これまで、コミュニケーションのスキルに焦点を当てて話を進めてきました。しかし、スキルだけでは十分ではない場合があります。忙しい時間帯に話し合いをするとき、食事の支度をしながらの会話、または他の作業をしているときなどです。
そうした状況では、気持ちが急いでいたり、イライラしやすかったりするため、安心して話すことがむずかしくなります。今回は、夫婦のコミュニケーションスキルを最大限に活かすための「話し合いの仕組み作り」について説明します。
前回の振り返り
前回は、誤解を招きやすい伝え方について説明しました。「いつも」「また」といった一般化する言葉や、怒りを込めた質問形式は、相手の防衛反応を引き出しやすく、建設的な対話を妨げます。非言語情報と言葉が矛盾するときは、言葉が伝わらないことも確認しました。
なぜ仕組みが必要なのか
スキルだけでは不十分
アイメッセージ、DESC法、共感的理解。これまで紹介してきたスキルは、どれも効果的な方法です。しかし、スキルを持っていても、それを使える環境がなければ意味がありません。
例えば、以下のような状況を想像してみてください。
これらの状況では、どんなにスキルがあっても、気持ちが急いでいたり、イライラしやすかったりするため、安心して話すことがむずかしくなります。これは、かえって関係を悪化させる可能性もあります。
仕組みがもたらすメリット
話し合いの仕組みを作ることで、以下のメリットが得られます。
仕組みがあることで、コミュニケーションスキルが本来の効果を発揮できるのです。
失敗例と成功例
失敗する話し合いのパターン:タイミングが悪い
妻は夕食の準備をしながら、「ちょっと話があるんだけど」と切り出しました。夫は仕事から帰宅したばかりで疲れています。妻は手が離せず、目も合わせられません。
夫は「今?」とイライラした口調で返します。妻も「いつなら聞いてくれるの!」と声を荒げます。結局、本題に入る前にケンカになってしまいました。
失敗する話し合いのパターン:ルールがない
週末の午後、夫婦で話し合いを始めました。最初は穏やかでしたが、妻の話が30分を超えても終わりが見えません。夫は「まだ続くの?」とうんざりした表情を見せます。妻は「ちゃんと聞いて!」と怒ります。
話し合いは1時間を超え、お互いに疲れ果て、何も解決しないまま終わりました。
成功する話し合いのパターン:話し合いの仕組みがある
この夫婦は、毎週土曜日の午前10時を「話し合いの時間」と決めました。
土曜の朝、リビングで向き合って座ります。お茶を用意して、スマートフォンは別室に置きました。時間は30分と決めています。
妻が今週気になったことを話します。夫は途中で口を挟まず、最後まで聴きました。妻の話が終わったら、夫が自分の考えを伝えます。
30分後、タイマーが鳴りました。すべて解決したわけではありませんが、お互いの考えがわかり、次にどうするかの方向性が見えました。
「来週また話そう」と言って、二人は笑顔でお茶を飲みました。
安全な話し合いの環境を作る

時間の枠を設定する
共働きや子育て中の家庭は、平日に話し合いの機会を持つのがむずかしいかもしれません。その場合、例えば、毎週土曜日の10時から30分間を話し合いの時間と決めて、スケジュール帳に記入します。
何らかの作業中のとき、明日に備えてそろそろ寝なくては、など時間に追われている状況では、ちょっとしたことでもピリピリ・イライラしがちです。場が安全でなければ、心の内を安心して話すことができません。
話し合いに集中できる時間を設定・確保するのが望ましいです。
場所を選ぶ
場所選びも重要です。環境が話し合いの質を大きく左右します。
自宅で話し合う場合
リビングやダイニングテーブルが一般的です。以下の点を確認しましょう。
ベッドルームは避けるのが無難です。休息の場所と話し合いの場所を分けることで、メリハリがつきます。
自宅以外で話し合う場合
カフェやファミレス、公園なども選択肢です。自宅ではヒートアップしやすい会話も、カフェなどオープンな場所では、落ち着いてできるものです。
テーマと目的を明確にする
テーマを明確にする
事前に、話し合いで取り上げたいテーマや目的を明確にしておきましょう。テーマや目的が不明確なまま話し合いを始めると、話が散漫になり、結局は何も解決せずに終わることがあります。
1回の会話の中で複数のテーマが話されると、聴き手はポイントの理解がむずかしくなります。話し手は理解されない。聴き手は理解できない。双方ともにストレスがたまり、ピリピリした空気になることがあります。
テーマを明確にするにはメモが有効です。これをテーマにしたいなあと思ったらメモしておきます。メモを読み返して、それについて何を話したいのか考えます。繰り返すと整理が進みます。テーマが明確になっていきます。
1回の話し合いで扱うテーマは1つに絞るのが望ましいです。複数のテーマがある場合は、優先順位をつけて、次回以降に回します。
目的を設定する
話し合いの目的を定めることで、何に焦点を当てて、何を達成しようとしているのかが明確になります。
また、話し合いの目的を定める際には、期待される結果についても考えておきましょう。どのような結果が得られれば、話し合いが成功だと言えるのかを具体的に想像することで、目標に向かって話を進めることができます。
話し合いのルールを設定する

基本的なルール
話し合いのルールとは、例えば、「一人が話している間は他方は口を挟まずに聞く」「一度に話す時間を5分以内に制限する」などです。お互いに公平に話す機会を持ち、話が一方的にならないようにします。
怒りに関するルール
怒りが障害となっている夫婦の場合、怒りに関するルールを決めておくのが望ましいです。
自分の怒りの強さを10段階で評価します。7を超えると冷静な話し合いが困難と判断できるなら、5を超えそうなタイミングで相手にサインを出して、話し合いを中断するなどのルールを決めておきます。
ただし、怒りが障害となっている場合は、ある程度コントロールできるまでは、話し合いはカウンセリングの場だけにするというケースもあります。
ルールの目的は、これまでの投稿で紹介した、伝え方・聴き方を実行するためです。むずかしそうだなと感じる方は、最初はカウンセラーのサポートを得ながら構築していくことをオススメします。
よくある障害とその対処法
障害1:「忙しくて時間が取れない」
まずは月2回15分から始めましょう。短くても定期的に行うことが大切です。
15分でも、テーマを1つに絞れば十分に話し合えます。「家事の分担について15分だけ話そう」と決めれば、集中して話せます。
慣れてきたら、徐々に時間を延ばしていけばいいのです。最初から完璧を目指す必要はありません。
障害2:「話し合いを持ちかけると相手が拒否する」
拒否する理由を聴きましょう。相手は「また責められるのではないか」と不安を感じているかもしれません。提案ではなく相談として持ちかけるのが効果的です。
「話し合いの時間を作りたい」(一方的な提案)
「二人で話す時間を作れたらいいなと思うんだけど、どう思う?」(相談)
相手の不安を理解し、一緒にルールを作ることを提案します。
障害3:「話し合い中にヒートアップしてしまう」
中断のサインを決めておきましょう。「タイムアウト」「ちょっと休憩」など、お互いが使える言葉を決めます。
中断したら、必ず再開の約束もします。
再開の約束がないと、「逃げた」「話を放棄した」と受け取られる可能性があります。
ルール例: レベル5を超えたら「タイムアウト」と言って中断する
障害4:「一方的に話し続けてしまう」
タイマーを使いましょう。一人5分ずつ交互に話すなど、時間で区切ります。
スマートフォンのタイマーでもいいですが、キッチンタイマーのほうが視覚的にわかりやすく、お互いに時間を意識しやすくなります。
DESC法を使って事前に紙に書いておくのも効果的です。整理されているため、短時間で要点を伝えられます。
障害5:「毎回同じことの繰り返しで進展がない」
話し合いの記録をつけましょう。簡単なメモで構いません。
記録を見返すことで、「ああ、この話は前にもした」「前回こう決めたのに実行していない」などがわかります。また、小さな進展も記録に残ります。「3ヶ月前と比べて、落ち着いて話せるようになった」という変化に気づけます。
まとめ





