【話し合いの仕組み作り】親密さと関係を育てるコミュニケーション(7)

執筆者:山崎 孝
公認心理師・ブリーフセラピスト・家族相談士

ルールを話し合うカップル

これまで、コミュニケーションのスキルに焦点を当てて話を進めてきました。しかし、スキルだけでは十分ではない場合があります。忙しい時間帯に話し合いをするとき、食事の支度をしながらの会話、または他の作業をしているときなどです。

そうした状況では、気持ちが急いでいたり、イライラしやすかったりするため、安心して話すことがむずかしくなります。今回は、夫婦のコミュニケーションスキルを最大限に活かすための「話し合いの仕組み作り」について説明します。

前回の振り返り

前回は、誤解を招きやすい伝え方について説明しました。「いつも」「また」といった一般化する言葉や、怒りを込めた質問形式は、相手の防衛反応を引き出しやすく、建設的な対話を妨げます。非言語情報と言葉が矛盾するときは、言葉が伝わらないことも確認しました。

なぜ仕組みが必要なのか

スキルだけでは不十分

アイメッセージ、DESC法、共感的理解。これまで紹介してきたスキルは、どれも効果的な方法です。しかし、スキルを持っていても、それを使える環境がなければ意味がありません。

例えば、以下のような状況を想像してみてください。

  • 夕食の準備中に「ちょっと話があるんだけど」と切り出される
  • 仕事から疲れて帰宅した直後に重要な話を持ちかけられる
  • 子どもが騒いでいる中で話し合おうとする
  • 明日の準備をしながら真剣な話をする

これらの状況では、どんなにスキルがあっても、気持ちが急いでいたり、イライラしやすかったりするため、安心して話すことがむずかしくなります。これは、かえって関係を悪化させる可能性もあります。

仕組みがもたらすメリット

話し合いの仕組みを作ることで、以下のメリットが得られます。

  • 予測可能性が生まれ、心の準備ができる
  • 安心して本音を話せる環境が整う
  • 感情的になりにくくなる
  • 話し合いが習慣化し、問題が深刻化する前に対処できる
  • 「今話しておかなければ」という焦りが減る

仕組みがあることで、コミュニケーションスキルが本来の効果を発揮できるのです。

失敗例と成功例

失敗する話し合いのパターン:タイミングが悪い

妻は夕食の準備をしながら、「ちょっと話があるんだけど」と切り出しました。夫は仕事から帰宅したばかりで疲れています。妻は手が離せず、目も合わせられません。

夫は「今?」とイライラした口調で返します。妻も「いつなら聞いてくれるの!」と声を荒げます。結局、本題に入る前にケンカになってしまいました。

タイミングが悪い
  • 時間に追われている
  • 疲労している
  • 他の作業をしている
  • 集中できない環境

失敗する話し合いのパターン:ルールがない

週末の午後、夫婦で話し合いを始めました。最初は穏やかでしたが、妻の話が30分を超えても終わりが見えません。夫は「まだ続くの?」とうんざりした表情を見せます。妻は「ちゃんと聞いて!」と怒ります。

話し合いは1時間を超え、お互いに疲れ果て、何も解決しないまま終わりました。

ルールがない
  • 時間の制限がない
  • いつ終わるかわからない不安
  • 話すテーマが定まっていない
  • ルールがないため一方的になりやすい

成功する話し合いのパターン:話し合いの仕組みがある

この夫婦は、毎週土曜日の午前10時を「話し合いの時間」と決めました。

土曜の朝、リビングで向き合って座ります。お茶を用意して、スマートフォンは別室に置きました。時間は30分と決めています。

妻が今週気になったことを話します。夫は途中で口を挟まず、最後まで聴きました。妻の話が終わったら、夫が自分の考えを伝えます。

30分後、タイマーが鳴りました。すべて解決したわけではありませんが、お互いの考えがわかり、次にどうするかの方向性が見えました。

「来週また話そう」と言って、二人は笑顔でお茶を飲みました。

話し合いの仕組みがある
  • 時間と場所が決まっている
  • お互いに心の準備ができている
  • 環境が整っている(スマホなし、座って向き合う)
  • 時間制限があり、終わりが見える
  • 定期的なので「今話さなければ」という焦りがない

安全な話し合いの環境を作る

あるテーマについて検討するカップル

時間の枠を設定する

共働きや子育て中の家庭は、平日に話し合いの機会を持つのがむずかしいかもしれません。その場合、例えば、毎週土曜日の10時から30分間を話し合いの時間と決めて、スケジュール帳に記入します。

時間設定のポイント
  • 定期的にする(週1回、隔週など)
  • 時間を明確にする(30分、1時間など)
  • お互いのエネルギーレベルが高い時間帯を選ぶ
  • 終了時刻を守る(ダラダラ続けない)

何らかの作業中のとき、明日に備えてそろそろ寝なくては、など時間に追われている状況では、ちょっとしたことでもピリピリ・イライラしがちです。場が安全でなければ、心の内を安心して話すことができません。

話し合いに集中できる時間を設定・確保するのが望ましいです。

場所を選ぶ

場所選びも重要です。環境が話し合いの質を大きく左右します。

自宅で話し合う場合

リビングやダイニングテーブルが一般的です。以下の点を確認しましょう。

  • 向き合って座れるか
  • テレビやスマートフォンなどの気が散るものを遠ざけられるか
  • 子どもの声や生活音が気にならないか
  • リラックスできる環境か

ベッドルームは避けるのが無難です。休息の場所と話し合いの場所を分けることで、メリハリがつきます。

自宅以外で話し合う場合

カフェやファミレス、公園なども選択肢です。自宅ではヒートアップしやすい会話も、カフェなどオープンな場所では、落ち着いてできるものです。

  • カフェ:静かで落ち着いた雰囲気。ただし、個室でないため、込み入った話はしにくい
  • ファミレス:長時間座っていられる。ドリンクバーがあれば経済的
  • 公園:開放的で気分転換になる。天候に左右される
  • 散歩しながら:歩くことで緊張がほぐれる。目を合わせなくても話せる
場所選びのコツ
  • 普段と違う場所にすることで、特別な時間という意識が生まれる
  • 公共の場では、自然と声のトーンや言葉遣いに気をつけるようになる
  • 自宅でヒートアップしやすい夫婦には、外での話し合いが特に有効

テーマと目的を明確にする

テーマを明確にする

事前に、話し合いで取り上げたいテーマや目的を明確にしておきましょう。テーマや目的が不明確なまま話し合いを始めると、話が散漫になり、結局は何も解決せずに終わることがあります。

1回の会話の中で複数のテーマが話されると、聴き手はポイントの理解がむずかしくなります。話し手は理解されない。聴き手は理解できない。双方ともにストレスがたまり、ピリピリした空気になることがあります。

テーマを明確にするにはメモが有効です。これをテーマにしたいなあと思ったらメモしておきます。メモを読み返して、それについて何を話したいのか考えます。繰り返すと整理が進みます。テーマが明確になっていきます。

テーマの例
  • 家事の分担について
  • 子どもの教育方針について
  • 週末の過ごし方について
  • 親の介護について
  • お金の使い方について

1回の話し合いで扱うテーマは1つに絞るのが望ましいです。複数のテーマがある場合は、優先順位をつけて、次回以降に回します。

目的を設定する

話し合いの目的を定めることで、何に焦点を当てて、何を達成しようとしているのかが明確になります。

目的の例
  • お互いの考えを共有する(情報交換)
  • 問題の解決策を探る(問題解決)
  • 今後の方針を決める(意思決定)
  • 感情を整理する(感情の共有)

また、話し合いの目的を定める際には、期待される結果についても考えておきましょう。どのような結果が得られれば、話し合いが成功だと言えるのかを具体的に想像することで、目標に向かって話を進めることができます。

話し合いのルールを設定する

あるテーマについて一緒に検討するカップル

基本的なルール

話し合いのルールとは、例えば、「一人が話している間は他方は口を挟まずに聞く」「一度に話す時間を5分以内に制限する」などです。お互いに公平に話す機会を持ち、話が一方的にならないようにします。

基本的なルールの例
  • 一人が話している間は最後まで聴く(途中で遮らない)
  • 「私は」を主語にして話す(アイメッセージ)
  • 「いつも」「また」などの一般化した言葉は使わない
  • 相手の人格を否定する言葉は使わない
  • 時間を守る(開始時刻と終了時刻)
  • スマートフォンは見ない

怒りに関するルール

怒りが障害となっている夫婦の場合、怒りに関するルールを決めておくのが望ましいです。

自分の怒りの強さを10段階で評価します。7を超えると冷静な話し合いが困難と判断できるなら、5を超えそうなタイミングで相手にサインを出して、話し合いを中断するなどのルールを決めておきます。

怒りの中断ルールの例
  • 怒りレベル5以上で「タイムアウト」と言って中断
  • 中断したら10分間別室で過ごす
  • 深呼吸や水を飲んで落ち着く
  • 落ち着いたら再開する(または、次回に持ち越す)

ただし、怒りが障害となっている場合は、ある程度コントロールできるまでは、話し合いはカウンセリングの場だけにするというケースもあります。

ルールの目的は、これまでの投稿で紹介した、伝え方・聴き方を実行するためです。むずかしそうだなと感じる方は、最初はカウンセラーのサポートを得ながら構築していくことをオススメします。

よくある障害とその対処法

障害1:「忙しくて時間が取れない」

まずは月2回15分から始めましょう。短くても定期的に行うことが大切です。

15分でも、テーマを1つに絞れば十分に話し合えます。「家事の分担について15分だけ話そう」と決めれば、集中して話せます。

慣れてきたら、徐々に時間を延ばしていけばいいのです。最初から完璧を目指す必要はありません。

  • 第1段階:月2回15分(報告タイム)
  • 第2段階:週1回30分(話し合いタイム)
  • 第3段階:必要に応じて臨時の話し合い

障害2:「話し合いを持ちかけると相手が拒否する」

拒否する理由を聴きましょう。相手は「また責められるのではないか」と不安を感じているかもしれません。提案ではなく相談として持ちかけるのが効果的です。

「話し合いの時間を作りたい」(一方的な提案)

「二人で話す時間を作れたらいいなと思うんだけど、どう思う?」(相談)

相手の不安を理解し、一緒にルールを作ることを提案します。

  • 「責めるつもりは全くないんだ」
  • 「お互いの考えを共有する時間にしたい」
  • 「どんなルールがあれば安心して話せる?」

障害3:「話し合い中にヒートアップしてしまう」

中断のサインを決めておきましょう。「タイムアウト」「ちょっと休憩」など、お互いが使える言葉を決めます。

中断したら、必ず再開の約束もします。

  • 「10分後にまた話そう」
  • 「今日はここまでにして、明日の朝また話そう」
  • 「次の土曜日に改めて話そう」

再開の約束がないと、「逃げた」「話を放棄した」と受け取られる可能性があります。

怒りレベル評価シート(1-10段階)
  • 10:爆発寸前、物に当たりたい
  • 9:声を荒げている、相手を責めている
  • 8:イライラが顔に出ている
  • 7:冷静な話し合いが困難
  • 6:少しイライラしている
  • 5:落ち着いているが、やや緊張
  • 4:概ね落ち着いている
  • 3:リラックスしている
  • 2:とても穏やか
  • 1:完全に平静

ルール例: レベル5を超えたら「タイムアウト」と言って中断する

障害4:「一方的に話し続けてしまう」

タイマーを使いましょう。一人5分ずつ交互に話すなど、時間で区切ります。

スマートフォンのタイマーでもいいですが、キッチンタイマーのほうが視覚的にわかりやすく、お互いに時間を意識しやすくなります。

DESC法を使って事前に紙に書いておくのも効果的です。整理されているため、短時間で要点を伝えられます。

障害5:「毎回同じことの繰り返しで進展がない」

話し合いの記録をつけましょう。簡単なメモで構いません。

  • 日付 ・テーマ
  • お互いの主な意見
  • 決めたこと
  • 次回までにすること

記録を見返すことで、「ああ、この話は前にもした」「前回こう決めたのに実行していない」などがわかります。また、小さな進展も記録に残ります。「3ヶ月前と比べて、落ち着いて話せるようになった」という変化に気づけます。

まとめ

あるテーマについて対話しているカップル
  • コミュニケーションスキルがあっても、それを使える環境がなければ効果を発揮できません。忙しい時間帯や疲れているときに話し合うと、かえって関係を悪化させることがあります。
  • 話し合いの仕組みを作ることで、予測可能性が生まれ、心の準備ができます。定期的な時間と場所を設定し、テーマと目的を明確にすることが重要です。
  • 成功する話し合いには共通点があります。時間と場所が決まっている、環境が整っている、時間制限がある、定期的なので焦りがないことです。
  • 話し合いのルールを設定しましょう。一人が話している間は最後まで聴く、アイメッセージを使う、怒りレベル5で中断するなど、お互いが守れるルールを作ります。
  • よくある障害には対処法があります。忙しい場合は月2回15分から、相手が拒否する場合は理由を聴く、ヒートアップする場合は中断のサインを決めるなど、段階的に改善していきましょう。
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