【共感的な聴き方】親密さと関係を育てるコミュニケーション(6)

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

前回まで、話し方に焦点を当てて進めてきました。コミュニケーションは、話し手と聴き手がいて成立します。今回は聴き手に焦点を当てます。

共感的理解の重要性

「聞く」と「聴く」

「傾聴」という言葉に象徴されるように、我々カウンセラーは、「聞く」ではなく「聴く」を好んで用います。

「聴」の文字は、「耳」と「十四」と「心」から成ります。単に音を耳で捉えるだけでなく、心を使って理解し、感じ取ることと解釈されています。

「聞く」とは、音や言葉を耳で感じ取ることを指します。日常的な会話情報の受け取りに広く使われる表現です。

「聴く」とは、より深い注意を払い、意識的に相手の話を理解しようとする行為を表します。感情思考も理解の対象に含まれます。

音楽も「聞く」より「聴く」です。「聞いているけど、聴いていない」という表現も成立しそうです。

共感的な姿勢が関係を育む

人は誰しも、理解され、受け入れられることを深く求めています。特に夫婦においては、共感が重要な要素となります。

共感とは、相手の立場に立てば、相手がそのような気持ちになることを理解している状態です。相手と同じように感じる(同感)ことではありません。

カウンセラーの教科書には、「共感的理解」と記されていることが多いです。「共感って何?」「共感なんて無理」という人がいます。そう思う人は、理解を意識して下さい。

相手の心情をより理解しようとする姿勢は、信頼と安心を育みます。信頼と安心は、単に仲が良いだけではなく、時には価値観の違いによる衝突が起きても、お互いが納得できる着地点にたどりつける関係の土台となります。

共感的な聴き方の基礎

共感的な聴き方の基礎として「積極的な姿勢」と「何を理解するのか」の2つを上げたいと思います。

積極的な姿勢

先に「聞く」と「聴く」の違いを説明しました。ここで出てくるのは「訊く」です。「たずねて、答えを求める」すなわち「質問する」という意味があります。

傾聴には、受動的傾聴積極的傾聴があります。受動的傾聴とは、相手の言葉に耳を傾けて、受け止めることです。「聴く」が受動的傾聴に相当します。

積極的傾聴とは、相手の意図と自分の理解にズレがないかを確認したり、「それはどういうこと?」と掘り下げて話すように促すことです。「訊く」に相当します。質問によって行います。

相手の話をただ受け止めるだけでなく、「それは〜ということ?」と確認したり、「詳しく説明して」と先を促すのは、もっと理解したいという積極的な姿勢の表現です。それは共感的な姿勢でもあります。

何を理解するのか

論理と感情の両方の理解が求められます。

人は自分が話すように聴きます。論理が優位な人は、聴くときも論理に重点が偏りがちです。感情が優位な人は、感情に重点が偏りがちです。

意識しなければ、スレ違いを繰り返してしまいます。そして、会話がなくなっていくのがパターンの一つです。

論理と感情の両方の理解を促進するツールとして、【自分自身との対話】親密さと関係を育てるコミュニケーション(3)にて紹介した、ABC理論をおすすめします。

ABC理論

【B 考え(受け取り方)】が論理に、【C 結果(感情)】が感情に相当します。

例を示します。

【A 出来事】
夫が約束した家事をしない

【B 論理】
話し合って決めたことを軽く見ている
(私を軽く見ている)

【C 感情】
悲しい、苛立ち

聴き手は【B 論理】と【C 感情】の両方の理解に努めます。話してが両方の言語化に努めることとその方法は以下の投稿で説明しました。

聴き手の場合も話し手と同様、上記を頭に置いて聴きましょう。頭の中に聴き方のフレームがあると、どの方向に話を進めれば良いかの指針になります。漠然と聴くより良い会話になるはずです。

ぜひ、お試し下さい。練習して下さい。

アサーティブに聴く

アサーティブコミュニケーションとは、相手も自分も尊重する・大切にするコミュニケーションです。

聴く話をすると、相手が満足するまで聴かなければならないのか、とか、異議を唱えてはいけないのか、などと誤解されることがあります。それは、自分を尊重していないので、アサーティブではありません。

話を聴くのは負荷が高い行動です。疲れがたまっているときには、聴けないこともあります。強い感情を向けられるのは、他人に対する感情であっても、大きな負荷がかかるものです。

そのようなときには、「疲れているので明日以降にしてほしい」「感情的になられると聞くのが辛い」と自己主張するのもアサーティブコミュニケーションです。

しかし、話し手が、「今話しておかなければ、次はいつになるかわらない」という気持ちでいると、「疲れている…」と言っても受け入れてもらえないかもしれません。

そのような事態を避けるには、話し合いの仕組みを作っておく必要があります。次回は仕組みについてです。

まとめ

  • 共感的に聴くとは相手の気持ちを理解すること
  • 積極的に質問する姿勢が共感性を高める
  • 論理と感情の両方を理解する
  • 聴けないときは聴けないと言うものアサーティブ
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