。「部屋が散らかったままでは落ち着かない。使ったら片づけてほしい」です。
- (あなたは)何でいつも散らかしっぱなしやの?
- (私は)片付いてると落ち着けるねん。一緒に片づけて。
1.はユーメッセージ(You message)です。「あなた」が主語の表現です。相手の行動を批判する形になりやすいため、相手の反発を招きやすい表現です。
2.はアイメッセージ(I message)です。「私」を主語にして、気持ちや考えを表現しています。相手が受け止めやすい表現です。「私は + 考え・気持ち」という表現を使う方法です。
- ユーメッセージ:あなた + 行動・発言
- アイメッセージ:私 + 気持ち・考え
アイメッセージを使用することで、自分の感情やニーズを明確に伝えつつ、相手に攻撃的にならずに済むため、夫婦間での理解と協力が促進されます。
そのためには、自分の気持ちや考えを言語化する必要があります。得意な人と苦手な人がいます。
ABCで考える

言語化をサポートするツールとして、論理療法のABC理論を紹介します。
同じ出来事(A)が起きても、人によって生じる感情(C)は異なります。その違いは、人によって受け取り方・考え(B)が異なるからです。それを示しているのが上図です。
上図からわかるように、感情(気持ち)は単語で表現されます。考え(受け取り方)は文で表現されます。
出来事(A)が入口になります。感情(C)の言語化は比較的簡単です。考え(B)の言語化がむずかしいです。「そのとき、どのようなことが頭に浮かんだのだろう?」「その後、どうなるのを避けたかったのだろう」など、自分に質問を投げかけて言葉にしていくのがオーソドックスなやり方です。
いくつか例をあげておきます。
- 【出来事(A)】パートナーが重要なイベントを忘れた
- 【考え(B)】パートナーは私の大切なことを気にかけていないかもしれない
- 【感情(C)】落胆、孤立感
- 【出来事(A)】パートナーが会話中にスマートフォンをいじり始めた
- 【考え(B)】私の話に興味がないのではないか
- 【感情(C)】無視されていると感じる、怒り
- 【出来事(A)】家事を手伝ってもらえなかった
- 【考え(B)】私は一人ですべてを抱えていると感じる
- 【感情(C)】疲れ、不公平感
多少の面倒くささはありますが、少なくともコツをつかむまでは、紙に書いて考えるのが望ましいです。紙に書くことで、気持ちや考えから距離を取ることができます。客観的な視点を持ちやすくなったり、冷静さを取り戻しやすくなります。
考えの偏り
人には考え方のクセがあります。不快な感情が生じたとき、そのように感じるのはもっともだ、という場合があれば、偏った受け取り方をしている場合もあります。考え方・受け取り方の偏りの代表7つを紹介します。
- 一般化のしすぎ
- 個人化
- 根拠がない推論
- 白黒思考
- べき思考
- 過大評価と過小評価
- 感情的決めつけ
一般化のしすぎ
1つの失敗やイヤな出来事があると、「いつも〜だ」「すべて〜だ」のように一事が万事と考えます。一滴のインクが全体を黒くしてしまうかのようです。レッテルを貼るのは一般化の極端な例です。
- 【例】仕事でミスをした ⇒ ビジネスパーソン失格、人として劣っている
- 【対処】失敗や出来事を抽象的ではなく具体的に評価する(「この仕事はうまくいかなかった」「他の仕事は概ねうまくやっている」)
個人化(自己関連づけ・自己批判)
何か良くないことが起こったとき、自分に関係のないことまで自分の責任にしてしまいます。
- 【例】上司の機嫌が悪そう ⇒ 何かミスをしてしまったのだろうか?
- 【対処】他の人にも同じような態度をとっているか観察する。思い切って話しかけてみる。
根拠がない推論(早とちり・視野狭窄・マインドリーディング)
明確な証拠があるわけではないのに悲観的な結論を出してしまいます。過去の似たような経験が、現状を客観的に見えにくくしています。
- 【例】「私が悪いことをしたに違いない」「やっぱり嫌われている」「そうに決まってる」
- 【対処】「スローダウン」「根拠は?」「見落としていることは?」「いいことは起こらなかった?」「相手はどんな風に行動した?」
全か無か思考(白黒思考)
ものごとを白か黒かのどちらかで考えます。グレーゾーンを認めない考えです。
- 【例】少しでもミスがあれば完全な失敗と考える。90点も0点も同じだ。
- 【対処】重要でないことはグレーを許容していることが多い。それで問題が起きてないことを知る。思い出す。
べき思考
「~すべき」「〜しなければならない」と考えます。そうしないと罰でも受けるかのように感じ、罪の意識を持ちやすい。他人に向けると怒りや葛藤を感じます。
- 【例】人に不快感を与えてはいけない、いつも朗らかであるべき、男は常に強くあるべき
- 【対処】「〜すべき」を「〜したほうがよい」に変えてみる。
過大評価と過小評価
自分の欠点や失敗を過大に考え、長所や成功を過小評価します。逆に他人の成功を過大に評価し、他人の欠点を見逃します。
- 【例】同じミスをしても、他人には寛大なのに、自分には厳しい評価をする。
- 【対処】「目の前にもう一人の自分がいたら、なんて声をかけるだろう」と想像してみる。
感情的決めつけ
客観的事実ではなく、自分がどのように感じているかを手がかりに状況を判断します。根拠がない推論の一部です。
- 【例】友だちが中々できなくてさびしい。今後、友人ができることはないだろう。
- 【対処】感情が高ぶっているときは決断を先延ばしする。決断は感情が落ちついてから。
思考の偏りに気づくには、思考を紙に書いて、距離置いて眺めるのが役に立ちます。誰かに話を聴いてもらって、フィードバックを得るのも有効です。相手に気持ちを伝えるのと同時に、偏りのセルフチェックを行うとより望ましいです。
ただし、自力で偏りに気づいて修正するのは難易度が高いです。そのためにカウンセリングが存在します。Webや書籍の情報だけでは取り組むのが困難なときは、カウンセリングをご検討下さい。
怒りの対処
すべての感情に良し悪しはなく、何らかのサインに過ぎません。しかし、怒りは扱うのがむずかしいと感じる人が多いと思います。実際に、怒りをコントロールできずに関係を悪化させる例は少なくありません。
怒りは脅威を感じたときに生じる感情です。不当な扱いを受けたと感じたとき。闘争逃走反応のように緊急事態に陥ったと感じたとき。境界を超えて自分のスペースが侵害されたと感じたとき。不公平や不正、不正義に対する反応として生じることがあります。
感情には、第一次感情と第二次感情があり、多くの怒りは第二次感情であるとする考え方があります。
【第一次感情】直接的な、即座の感情反応で、特定の出来事や状況に対して自然に生じる感情です。例えば、愛や喜び、驚き、恐怖などがこれに当たります。
【第二次感情】第一次感情に対する反応として生じる感情です。第二次感情は、第一次感情に基づいているが、より複雑で、しばしば社会的な状況や個人的な解釈によって形成されます。例えば、恥や罪悪感、怒りなどがこれに含まれます。
イライラしやすい人は、イライラを生む第一次感情に焦点を当てて、言語化することを望まれます。相手にアイメッセージで伝えるべき感情は第一感情です。以下に例をあげておきます。
- 【出来事(A)】パートナーが重要なイベントを忘れた
- 【考え(B)】パートナーは私の大切なことを気にかけていないかもしれない
- 【第一次感情】落胆、孤立感
- 【第二次感情】怒り
- 【出来事(A)】パートナーが会話中にスマートフォンをいじり始めた
- 【考え(B)】私の話に興味がないのではないか、無視されている
- 【第一次感情】悲しい、さびしい
- 【第二次感情】怒り
- 【出来事(A)】家事を手伝ってもらえなかった
- 【考え(B)】私は一人ですべてを抱えていると感じる
- 【第一次感情】疲れ、不公平感
- 【第二次感情】怒り
平たく表現すると、「こんなにがっかりさせて!」「こんなにさびしい想いをさせて!」と怒ってしまうわけです。アイメッセージを使っていても、伝える感情は常に怒りの場合、まだ言語化が足りていないと思って下さい。
まとめ
- アイメッセージの復習(アイメッセージ(私+気持ち・考え)とユーメッセージ(あなた+相手の言動))。
- 気持ちと考えを言語化するために自分自身と対話しましょう。論理療法のABC理論をツールとして紹介しました。
- コミュニケーションを妨げる思考のクセの7つと簡単な対処法を紹介しました。
- 悲しさやつらさなどを怒りで表現すると伝わりません。怒りの対処について紹介しました。