【DESC法】親密さと関係を育てるコミュニケーション(4)

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

複数回に分けてコミュニケーションを取り上げているのは、コミュニケーションは人間関係の根幹をなす要素だからです。しかしながら、コミュニケーションのスキルは、家でも学校でも習いません。悩む人が多いのは当然だと思います。

これまでの簡単な振り返り

前回までの内容と簡単に振り返ります。

1回目:仲の良さ≠関係の良さ

夫婦関係における「仲の良さ」と「関係の良さ」について述べました。仲の良さは親密さを、関係の良さは敬意と協力を意味します。健全な夫婦関係を築くには双方が求められます。双方を育てるには、お互いの結婚観や家族観を理解し、公平性を保ち、効果的にコミュニケーションを取ることが重要です。

【仲が良い ≠ 関係が良い】親密さと関係を育てるコミュニケーション(1)

2回目:アイメッセージ

コミュニケーションには、攻撃的、受動的、アサーティブコミュニケーションの3つの型があります。アサーティブコミュニケーションは、相手も自分も尊重するコミュニケーションです。夫婦関係を育てて発展させるには、アサーティブコミュニケーションが望ましいです。

アサーティブコミュニケーションの第一歩目として、アイメッセージを紹介しました。「私は」という言葉で始まり、自分の気持ちや考えを直接的に伝えることに焦点を当てています。「あなたは」で始まるコミュニケーションの弊害についても述べています。

【アイメッセージ】親密さと関係を育てるコミュニケーション(2)

3回目:自分自身との対話

自分の気持ちや考えを伝えるには、自分の感情や考えを言語化する必要があります。当たり前のことですが、これを苦手にしている人がいます。

3回目は、自分の感情や考えを言語化するための具体的な方法を提案しました。ABC理論を用いて、自分の気持ちや考えをより明確にする方法です。また、思考の偏りや、それによるコミュニケーション上の問題とその対処方法についても説明しました。

【自分自身との対話】親密さと関係を育てるコミュニケーション(3)

聴いてもらうには工夫が必要

心に思い浮かんだことを次から次へと話し続ける人がいます。本人は話すことでスッキリしているかもしれません。しかし、相手にとっては、話しが長くなればなるほど、何を伝えたいのか、何を共有したいのか、理解するのがむずかしくなります。

それが繰り返されると、相手はうんざりして、適当に聞き流したりして、それでも続くようであれば、苛立ちを隠そうともせずに、「勘弁して」と聴くことを拒否するかもしれません。

聴いてもらう工夫には色々ありますが、ここでは伝え方に絞って紹介します。他の色々は「コミュニケーションの仕組み編」として、後日このシリーズで紹介します。

アサーティブコミュニケーションのDESC法

心に思い浮かんだことを次々に話すのは、本人自身が伝えたいこと、伝えるべきことを整理できていない、明確になっていない場合が多いようです。聴いてもらうには、ある程度整理して、伝えたいことを明確にする必要があります。

その方法として、DESC法を紹介します。があります。これは、以下の4つのステップから構成されています。

  1. Describe(記述する・描写する):事象・事実を具体的に記述
  2. Express(気持ちを表現する):それに対する感情を表現
  3. Specify(具体的に提案・要求する):相手に望むことを提案
  4. Consequences(結果)・Choose(選択する

それぞれのステップについて説明します。

Describe(記述する・描写する)

このステップでは、対象の行動や状況を具体的かつ客観的に記述します。感情や評価を交えずに、事実のみを述べることが重要です。例えば、

「昨日のミーティングで、あなたは私の提案に対して何もコメントしなかった」

というように、具体的な状況を述べます。

Express(気持ちを表現する)

自分の感情や考えを正直に表現します。ここで、アイメッセージです! このためにアイメッセージの記事を書いたと言っても過言ではありません。4つのステップを説明していますが、まずはここまで出来れば上々です。

「私はあなたが私の提案に反応しなかったことに、不安を感じています」

といったように、自分の内面を素直に伝えます。この段階では、自己の感情に責任を持ち、相手を非難する言葉は避けることが肝心です。

自己の感情に責任を持つとは、自分が何を感じているのかを正確に認識し、それを適切に表現することです。

例えば、「私は怒っています」と言うのではなく、「この状況は私を不安にさせます」と表現することです。怒りは第二次感情であり、不安などの第一次感情から生じるものであると、以下の投稿にて説明しています。

【自分自身との対話】親密さと関係を育てるコミュニケーション(3)

Specify(具体的に提案・要求する)

望む変化や具体的な行動を明確に示します。例えば、

「今後のミーティングでは、私の提案に対するあなたの意見を聞かせてほしい」

といった具体的な要求をします。このステップでは、具体的で達成可能な目標を設定することが大切です。あいまいな提案(認識の違いが起こりやすい)や大きな要求(達成困難で互いに失望する)は避けます。

Consequences(結果)・Choose(選択する)

提案した変化がもたらす肯定的な結果や、変化がなかった場合の負の影響を説明します。例えば、

「そうすれば、私たちはより効果的にプロジェクトに取り組むことができ、チームとしての成果も向上するでしょう」

といったように、ポジティブな結果を提示します。

自分も尊重するコミュニケーションですから、相手には提案・要求にNoを言う権利があります。Noが帰って来た場合には、Eに戻って新たな提案・要求を行うことになります。

DESC法の例

週末の朝、キッチンでコーヒーを飲んでいる夫婦の会話という設定で、DESC法の例を示します。

妻(Describe – 記述
「太郎さん、少し話があるの。最近気付いたんだけど、家事をする時、大体いつも私一人でやっていることが多いのよ。たとえば、昨日の夜も、私が洗濯と掃除をしている間、あなたはソファでリラックスしていたわね。」


「うん、そうだね。でも、どうかしたの?」

妻(Express – 表現
「正直言うと、その状況を見ると、私はとても疲れているのにあなたは手伝ってくれないと感じて、悲しくなるの。私一人で家事をするのは大変だし、時には支えられていないように感じるわ。」


「そんな風に思っていたなんて知らなかったよ。ごめんね」

妻(Specify – 具体化
「ありがとう。私の提案としては、これからは夕食の準備をする時、あなたも何か一つ手伝ってくれたらいいと思うの。たとえば、野菜を切るとか、テーブルのセットをするとか。」


「なるほど、そういうことか。それならできるよ」

妻(Consequences – 結果
「それを聞いて安心したわ。そうすれば、私も少しは楽になれるし、私たち二人で協力して家を整えることで、もっと家庭が温かい雰囲気になると思うの。それに、二人でやれば料理ももっと楽しくなるわよ。」


「確かに、そうだね。これからは手伝うようにするよ。一緒にやれば、もっといい時間が過ごせそうだね」

まとめ

  • 前回までの振り返り。
    • 夫婦には、仲の良さ(親密さ)と関係の良さ(尊重・協力)が必要。
    • 適切な気持ちの伝え方としてアイメッセージを紹介。
    • 気持ちと考えを言語化するツールとしてのABC理論。
  • 頭に思い浮かぶまま次々に話すのは相手にとって時に苦痛。
  • 伝えたいことを整理する方法としてDESC法を紹介。
    • D:事実のみ記述・描写
    • E:気持ち・考えをアイメッセージで
    • S:提案・要求する
    • C:ポジティブな結果を示す・相手は選択の権利がある
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